打ち解けるまでもう少し
お父様と廊下を歩きながら先ほどのトミーとのことを話した。お父様もとても嬉しそうだ。
「そうか、確実に良い方向に向かっているね。へティも言い方が上手になったね」
「ふふ、お父様にそう言ってもらえて嬉しいです。お母様の助言のおかげですけれど」
お母様の必殺『押してダメならさらに押せ』が本当にトミーには合っているようだ。
「アメリアはね、私たちが学生の頃から社交術がとても優れていたよ。観察眼が凄いのも勿論だけど、勘って言うのかな。この人のボーダーラインはここまでを絶対に間違わないんだ。あれは努力だけでなく、天性の才能だね」
「そうなんですね。ではこれからお母様に弟子入りしたいです。それに、才能を活かすことができるのも凄いことですよね」
「その通りだ。へティもわかる様になってきたね」
「皆様の指導のおかげです」
その後はお父様はまだ仕事が残っているらしく、執務室に向かった。お父様の大きな手で頭を撫でられて、とても気持ちがいい。
手の隙間から見上げるような体勢で頑張ってくださいと応援すると、ぐうっと唸っていた。心配したが、大丈夫とそのまま向かっていった。
体調が悪いのなら無理しないほうがいいと思ったけれど、なんだかお父様の周りがキラキラしているように見えたので一応は大丈夫かもしれない。
◇◇◇
今日は家庭教師にも協力してもらって、トミーと鬼ごっこをする予定である。お兄様と合流して、トミーのいるところへ向かう。
ちなみに邸の中は高級な調度品もあるので、鬼ごっこするときは庭に行くように侍女や執事がさりげなく誘導してくれてるらしい。
皆でトミーのために動いているので、前よりこちらとの距離も縮まっている。嬉しい誤算だ。
庭に出ると、ちょうどトミーも出て来たばかりのようだ。ちなみにわたくしは動きやすいようにパンツルックだ。なのでこの格好をしていると鬼ごっこするよと言う合図なのでトミーは焦る。
案の定、今日もあっという顔をしたトミーにお兄様と突進していった。
「「トミイイイイイイ!!」」
「……っ!」
回れ右をして全力で逃げるトミー。それを追うわたくしたち。
何度も鬼ごっこを繰り返しているので、お兄様と協力して作戦もいくつか考えるようになった。
まず、足の速いお兄様がトミーの進路を予想して悟られないようにしながら先回りするように走る。
わたくしは陽動として、声を出しながらトミーがお兄様に気がつかないように、かといって置いていかれないように走る。
しかしトミーも逃げるのがだいぶ上手くなっている。右に行くと見せかけて反対の左側に行って翻弄してくる。その様子を見たお兄様も慌てて進路変更したりする。
余談だが、3人とも素質があると護衛の人たちに誉められた。なんという副産物。
「はあっ……はあっ……くっ。トミー! なかなかやりますね……っ! きゃっ」
トミーの動きに合わせたからか足元がおろそかになってしまい、転んでしまう。しかしあまり痛みは感じないので大丈夫だと判断する。
お兄様がすぐに駆け寄ってきてくれた。
「ヘティ⁉︎ 大丈夫かい?」
「くっ……これくらいで音を上げるなんてこと致しません! ってあら?」
前を見ると数歩先までトミーが近づいている。表情からして罪悪感を感じてしまっているようだ。これはよろしくない。挽回せねば。そうだ!
「あ…………えっと……」
「まあ! 見てください、お兄様! トミーがわたくしを心配してくれてますわ!!」
わたくしを心配して気付いていなかったお兄様がトミーを見てパッと顔を明るくする。
「トミー! 優しい子だな!!」
「……!!」
立ち上がって二人でトミーに近寄ろうとしたが、なんだか様子がおかしい。顔が青ざめていて震えている。
「トミー? わたくしは大丈夫で……いっ」
「へティ⁉︎」
トミーの元に行こうとしたが足がひどく痛んだ。見ると赤く腫れていた。捻ってしまっていたらしい。
「大丈夫かい⁉︎」
「っ大丈夫です。トミー、こんなの冷やせばすぐに良くなります。だから大丈夫よ」
しかしトミーはこちらの声は聞こえていないようだ。虚な瞳に、自身のことよりも焦燥感が募る。
お兄様もトミーの異常な様子に気がついたようだ。
話しかけようとしていたが、その瞬間にトミーの茶色の髪が金色に光る。
トミーの体が光に包まれて――
――そこでわたくしの意識は途切れた。




