【幕間】男性陣の覚悟
――一方。男性サイドはその頃。
「殿下。情報の方は」
「まだ、明確な情報はない。影も使ってはいるのだが、魔物を集めていると言う話はないな」
「やはり、夢は夢なのでしょうか。メアリー嬢の杞憂ということでは」
「そう考えたいがな。けれど、最近のメアリー嬢を見ているとやはり無視は出来ない」
そう話しているのは、ダニエルとフレディだ。
トミーもいるが、黙り込んでいる。
しかし、恐る恐るというように声を上げた。
「殿下、その夢が現実になるとして。演習を中止にする方が、よほど安全なのでは? 僕は今初めて聞いたもので、情報が不足しているのですが」
「それは私も考えた。しかし、メアリー嬢曰く、以前にも似たようなことがあって避けようとしたけれど、結局避けられなかったと。状況や場面が変わるだけで起こってしまったそうだ」
「そうなのですか。少しずれるのですが、光魔術には予知夢ができるような魔術があるのですか? そんなに予知夢を見ることは、別の問題を起こしそうなのですが」
「いや、調べたがそんな記述はなかったな。だが光魔術は使いこなせるものが少ないから、見つかっていないだけかもしれない」
「そうですか……」
トミーも顔を暗くする。
しかし、対する殿下は極めて冷静だった。
「避けることができる可能性に賭けたかったが、難しそうだ。ならばある程度、状況が絞られる場合で事に及んだ方が対処がしやすい。ということで、やはり最終手段だな」
「殿下……。そうですね。この際、選んでいられないでしょう」
「なんのことですか?」
フレディとダニエルの会話に、トミーはついていけない。
フレディはトミーを見つめる。その赤い瞳は、見定めるものの目をしていた。
トミーの背筋が自然と伸びる。
「トミー・スタンホープ。君にこの話をしたと言うことは既に、手段のひとつだ。あまり大事にしたくないものだから、本来であればこれは私たちだけの話のはずだった。だが、状況は芳しくないからな。1つ聞かせてもらおう」
「なんでしょうか」
「危険に身を晒す覚悟はあるか」
フレディの言葉は刃のように鋭い。
しかし、トミーは怯まない。大切な姉の姿を思い浮かべた。彼女は間違いなく関わっている。
「……姉上も関わっているのでしょう。僕は姉上の騎士となって守ると誓った。姉上が友人のために危険に身を晒そうとしているのなら、僕が怯むという選択肢はありません」
「君のことだから、姉を連れて逃げる可能性もあると思ったけれど、杞憂だったか」
「姉上は、決めたことは譲りません。姉上がメアリー嬢の力になると決めたら、僕に覆すことはできないでしょう。僕にできるのは、姉上の意思を尊重して協力することです」
「そうか」
トミーは淀みなく答える。確かにトミーにとって、ヘンリエッタは何よりも大切だ。
けれど、その大切な人を悲しませてまで安全なところに逃げるという選択肢はなかった。
フレディは笑っている。ダニエルに目配せをして、ダニエルも頷いた。
「では早速私は、然るべきところに伝えてきましょう」
「ああ、頼むよ。私はトミーと共に目的の場所へ向かう。ダニエルも後から来るように」
「はい」
ダニエルはそのまま去っていった。
その背を見送り、フレディはトミーに向き直った。
「さあ、トミー。これから厳しいぞ。私は容赦はしない。メアリー嬢だけでなく、他の生徒の命も掛かっているからな。吐いてでもついて来い」
「仰せのままに。その前に、詳しく話してくださいね」
「もちろんだ。情報はそのまま戦力となるからな。作戦の内容も含めて、トミーには理解してもらう。要になるからな」
「はい」
そしてフレディとトミーは、歩き出した。
学園の建物とは逆方向へ。
詳しくはわからないけれど、これから起こるであろうことにトミーは武者震いした。




