メアリー様のため、作戦会議です
授業が終わった後、メアリー様がお花を摘みに行っている間にパトリシア様に話す。
お菓子ももちろん有効な手段なので、その時にメアリー様に気持ちを吐き出してもらおうと考えた。
「いかかでしょう、パトリシア様」
「なるほど、確かに場合によっては気を遣ってもらうことすら苦痛な時がありますものね。ヘンリエッタ様にも、何度かそれで救われましたし」
「まあ、そうなんですの?」
「ええ。しかしいつもは出来ているヘンリエッタ様が、忘れていたということはわたくし達も焦っていたのでしょうね」
「そうなりますわね。もしかしたらメアリー様が焦っていたのも、わたくし達の無意識の焦りのせいかもしれません」
「それは大変なことですわ。今一度、落ち着いて行動しなければ。ではこの時はそのように致しましょう」
「ありがとうございます。それで、念のためお伝えしておきますが、今日でメアリー様が話せなくても問題ではありませんわ。きっと話しにくいことでしょうから」
「わかりましたわ」
話が終わったところで、メアリー様が戻ってきた。
メアリー様は、呼ばなくてもこちらに来てくれる様になった。そんな風に少しずつ心を開いてくれているのだ。わたくし達がメアリー様を追い詰める要因になってはいけない。
「お待たせしました」
「いいえ、では行きましょう。あら、トミー様もいらっしゃいましたわ」
見ると入り口でトミーがこちらを覗いている。わたくし達が気がつくと小さく手を振った。
何人かのご令嬢が、トミーに視線を送っている。うん、シスコンではあるけれど人当たりはいいからモテるのね。
「姉上、お2人も。お迎えに来ました」
「ありがとう、トミー。お兄様は?」
「朝、これから忙しくなるから、しばらく別行動ってお話だったじゃないですか」
「忘れてましたわ」
「……兄上に報告しておきますね」
「待って、トミー! それは困るわ!」
「ええ、兄上に存分に構われてください。その様子を僕は目に焼き付けておきますから」
「なんてこと!」
「……このお2人はおいて、先に行きましょう。メアリー様」
「え、え? はい」
わたくし達を置いてけぼりにしようとするパトリシア様。最近扱いが雑ですわ。ぐすん。
8割はわたくしのせいなので、仕方ないのですけれど。
慌ててトミーと一緒に、パトリシア様とメアリー様を追いかけた。
食堂について、食事をいただく。今日はこの後のクッキーのために少なめにしてもらった。
そろそろお茶を淹れようかというタイミングで、殿下とダニエル様がトミーを迎えに来た。
「やあ、少しトミーを借りても良いかな?」
「問題ありませんが……何かあるのですか?」
「いや、そんなに深刻なことは特にないけれど? なぜ疑いの目線を向けてくるんだい?」
「トミーと殿下は何かと張り合っていましたので、そんなに仲良くなるのが意外に感じたのです」
「姉上、僕たち放課後に集まるようになって2週間以上経ちますよ? 関係も変わりますよ」
「まあ! トミーも大人になったのね!」
「……まあ、そんな感じでいいです」
そう言いながら離れて行ったのだけれど、ダニエル様が笑いを堪えているように見えた。
多分2人の関係を1番近くで見ているのは彼だろうから、なにか琴線に触れるものがあったのだろう。
そんなことを考えていたら、パトリシア様がお茶を淹れようとしてメアリー様が立ち上がっていた。
「ぱ、パトリシア様、私がやります」
「いいのよ、メアリー様。わたくし最近お茶を淹れる練習をしていましたの。ぜひ練習の成果を見て頂きたいの。ダメかしら?」
「そ、そんな……あの私でよければ」
「パトリシア様、お茶を淹れる練習なんてしていたのですね。もしかして殿下にですか?」
わたくしを見て、動きを止めるパトリシア様。なんだろう?
再び視線を茶器に戻しながら言った。
「……どっかの鈍感な方のためですわ」
「え? 誰ですの? そんなっわたくし、知りませんわ! わたくしとメアリー様以外に誰と浮気しているんですの⁉︎」
「浮気とはなんです! 大体、メアリー様を除いて貴女以外に誰がいる――」
そこで慌てたように口をつぐんだけれど、もうバッチリ分かってしまった。
「わたくしですの⁉︎ まあまあ、嬉しいですわ!」
「うるさいですわよ! もう、ヘンリエッタ様は自分で淹れなさい」
「そんな⁉︎」
メアリー様はくすくすと笑っていた。




