絶対にあり得ません
「…………」
パトリシア様が、俯いて黙り込んでしまった。何か間違ったことをを言ってしまったのかしら。
「ねぇ……もし……もしわたくしが最初から殿下をお慕いしていなかったのなら、貴女はどうしたの?」
「……殿下と何かあったのですか?」
「そういうわけではないわ。仮定の話よ」
仮定の話ですか。良かった。殿下がパトリシア様を傷つけたのかと思ってしまったわ。
「そうですね……。どちらにせよ、変わらなかったと思いますよ? わたくし、殿下の婚約者になるつもりはありませんので。強いていえば、パトリシア様を積極的に応援しなくなるのではないでしょうか?」
どちらにせよ、当時は悪役令嬢ポジションではないかと考えていた。なのでどちらにせよ、攻略対象と睨んでいた殿下との婚約を望まない。
まあ、パトリシア様を隠れ蓑にして避けていたのでやりづらくはなるかもしれないけれど。
「……本当に?」
「ええ」
え、何故さらに傷ついた顔をするんですか?
わからない。
助けを求めようと、思わずメアリー様を見る。
メアリー様は少し考え込んでいた。
「……もう少し、違う方面から考えてみます? 例えば……結婚するならどんな方がいいです?」
結婚かぁ。そう考えた瞬間、最近では頭の隅に追いやられて考えていなかった前世での元カレを思い出してしまった。
「……わたくしは結婚は望みませんわ。いいえ。貴族令嬢たるもの、お父様の望むお相手となら結婚いたしますわ。けれどお父様はわたくしの意志に任せてくださっています。なのでお父様から言われるまでは、結婚する気はありません」
どうしても恋愛となると、元カレがチラつく。もう、顔も名前も思い出せないのに。やられたことはしっかり覚えているのが厄介だ。
そんなことも忘れていたら良かったのに。
「それは……政略結婚ならということですか?」
「そうですわ」
「仮に歳の離れた方の、後妻に入るとしても?」
「ええ。むしろその方が割り切れていいですわね」
高齢なら夫婦の営みもないだろうし。それこそビジネスライクな関係なら良い。
まあ年が近くても、愛人を囲ってくれて良いかな。好きでもない人とやりたくないし、ちゃんと政略相手として尊重してくれるならそれでいい。
虐げられたら、100倍にしてやり返して差し上げますけれども。
とはいえ、お父様がそんな相手を結婚相手になんて許さないと思う。家族大好きな人だから、わたくしが不利になったらむしろ全面戦争しそう。
「それこそ、恋バナでしたらメアリー様のお話が参考になるのではありませんか? わたくしはこの通り、ポンコツですので」
「それはなりません‼︎ わたくしはヘンリエッタ様のことを聞いているのです!」
「も、申し訳ありません」
パトリシア様を怒らせてしまった。やばい、本当にわたくしポンコツと化していますわ。
「ヘンリエッタ様! 本当に貴女は自分の気持ちに気づいていないようですから、言わせていただきますけれどね! 殿下への対応がだいぶ変わっていますわ! そこの心境の変化はどうなっているのですか?」
「……そうですわね。メアリー様から始まり、殿下とも会話するようになりましたわね」
「貴女、前は全力で殿下を避けていたでしょう?」
「パトリシア様……。流石に、協力を仰ぐのに避けていては人間性を疑いますわ。わたくし、いくらなんでもそこは弁えているつもりなのですけれど」
わたくしのこと、やはり非道な人間と思っていません?
「それは当然ですわ。ヘンリエッタ様がそこを弁えないなんてことなんてあり得ませんわ」
「は、はあ」
褒められてる? 貶されてる? どっち?
「わたくしが言いたいのは、殿下を貴女もお慕いしているのではないかということです。ここ最近の様子を見ていれば、殿下への特別な思いが芽生えてきていることはわかりますわ。……本当に気づいておられないのですか? それとも、気づかないふりをしているのですか?」
パトリシア様が唇を噛み締める。
一方で、わたくしは頭から冷水を浴びせられたような気持ちになった。
わたくしが、殿下を慕っている? 慕う? 恋情を持っていると?
あり得ない。
「それはあり得ませんわっ」
気がつけば、悲鳴のような声で叫んでいた。
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