イベントの余波です
あの後はとても忙しかった。色々な意味で。
もちろん、異常があったのにすぐに演習が中止にならなかったこと、魔物の発生源の調査などそちらの方面は言うまでもなく忙しい。
問題はそれだけではなかった。
殿下が医師が来るまで、離してくれなかったのだ。本当、自分が言えたことじゃないけれど怪我人は大人しくしてて欲しい。
特に頭なんて、後から来ることもあるのだから。そう言ってもどこ吹く風で取り合ってもらえなかった。
ダニエル様やパトリシア様に助けを求めても、「こうなった殿下は止められません」やら、「たまには良いのでは? たっぷり絞られてくださいね」と味方になってくれなかった。
まあ、医師が来たというか、学園長まで飛んできた時は流石に離してもらえたけれど。
その後は治療に専念することになり、あれから殿下とは話していない。
パトリシア様とメアリー様は時間を作って、毎日会いにきてくれる。そう、学園で会うのではなく、我が邸で。
わたくし、ヘンリエッタはことの顛末を知ったお父様に、軟禁されてしまったとさ。
怪我程度なら、治癒師に頼めば綺麗に治してくれる。結構パックリいっていた右腕も、綺麗に治っている。
治る過程を見るのは、少し面白かった。痛みが引いていくのと同時にスーッと綺麗に消えてったからね。不思議だった。
なので、わたくし自身はすこぶる元気である。本当なら学園に行きたい。
最初の1週間ほどは安全確認のために休校になっていたけれど、もう2週間経っている。中心人物であったパトリシア様も、メアリー様も通っているのに。お父様が許してくれない。ついでにお兄様も許してくれない。
家に帰ってからも戦場だった。本当に。トミーも仲間として軟禁されているのが救いか。
トミーは調べたら骨が折れてしまっていた。わたくしより重症なのに、元気に振る舞っていたから驚いた。そのトミーの怪我も治っている。
本当に家族思いな方々だけれど、そろそろ自重していただきたい。
けれど、わたくしもトミーもなかなか強気に出られない理由がある。お母様だ。
なんと、話を聞いたお母様が倒れてしまったのだ。
その姿に、家族全員驚いた。血の気が引いたといっても過言ではない。
お母様は、強い方だと思っていたから。今まで、弱いところを見せたことがなくて完全無欠だと思っていた。
今は体調は戻っているけれど、その時弱々しい声で
「へティ、トミー。貴族として、戦うことは間違っていないわ。あなたたちは、よく頑張ったわ。でも、わたくしにとってあなたたちは大切な宝物なの。お願い。お母様を置いていかないでちょうだい」
と懇願された。
その言葉は耳に張り付いている。
体調が戻っていてもわたくしたちの側にいないと不安になるらしく、サロンによく呼ばれる。
元気な姿を見せると、安心したように笑うのでわたくしとトミーも積極的にお母様のところへ行っている。
もうお母様の件で、わたくしとトミーは大いに反省した。確かに間違っていないけれど、もっといい方法があったのではないだろうか。
じゃあ良い方法ってなんだと言われても出てこないのだけれど。
もうあんなお母様は見たくないというのが、わたくしとトミーの思いだった。
けれど。
「お嬢様、流石にベッドにずっといるのはいかがなものかと」
「わかっているわ、エマ。わかっているけれど、今日はパトリシア様もメアリー様も来れないし、流石に飽きてきたわ」
そう、家にずっといるのも苦痛だ。
やることがあれば別だけれど。学園から休んでいる間の課題を出されたけれど、暇なあまりあっという間に終わらせてしまった。いっそのこと課題の量を増やしてほしい。
何をすれば良いのか。あ、そういえば最近筋トレ全く出来ていなかったわ。久しぶりにやるか。
そう思い、むくりと起き上がる。エマに一緒にやらないかと誘おうとした時。
「失礼します。お嬢様、来客がありますので準備をお願いいたします」
ノックの音とともに、そんな声が聞こえた。




