傍にいます
「今後の方向性が決まったところで、トミーのところへ行きましょうか」
お母様がそう言い、わたくしたちはトミーの部屋へ向かった。
扉をノックすると、執事が対応してくれた。まだ目は覚ましていないらしい。
部屋に入り、ベッドの側まで行く。静かな寝息が聞こえた。
トミーの寝顔は穏やかだ。しかし、魔力が枯渇した影響か、いつもより青白かった。
わたくしが右側に、お兄様が左側に行きトミーの手を握った。少し冷たい。温めるように包んだ。
「お父様、魔力が枯渇するとどのくらいで元に戻るのですか?」
「通常なら魔術の使い過ぎとかでも一晩寝れば治ることが多い。けれど暴走ということだと限界以上の魔力を放出してしまうから2〜3日は安静が必要かな」
「わたくしたちが魔力を受け渡すなどはできないのでしょうか?」
「受け渡しか……。物への受け渡しはできるけれど、対人へはなかなか難しいんだ。例えば声や瞳のように全く同じ人が居ないのと同じように魔力も100人いれば100通りの魔力の流れがある。受け渡そうとしても拒絶反応が起きてしまうことがほとんどだ」
「そうなのですね。早く目覚められる方法があったらよかったのですが」
「今回は緊急でもないし、寝ていれば魔力は回復するよ」
握った両手をそのまま額に押し当てる。そのまま目を閉じて祈った。
(トミー……早く目を覚まして。そして、お話をしましょう。聞きたいことがたくさんあるの。そして、聞いた後言いたいの。貴方はわたくしの大切な弟だって――)
その後、執事長のトーマスが夕食の確認に来た。トミーと離れたくなくて、ここで食べたいと言ったら快諾してくれた。
お父様は今回のことで用事があると退出。わたくしとお母様、そしてお兄様でトミーのそばにいることになった。
「さあ、食事にしましょう」
「はい、食事の匂いに釣られてトミーが目を覚ますかもしれません」
「お兄様ったら。トミーはそんなに食いしん坊じゃないでしょう」
和やかな雰囲気で食事が進む。流石に食事の間にトミーが目を覚ますことなく、湯浴みをすることにした。
お母様は部屋に戻るとのことだが、お兄様もわたくしも今日はトミーの部屋で寝ることを許してもらえた。
ベッドサイドに椅子を運んで、再び二人でトミーの両手を握る。心なしか先ほどより暖かい気がした。
二人で他愛ない話をしていたが、気が付いたら眠りに落ちていた。
◇◇◇
「……ティ、へティ」
呼ばれる声で意識が浮上した。目を開けるとお兄様が隣にいてこちらを見ていた。
眠い目を擦りながらお兄様に尋ねる。
「寝てしまったようですね、今は何時でしょう?」
「もうすぐ朝だな。僕もすっかり寝てしまったよ。体は痛くないかい?」
「大丈夫です」
体がバキバキになってもおかしくない寝方だったが、子供の体だからなのか全く問題なかった。
トミーはまだ寝ている。昨日より顔色も良くなっているのがわかった。
うーんと伸びをしていると、お兄様が窓を開けた。少し冷たい新鮮な空気が入ってくる。
外はまだ薄暗いが、すぐに明るくなるだろう。
お兄様は外を見ている。風を孕んでカーテンが揺れる。お兄様のアリスブルーの髪がサラサラと靡いている。紺碧の瞳は気持ち良さそうに細められている。
(……あ、朝とも夜ともつかない微妙な明るさとお兄様のコントラスト……!寝起きからなんて暴力的な美しさ……!)
お父様と瓜二つなお兄様だが、まだまだあどけなさがある。しかしそのあどけなさが、神聖な雰囲気を醸し出している。反対にここにお父様がいたらこの時間にふさわしくない色気が出てしまっていただろう。尤も、年齢を重ねたらお父様のように色気も出るに違いないけれど。
「ん、あれ……ここは……」
その時、ベッドから小さな声が聞こえた。




