コイバナとは?
パトリシア様の言ったことが理解できずに、首を傾げる。
鯉バナ? いや、魚の話してどうする。
故意華? なんのこっちゃ。
こいばな……コイバナ……恋……恋バナ⁉︎
ポンコツとなった頭が、遅ればせながら理解した。
いや、だって。あの深刻な状況からどうしてそんな、女子の大好きな話題になるというのか。
正反対すぎて、頭が回らなかった。
ということは。
「まあ……っ! パトリシア様、ついに殿下に積極的なアタックを始めますの⁉︎」
「「え……」」
「まあまあ! そうですわね! そろそろ殿下も婚約者候補を絞らねばいけませんからね。年齢で言えば、婚約者が決まってもおかしくありませんもの! まずは恋バナでアタック方法を模索しようということでしょう⁉︎」
「「…………」」
「あら……? 違いますの?」
てっきり予行演習的な感じかと思ったのだけれど。首を傾げて2人を見ていると、やがて脱力したようにパトリシア様は再びソファに座り込んだ。
メアリー様は苦笑いしている。
「それ、本心ですの? ああ、言わないでくださいまし。眼がもう本心だと言っていますわ。ねぇメアリー様、わたくしの勇気を返していただきたいですわ。そう思っても仕方ありませんわよね?」
「はい。パトリシア様に全面的に同意です。ヘンリエッタ様、それ、わざとではないんですよね? 人の機微に聡いのは演技ではできませんよね? もしかしてこれも演技ですか?」
なんだろう。この会話デジャヴ。殿下にも言われたわ。
おかしいですわね。最近調子が悪いわ。本当にお母様に教育し直していただこうかしら。
そんな考えも見抜かれているのか、パトリシア様はソファに倒れ込んでしまった。心配するわたくしをメアリー様が止める。
「ヘンリエッタ様、今はやめた方がいいかと。ええ。ヘンリエッタ様が困惑しているのはわかっていますが、しばしお待ちを」
「わ、わかりましたわ」
「とりあえず今のお話で、ヘンリエッタ様はご自身のことにとても鈍感だと発覚しましたね」
「わたくし? わたくし、今はすこぶる好調でしてよ。なので気になることといえば、お2人の様子ですわね」
「あ、はい。わかりました。大丈夫です」
「なぜ棒読みですの⁉︎」
本当におかしいわ。お2人の目が呆れを多分に含んでいるわ。なぜかしら。
ああ、わからないのがもやもやするっ。
「はぁ……。もうはっきり言わないと通じないのですね」
「パトリシア様?」
「ヘンリエッタ様。貴女、殿下のことをどう思っていて?」
「殿下ですか……? そうですね。やはり今回の事件で改めて王たる器に相応しい方だと思いましたわ。けれどわたくしたち同じ青年でもあるということを知りましたわ」
「……っ何かあったのですか?」
「ええ。まさか殿下があそこまで情に厚い方だと知りませんでしたわ。殿下はわたくしから見たら、あらゆる重圧を背負ってもそれを感じさせないお方。なので事件の時、わたくしを見捨てる……あ、いえ、送り出すことができると思っていましたの」
危ない。言葉選びのせいで、殿下が非情な人間になるところだった。
「あの事件では、殿下に同情いたしますわ。それにメアリー様にも」
「私は……ヘンリエッタ様のおかげで魔術を使えましたし……。でも、殿下は気の毒でしたね」
「もしかして、血も涙もないのはわたくしでしょうか?」
皆がそう思っているのか。わたくしが特殊なのかしら?
「ヘンリエッタ様ほど情に厚い方は見たことがありませんわ。ええ。考え方の相違でしょう。とりあえずそこは今は置いておいて」
「はい」
置いといて良いのかと思ったけれど、話が脱線してしまうことは確かだしいいでしょう。
「ヘンリエッタ様、貴女も婚約者候補なのですよ? その辺りをどう考えていらっしゃるの?」
「わたくしは、名ばかりの婚約者候補ですわ。確かに家柄を考えると筆頭と呼ばれてしまいますが、わたくしよりパトリシア様の方が相応しいですもの。それに、パトリシア様が殿下をお慕いしているのは、ずっと見てきましたし。パトリシア様を応援する気持ちは、変わっておりませんわ」
そう言うと、パトリシア様は傷ついたような顔をした。




