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転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど!?  作者: 水月華
第3章

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メアリー様を知りたいのです


 茶番を繰り広げたことで、メアリー様も少しは気を抜くことが出来たようだ。笑顔が以前の素敵な笑顔に戻っている。


「ふふ、メアリー様、素敵な笑顔ですわ」

「あ」


 メアリー様は、そう言うと俯いてしまった。だから、その両手を包み込むように握る。


「ヘンリエッタ様?」

「メアリー様、どんな時でも笑うことは素晴らしいことだと思いますの」

「……」

「たとえ、明日世界が滅びるとして、その時悲嘆に暮れるのは物語の締めとして美しくありませんわ」


 今はきっと、楽しむことを罪悪感と感じてしまうのだろう。けれど、それではただ自分を追い詰めるだけ。

 人間に生まれたもとしては、どんな人生を歩もうと最期は笑って終わりたい。きっと誰もが願うことだろう。

 だから、そんなに自分を責めないで。


「メアリー様、わたくし達は貴女を完全に理解することはできませんわ。ねぇ、メアリー様は最近ご自分の話をわたくし達にしてくださらないでしょう?」

「あ……」

「気持ちって目には見えないのです。言葉にしなければ伝わりませんわ。もちろん言えない理由を想像することは出来ます。けれど少なくともわたくしとパトリシア様は、メアリー様を理解したいと思っております」

「ヘンリエッタ様……」

「わたくし達は待ちます。メアリー様に話す勇気ができるまで。ずっと待っております」

「……はい」


 そこで手を解き、にっこり笑った。そしてお茶を口に運ぶ。


「今はこのお茶を楽しみましょう? パトリシア様が淹れてくださるお茶を飲める機会なんて、そうそうありませんわ。しっかり堪能しなければ勿体無いですわ」

「ええ、仕方ありませんからヘンリエッタ様にも淹れて差し上げましたわ」

「頂戴いたします。もう飲んでいますが。さあ、クッキーもどうぞ」


 わたくし達が普段通りに振る舞うのを見て、メアリー様もゆっくりお茶を口元に運ぶ。

 しばらく静かな時間が続く。わたくしとパトリシア様は、大袈裟にならないように普段通りの会話を続けた。


「ヘンリエッタ様、このクッキーこの間と少し味が違いますわね。何か柑橘類を入れていますの?」

「その通りですわ。蜜柑の皮を乾燥させたものを細かく刻んで練り込んでおりますの。食後ですし、あまり重くならないようにと考えたのですわ」

「清涼感があって、確かに食べやすいですわ。パウンドケーキにドライフルーツを入れるのはありますけれど、クッキーにも合いますのね」

「領地の視察で訪れた店で知りました。そちらもとても美味でしたわ」


 メアリー様はお茶を飲み、クッキーにも手を伸ばす。噛み締めるようにクッキーを食べて、カップの中身も空にした。

 ソーサーに戻す音から少しして、注意しなければ聞こえないくらいの小さな声が聞こえた。


「……お2人は……どうして責めないのですか?」

「責める?」


 メアリー様の言葉に、パトリシア様は眉間に皺を寄せた。そんな姿も様になる。


「こんなに、皆さんに助けていただいているのに、未だに初級の光魔法すら安定しなくて……もう時間がないのに」

「どうして努力している方を責めることができましょう」


 パトリシア様の言葉に、メアリー様は顔を上げる。その瞳は左右に揺れている。


「例えば、メアリー様が練習をサボって、それで出来ないと嘆いているのならば。それはわたくしは見放しますわ。そんな者に構っているほど暇でもありません。公爵家の令嬢たるもの、時には冷酷な判断も必要ですから」

「……」

「ですが、今までのメアリー様を見て、誰が責められるでしょう。その資格を持つものがいるとすれば、それは一体どれほどの者でしょう。わたくしから見れば、それはメアリー様を見ていない愚か者に過ぎませんわ」


 パトリシア様は怒っている。それを感じたメアリー様は萎縮してしまっているが、わたくしは仲裁に入らない。

 正直、パトリシア様と同じ気持ちだから。

 なぜならメアリー様のその意味は。


「メアリー様にとって、わたくし達はそのような愚か者に見えると言うことなのですね」


 そう言っているのと同義だから。

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