成長してきましたわ
それから。吹っ切れたメアリー様は以前より、練習に身が入るようになった。
わたくし達も、集中できるようになった。その甲斐あって、メアリー様は初級の魔術なら安定して使えるようになった。
その時のわたくし達は、抱き合って喜んだ。
余談だけれど、その時1番喜んだのはトミーだった。どうやら魔力暴走させた幼少期の自分と、重ね合わせていたらしい。
殿下も、ほっとした様子を見せていた。
ただ気になるのは男性陣3人の様子だ。トミーか殿下直々に鍛えてもらっているとは聞いているけれど、それにしては前より生傷が増えている。
けれどわたくしに止める権利はない。せめてもと、行商人から取り寄せた怪我に効くというクリームを渡した。
皆が皆、できることをしている。
「これから3人には、色々な場面を想定した魔物討伐の作戦を頭に入れてもらうよ」
「いよいよですのね。それにしても後1週間ほどですけれど、間に合いますの?」
「いくらメアリー嬢の夢の中では彼女が要だとしても、ご令嬢に危険なことはさせたくなかったからね。ギリギリまで粘っていたんだ」
「まあ、お気遣いありがとうございます。けれど、わたくし達も貴族の端くれ。怪我人が出る可能性があって自分だけ安全圏にいるなんてことしたくありませんわ」
「頼もしいな。それに君たちが思った以上に魔術を使いこなせるようになっていたからね。安心したというのもある」
「そう思っていただき光栄ですわ」
殿下とのやりとりで、気がつく。
「……もしかして、最近殿方の生傷が絶えないのは、本物の魔物を相手にしていましたか?」
「流石ヘンリエッタ嬢は、察しがいいね。実践の方が学べることも多いからね。特にトミーはメキメキ伸びたよ」
「……本当ならば諫めたいところではありますが、ここまで親身になってくださってありがとうございます」
「私にとっては皆、守るべき対象だからね」
そういう殿下は、為政者の顔をしていた。本当にこの方はどれだけの重圧の中にいるのだろう。
メアリー様を見ると、少し顔を顰めていた。けれど、決意したように頷いて殿下に向き直る。
「殿下、ダニエル様、トミー様。私の不確かな情報のためにここまでしてくれてとても感謝しています。……正直、私の力はまだ未熟で今のままだと不安が残ります。けれど……けれど、皆さんがいてくれるということが支えになっています。最後まで私は諦めません」
「ああ、頑張ろう」
「……メアリー嬢がここまで努力されているのに、私が怠けるわけにはいきませんからね」
「僕も頑張ります!」
メアリー様の言葉に、男性陣は力強く頷いている。
そこでパトリシア様が声を上げた。
「今更なのですが……トミー様は別クラスですが、どうやってこちらに参加するのですか?」
そういえばいるのが当たり前すぎて、忘れていた。まさかサボタージュ⁉︎
と思ったけれど、殿下は事もなげに言った。
「ああ、トミーのクラスも合同で演習することになったよ。生徒が増えて混乱もするだろうが、それを差し引いてもトミーの能力はあった方がいいからね」
「……えっと、良く許可が降りましたね?」
「教師陣を説得するくらい訳ないさ。まあ、私の名前を出しながらダニエルが交渉してくれたんだけれどね。交渉はダニエルの方がうまいから」
「そうなのですね」
パトリシア様が答えてくれたからよかったけれど、わたくしとメアリー様は驚きのあまり声が出なかった。
なんだろう、真っ当に言ってくれたのだろうけれど、そこはかとなく重い圧力があったのは想像に難くない。
それに大の大人相手に、交渉するって……。うん、お2人が凄すぎるんだ。決して教師陣が無能な訳じゃない。
そもそも、主に貴族の子息子女に教える教師陣が無能なはずがない。ふるいにかけられた、有能な者で固めているし。
あ、なんだろう。深みにハマりそうだから、これ以上考えるのはやめよう。
わたくしとメアリー様は揃って、遠い目をしていた。




