イベント【魔物襲来】①
戦闘描写、怪我の描写が入ります。
苦手な方はご注意下さい。
戦闘が始まって、おおむね順調と言っても差し支えない。
話に聞いてはいたけれど、殿下の魔術の腕は圧巻の一言だった。
トミーもついていってるのが凄い。
既に10体ほどの魔物を討伐している。
「メアリー様、イベントではまだまだ魔物は来ますの?」
「はい。まだ序の口ですね。ここから段々魔物の数が増えていきます。それに今は2、3体ずつですが、一度に来る量も増えます」
こっそり確認すると、メアリー様も声を潜めて返してくれた。
やはり、まだ安心するのは早いのだろう。
「わかりましたわ。油断せずに行きましょう」
気合を入れ直す。
その時だ。地響きのような咆哮が辺りから聞こえた。
「っ今のは⁉︎」
「トミー! 来るぞ!」
驚きの声をあげている間に、殿下の張り詰めた声が聞こえた。
メアリー様のいう大群だろうか。
「……まさかっ。こんな風に来るなんて……っ」
メアリー様の顔色が悪くなっている。
「メアリー様、落ち着いて」
「ヘンリエッタ様……っ。急にこんなに来ることはなかったです!」
「ええ、わたくし達の行動が変わったように、魔物の動きが変わったのかもしれないですわ」
背中をさすりながら言うと、メアリー様は深呼吸した。
「すいません」
「いいえ、気にしないでください。とにかく今は目の前のことに集中しましょう。パトリシア様、いけますか?」
「誰に聞いているのですか? 問題ないですわ」
パトリシア様と共に、少し前に出る。
殿下とトミーの先には、さまざまな魔物が押し寄せていた。20体近くいるのだろうか。
震えそうになる体を抑える。
このまま迎え撃つのは、明らかに武が悪い。
「我に仇成すモノを捕えろ【流砂】」
凛とした声が響き、殿下とトミーの前の地面が渦巻き状になった。ダニエル様の魔術だ。
先頭にいた魔物が続々と足を取られて、動きが遅くなる。
その気を逃さず、殿下が力強い詠唱を唱える。
「我に仇成すモノを燃やし尽くせ【猛炎】」
足を取られた魔物が、炎に包まれる。断末魔と共に、肉が焼ける不快な匂いが鼻についた。
しかし、まだ魔物は来ている。燃えた魔物を足場にして、進んできた。
「我らに仇成すとなるものを吹き飛ばせ 【大旋風】」
その魔物を、トミーの魔術が吹き飛ばす。半分は減ったようだけれど、後ろにさらにいるのが見えた。
「きゃあっ」
「パトリシア様⁉︎」
悲鳴に目を向けると、上空からワイバーンが突進してきていた。
地上の押し寄せてくる魔物に気を取られて、上空への警戒を怠ってしまったのだ。
反射的に身をよじるけれど、躱しきれずに右腕に痛みが走り、地面に倒れ込む。視界の端にパトリシア様も倒れ込んでいるのが見えた。
「姉上⁉︎ ぐあっ」
「トミー‼︎」
トミーがこちらに気を取られた隙に魔物の接近を許してしまい、吹っ飛ばされたのが見えた。
木に体を強かに打ち付ける。気絶はしていないようだけれど、動きが鈍い。
そのトミーに魔物が近づいていく。
「トミー‼︎ 我に仇成すモノを貫け 【環流】」
咄嗟に魔術を放つ。冷静さを欠いてしまったために、コントロールはズレたけれど魔物に命中した。
しかし、事態は最悪だ。
パトリシア様にメアリー様が駆け寄っている。メアリー様の声に反応しているので、意識はあるようだ。
その2人にも魔物は近づいている。
「我に仇成すモノを捕えろ【流砂】」
ダニエル様が、2人に近づく魔物を捕らえた。
「我に仇成すモノを燃やし尽くせ【猛炎】」
その直後に、魔物が炎に包まれる。殿下の魔術だ。
「ダニエル! 上にいる魔物を頼む!」
土属性のダニエル様に空中の魔物を任せるの? と思ったけれど、ダニエル様は慌てることなく詠唱を開始した。
「宙から降りて彼モノを破壊せよ【流星】」
空から隕石が降ってくる。 隕石⁉︎ そんな魔術あるの⁉︎
空中にいたワイバーン1匹残らず命中し、空は静かになった。
ほぼ同時にダニエル様が、膝をつく。
「ダニエル様⁉︎」
「……問題ありません。魔力が……きれただけです」
駆け寄ると息も絶え絶えに答える。強がっているけれど、魔力切れは辛いだろう。もうダニエル様は戦えない。
肩を支えて、近くの木に寄りかからせる。
周囲を見渡す。立っているのは殿下と、わたくしだけ。パトリシア様も、トミーもすぐには動けないだろう。
けれど状況はさらに悪い方に転がっていく。まだ、魔物がいるのだ。
このままでは全滅の可能性もある。
忍び寄る死の予感に、ブルリと震えた。




