始まります
そして、演習当日。
あれから練習に励み、皆出来るところまでできたと思う。
メアリー様は乙女ゲームでの、ステータスにだいぶ近づいたらしいけれどどうしても最後の蓋は取れなかった。
緊張は見受けられるけれど、殿下に言われたことで前を向くことができているようだ。
「メアリー嬢。不安は大きいだろう。だが、その様子を外に出してはいけないよ。ハッタリでもいい。外見は不安のないようにするんだ」
「はい」
「私の経験の話だけどね。やはり実践に適うものはない。例え練習で出来なくても、火事場の馬鹿力でできるようになることもある。だから自分を信じるんだ。そのポテンシャルは十分なのだから」
「はいっ」
言われたメアリー様は、両手で頬を思い切り叩いた。
バッチイイインといい音が鳴る。
「メアリー様⁉︎ 何をしているのです!」
「気合注入です! パトリシア様、私は弱いですが絶対に諦めません!」
急なことに驚いたパトリシア様だけれど、メアリー様の強い瞳を見た。そしてパトリシア様の瞳にも強い光が宿る。
ダニエル様も、トミーも気合は十分の様子だ。
それよりも、気になることがあった。
「……なんだか、人数が少なくありませんか? 2クラスなのでもう少し多いはずですし、クラスメイトの顔が何人か足りないのですけれど」
「ああ、そのことなら」
殿下は腕を組んで、尊大に言った。
「君たちには知らせていなかったけれど、今回の演習は特進クラスのさらに成績上位者の参加ということにした」
「はい?」
どういうこと?
見ればダニエル様も、トミーも驚いた顔をしている。2人も知らなかったの?
しかし、メアリー様だけは驚いていなかった。
「実は……あの後、殿下に相談させてもらったんです。トミー様がいるのはとても心強いけれど、パニックになる生徒のことが心配で。私が想定通りに魔術を扱えていればよかったのですが、楽観視できるような状況ではなかったので」
「……流石に教師陣を説得するのは、骨が折れたよ」
「ありがとうございます、殿下。おかげで集中できます」
申し訳なさそうなメアリー様と、若干遠い目になっている殿下。
「……参考までに、どのように説得されたのですか?」
「最終手段をとったとだけ伝えておくよ」
「あ、はい。わかりましたわ」
権力ですね。本来であれば、学園は平等のもと殿下の独断も通用しない。
という建前だけれど、やはりそういう風潮になってから年数はさほど経っていない。本当ならば喜ぶことではないけれど、今回は……穴をついたというか何というか。
メアリー様は、流石に居心地が悪そうだ。
「本当にすいません。今回のことで殿下の評価が落ちるとかはないですか? そんなことになったら私に押し付けていただければ」
「そんなことで揺らぐような立場ではないよ。自分でいうのもなんだけれど、評判は良くしてるからね」
「そうですか……」
それでもメアリー様は、申し訳なさそうな顔のままだ。
殿下は安心させるように微笑む。
「最終手段とは言ったけれど、脅すようなことはしていないよ。むしろ学園側にもメリットは伝えてあるし、安心してほしい」
「はい……」
「流石にチーム分けは、介入できなかったけれど。まあバランスもあるからね」
「大体皆様、別れましたわね」
パトリシア様のいう通り、基本わたくし達はバラバラになっていた。パトリシア様とメアリー様は一緒のグループだったけれど、他はあまり関わらない人とチームになっている。
本当ならば一緒の方が行動しやすいのだけれど、バランスが偏るのも本来の力を測れないので仕方ないことだと思う。
「とにかく他のチームメイトの様子にもよるけれど、最初は基本的に合流だ。合流ポイントは覚えているね?」
「「「もちろんです」」」
――始まる――




