表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど!?  作者: 水月華
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

122/282

反省ですか


 殿下から穏やかでない単語が聞こえた。

 死のうとした? わたくし希死念慮なんて持ったことないのですけれど。

 あっ!


「……もしかして、メアリー嬢を叩いた後のことです?」

「そこで、‘’もしかして‘’が出てきてしまうのも頭が痛いよ」


 殿下はそう言いながら、ようやく禍々しいオーラを少し抑えてくれた。

 少しだけ。完全には無くなっていない。顎も解放してもらえたので楽になる。窮屈だけれど。

 まあ耐性ができたのか、以前よりは距離感の無さにパニックになっていないのが救いか。


「全く……トミーから聞いていたけれど、本当に反省とかはしていないんだね」

「反省ですか……? お母様に心労をかけてしまったことには反省しましたが」

「うん、間違っていない。間違っていないけれども」


 もう一歩欲しいんだよなぁ。と呟く殿下。

 もう一歩とは?

 そしてそろそろ離れていただきたい。あれ、なんかデジャヴ。


「殿下、流石にそろそろ離れていただかないと」

「断る」


 即答ですか。


「そうだなぁ。ヘンリエッタ嬢が、僕の望む反省をしてくれたら考えてもいいよ」

「それ、暗に満足するまで離さないとおっしゃってますね」

「やっぱり空気は読めるんだね」


 どうしよう。望む反省ねぇ。

 こういう時はもう直球勝負か。


「どういった反省を望んでおられるのです?」

「はぁぁぁぁ。本当に分からない?」

「わたくしは殿下ではありませんから。その御心を完全に理解するなど不可能でございます」

「……他のものは理解していたよ? パトリシア嬢やメアリー嬢だけでなく、ダニエルやトミーも」

「……それはそれは」


 完全にわたくしが悪者じゃないですか。

 おかしいなぁ。お母様に鍛え直してもらった方がいいかしら?

 なんて考えていると、さらに殿下の顔が近づいてきた。鼻先が触れそう。

 

「もう少し離れてください」

「だからヘンリエッタ嬢が、僕の望む反省をしたらね」

「でしたら教えていただかないと、わたくしは反省を始めることすらできません。申し訳ありませんが、分かりかねますので」

「じゃあ視点を変えようか。もしあの時、ヘンリエッタ嬢のしていたことをトミーがしていたら? 君はどう思う?」


 簡単に答えを教えてくれないらしい。

 トミーが、か。トミーがメアリー様を叩いて、特大の魔術を放つ……。

 わたくしは、その後魔力切れで動けなくなった。仮にトミーも動けなくなったら?

 ……犠牲になっていたのはトミーね。

 きっと、わたくしは後悔する。自分の不甲斐なさに、ただ見ているだけだったことにも。

 それでも。


「とても悲しく、悔しく……わたくしはきっと自分を責めるでしょう。トラウマとなって生涯消えぬものとなるでしょう。……それでも。仮にトミーが、家族が、皆様が同じことをしても……わたくしは責めません。わたくしは何度繰り返しても同じことをします。それでわたくしがこの世から居なくなっても構わない。あの状況では、まともに動けるのはわたくしだけでした。ならば、やることは決まっています」


 わたくしは殿下を見つめる。殿下は顔を顰めた。


「……それで、君の大切な人たちが後悔しても?」

「どんなに辛いことがあっても、人間はいつか自分の中で折り合いをつけられます。何年、何十年経とうとも。それが人間に許された特権です」

「……それで仮に君が死んだとして。忘れられるのは辛いことだろう」

「そうですわね。生きている間でしたら、辛いかもしれません。けれど死者はどう思っているのかを、知る術は生者にはありません」

「君は死後の世界を信じていないのかな?」

「いいえ、そういうわけではありませんわ。死者は神の御許へ行く、この国での当然の考え方です。けれど、それを調べる術は今のわたくしたちにはありませんもの。死者が神の御許へ行った後、何を考えているのか。それは今の殿下のお気持ちを理解することより、無謀なことでございます」

「……」

「それに、折り合いをつける=忘れるではありませんわ。死者を悼むことができるのもまた生者の特権。生前のその人のことを思い出せば、忘れられることはありません」


 そして、わたくしは笑って言った。


「それに結局、人間は自分勝手な生き物ですもの。人生が短くとも、最期の姿がどうであろうとも、その人が満足していたら何も言えないとは思いませんこと?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ