反省しますわ
暫くして。5分10分という話ではない。30分くらいはそうしていただろうか。
だんだん殿下の震えが収まってきて、腕の力も弱まってくる。
わたくしは正直に言うと体が痛い。力加減なしに抱きしめられていたし、時間も長かったので体が固まってしまったのも原因だろう。
流石にそれを言うほど非道ではない。
ゆっくりと殿下が離れる。表情を見られたくないのか俯いたままだ。
まあたっぷり30分泣いといて、今更恥ずかしがらなくてもとは思ってしまう。それこそ思春期の感情だろう。
深く突っ込んではいけない。
とりあえずハンカチを差し出す。肩口が冷たいので、あまり濡れていないかもしないけど。
今気がついたわ。部屋の中にわたくしと殿下以外はエマしかいない。始めの頃はもう数人侍女がいたのに。
気を利かせたのね。エマかしら。
「落ち着いたようですわね」
「……ヘンリエッタ嬢はずっと落ち着いているね」
「先ほどの状態でわたくしまで荒ぶっていたら、収拾がつかなくなりますもの」
それこそカオスだ。
殿下がここまで感情的になるとは思っていなかった。わたくしから見た殿下は、上に立つものとしていつでも威厳があったから。
でも今回のことで、殿下もただの15歳の青年なんだなと思った。それを普段は見せないだけ。
強い方だわ。そんな方をここまで揺さぶってしまったのは、流石に反省するわ。
そうよね。殿下の場合は目の前で遺言じみた言葉も言われたから余計よね。
あの時の言葉は思い返すと、遺言でしかなかったわ。
あれは普通より(普通ってなんだっけ?)トラウマが大きくなるわ。しかも思い返せば、殿下に一旦納得した素振りを見せたから余計に。
いえ。わたくしは納得したように見せたつもりこれっぽっちもなかったのだけれど、殿下は納得して逃げてくれるって思ったようだから威力は跳ね上がったわよね。
それは悪魔の所業だわ。
「殿下の想いを拝聴して、わたくしも思うことがありますの」
「何かな?」
「あの時は申し訳ありませんでした。思い返せば、殿下に対してはなかなか鬼畜なことをしました。きっとわたくしは殿下に甘えていたのですね。殿下であれば、たった1人の人間を切り捨てることくらいなんてことないと思っていました」
「それ、僕が感情もない人間だと思っていないかい?」
「いいえ。わたくしは殿下の上に立つものとしての姿しか見ていなかったのです。いずれ王となられるお方。もう、切り捨てることができる強さをお持ちなのだと思っていました」
「それは僕を過大評価し過ぎかな」
「過大評価ではありませんわ。けれど、そうですわね。とても同い年には見えないくらい大人びておられたので、勝手に理想像ができてしまっていたと言いますか。申し訳ありません。なんだか言葉選びがうまくありませんわ」
「いいや、ヘンリエッタ嬢の言いたいことは伝わってきたよ。それほど信頼されていたということかな」
そこで殿下はようやく顔をあげた。元々赤い瞳をお持ちだけれど、泣いたせいかいつもより深みが強い赤だ。
「そういうことですわ。とにかくわたくしは今日、殿下も年相応の青年だと実感いたしましたわ」
「ヘンリエッタ嬢は、こんな僕をどう思う?」
まあ、今日は本当に殿下は青年だわ。そんな答えがわかりきっている質問をするなんて。
なんだか可愛らしいわ。
思わず笑みを零しながら言った。
「ふふ。どんな殿下も素敵なことに違いはありませんわ。世の令嬢はきっと‘’ギャップ萌え‘’とさらに熱を上げることでしょう」
「ヘンリエッタ嬢は熱を上げてくれないのかい?」
あらあら。まあ。少し拗ねているようなその視線も、ギャップ萌えね。危ない。これは攻撃力が高いわ。
内心のそんな感情を出さず、あえてツンとすましてみせる。
「わたくしはそんなに簡単ではありませんわ」
「残念だ。ではもっと精進しなければな。それこそヘンリエッタ嬢が僕のために、最善という名の最悪を選ばないように」
「まあ」
やはり殿下にとってのトラウマになってしまったようだ。申し訳ない。
けれど、いつかはそのトラウマと同じことを何度も経験するかもしれない。上に立つものの定めとして。綺麗事ではいられないから。
それでも今は。そんな無粋なことを考えるのはやめよう。殿下だって、1人の人間だから。
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