どうして
どうして?
ねぇどうして、こうなったの?
最近『どうして』ばかり聞いてくる香菜
1年前は、
もうすぐ2歳になるというのに言葉を発しないと心配していたのに
今はただただ煩わしい。
「どうしてだろうねー」
「ママ、いつもそれ!どうしてー?」
近所のコンビニで買ったタマゴサンドのフィルムを開ける
開けるというより引っ張る
フィルムが伸びるだけで
サンドイッチに触れられない。
「ママもわからない事があるんだ…よ!わぁあ!」
勢いよく突然開いた反動でひっくり返る。
小さなレジャーシートには大人の頭の面積には対応せず
思いっきり髪の毛に芝生がついた。
手に持っていたサンドイッチから中身のタマゴがあふれていた。
「ママ、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶよーごめんね、サンドイッチぺちゃんこになっちゃった」
どうして私はこう、不器用でがさつなんだろう
どうして私は、他の親みたいに出来ないんだろう
香菜のどうしての問いかけにうまく返事ができないのだろう
私が勉強不足だからだとか
今まで苦手なことから目を背けて逃げてきたからだとか
そんなことだと理由はわかっている
けど、どうして直そうとか改善しようとかしなかったのだろう
改善する機会なんていくらでもあったというのに
自分の習慣がそれを拒んで駄々をこねる
それに対していつも甘やかしてしまう
今だって、3歳児の純粋な問いかけが拷問にきこえてくる
器用にサンドイッチのタマゴだけを食べている香菜を眺めながら、何十年も習慣になっている反芻思考をはじめてしまう。
この癖もう辞めたいのに、少しでも気持ちが悲しくなるとはじまってしまう。
「パンも一緒にたべようねー」
少しでも、この気持ちが香菜が理解出来たらどんなに楽だろうか
いつまで優しいママを演じればいいのだろうか
演じている事に気づいてほしい。
「ねーママ、どうして」
「パンが残ったらもったいないでしょ」
「もったいないってなあに?」
「大切にしていないことかなー?」
「大切ってなあに?」
大切ってなんだろう
自分の時間?
香菜との時間?
比べてはいけない事を考えてしまう。
口の周りに黄色や白のソースをテカらせながら、
ニコニコと笑いかけてくる香菜。
私がなんでも教えてくれる、何でも知っているって思わないでよ
コンビニのビニール袋から、コンビニでもらえるウェットティッシュを取り出し、香菜の口を拭いていく。
1枚では足りずにもう1枚取り出だそうと袋を漁ると
10枚近くも入っていた。
こんなに使い切れないのに、もったいない。
「ティッシュ沢山だね!どうして?」
「どうして どうしてって 自分で調べなさい!」
「あぁああああああ!!ぎゃああああ!あああああああ!」
私憤で香菜を泣かせてしまった。
もう嫌だ逃げ出したい
このまま香菜を置いて家に帰って布団に入って眠りたい
耳を塞ぎたい。
静かな空間で一人になりたい。
そんなことできるわけない
だから強引に抱き上げて家に帰るしかない
家に帰ってもまた拷問されるのかな
ずっしりと重くなった香菜は
鼻水とよだれをたらし、私の肩で眠っていた。