メアリー様の気持ち
メアリー様は唇を噛み締めていたのが、やがて嗚咽に変わる。
わたくしはそっと背に手を当てて、上下にさすった。
パトリシア様はハンカチを差し出す。
「ごめっごめんなさいっ……お2人は私にっく、良くしてくれていたのに……! ふっ……どこかで信頼しきれていなかったっ! お2人は、綺麗で、正義感もあって……っ。でも本当に私にそんな風にしてもらえるような価値があるのかって」
「わたくし達も、ご自分も信じきれていなかったのですね」
背中をさすりながなら、優しい声音を意識して言う。
「殿下にも……っ色々な方に協力して貰っているのに、魔術を使いこなせなくて……っううっ……も、申し訳なくてっ」
「ええ」
「早くできるようにならないとって……焦れば焦るほど、うまくいかなくてっ」
「そういう時はどうしても焦ってしまいますわね」
「だんだん、周りの目も怖くなって……っく、気がついたらパトリシア様とヘンリエッタ様も怖くなってっ」
パトリシア様も痛ましい表情をしている。これはわたくし達が、もっと行動を早くしても結果は変わらなかったかも知れない。
メアリー様の中にあるのは、自己嫌悪。周りが励ましても、褒めても、自分自身が認められなければその言葉は響かない。いや、受け入れられない。
受け入れることが罪だと思ってしまう。
「ごめんなさいっ……ごめん……なさい」
だから、今はただ。
泣いていい。泣く事は悪いことではない。
泪はやがて、綺麗な花を咲かす。
その花を見るための前段階なのだから。
◇◇◇
メアリー様の気持ちが落ち着く頃には、午後の授業が始まっていた。
世の中には授業より、大切なことがある。1回くらいサボっても取り戻せるでしょう。
メアリー様は、鼻をぐずぐず言わせながら顔を上げた。
目は真っ赤で腫れているし、鼻もトナカイのようになっている。
「落ち着きました?」
「う……はい。すいません」
「ちがいますわ」
「え?」
「そういう時はありがとうですわ」
微笑みと共に言うと、メアリー様は目を見開いた。
目に溜まった泪が、頬を伝って流れていく。
普通なら顔の造形も崩れるような状態になっているのに、メアリー様はそれでも愛らしかった。
「パトリシア様、ヘンリエッタ様。ありがとうございます」
「ふふ。どういたしまして」
「メアリー様」
パトリシア様が、メアリー様の名前を呼ぶ。
そして、メアリー様の目を見て言った。
「メアリー様は、ご自分に厳しすぎるのです。もっと優しくしてあげないと可哀想ですわ」
「可哀想……」
「ええ。頑張りを認められないと言うことは、とても辛いことですわ。ですので、ゆっくりでも良いのです。一つでも、小さなことでも出来るようになったら褒めていただきたいですわ」
「褒める……」
「それに……その、わたくしの大切な‘’お友達‘’の頑張りを認めていただけないなんて……いくらメアリー様でも許せませんわ」
「え?」
僅かに頬を染めながら言うパトリシア様。メアリー様はポカンと口を開けていたけれど、そのうち同じように頬を染めた。
「わたくしも、右に同じですわ」
パトリシア様に便乗して言うと、メアリー様はますます顔を赤くした。
甘酸っぱい空気が流れる。わたくしは幸せのあまり、視界が揺らいだ。
「メアリー様。焦るのはわかりますが、きっと大丈夫ですわ。だって殿下がいるんですのよ? それにトミーやダニエル様も。魔術が得意な人が2人はいるんです。最悪な事態なんて、起こさせませんわ」
「……はい」
「もっと周りに頼ってください。メアリー様は、その権利があるのです。それ相応の努力をしているのですから」
「はいっ」
「さあ、目を冷やしたら戻りましょう。パトリシア様も目が赤いですわ」
「その言葉、そっくりそのままお返しいたしますわ」
笑い合う。
これからどんな辛い事があっても、きっと乗り越えられると思った。
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