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小説家になろうラジオ大賞投稿作品

つまらない映画

作者: 熱湯ピエロ

『出来れば、映画の感想を聞かせてほしい』


 宛名も書いていない真っ白な封筒を開けると、そんなメッセージと一緒にケース入りのDVD-ROMが一枚出てきた。表には几帳面な字で『①』とだけ手書きされている。


「あったねぇ、こんなの」


 思わずそんな言葉が、ため息と一緒に漏れ出た。

 丁度一年前、桜芽吹く春先に自宅のポストに入っていたものだ。小物入れに突っ込んでおいたまま、今の今まで忘れていた。引っ越しのための不用品整理なんてしていなければ、このDVDの存在は一生忘れっぱなしであっただろう。

 送り主は分かっている。

 二年ほど付き合って、一年前に別れた男。つまり、これは別れた直後に送られてきたもんだ。

 何かと映像を記録することが好きな奴であった。それを編集してドキュメンタリー映画を作るのが趣味なんだ、と語っていたのを覚えている。

 他は特にこれといって覚えていない、つまらない男だった。別れた理由すらも覚えていない。


 『出来れば』なんて書いちゃうから、つまらないのよ。あんた。


 私は鼻白はなじろみ、燃えないゴミの袋にそれを放り込もうとして、手を止めた。

 捨てる前に一度くらい中身を見てもいいか、と気まぐれを起こしたのだ。終わらない荷物整理に飽きてきていたところでもあった。

 処分予定の紫のくたびれたクッションにドカリと腰を下ろし、ローテーブルに置いたノートパソコンを開けて電源を入れる。買ってから5年ほど経っているパソコンは『①』を入れてやると、飢えた乳牛の鳴き声のような音を鳴らしながら読み込み始めた。

 すぐにフォルダがポップアップしてくる。動画データは一つだけだった。動画のタイトルも『①』となっている。全く面白味が無い。私は頬杖を付き、大した内容は期待出来そうにないな、と思いながら動画データをクリックした。

 アプリケーションが立ち上がり、動画が流れ出す。まず映ったのは真っ黒な画像。動画時間を確認すると54分もある。

 30秒ほど待つと現れたのは、私の顔。

 呆れ果てる。私を私が見て何が楽しいと思ったのか。一応最後まで見たが、終始私の姿の詰め合わせ。

 なんとも、つまらない映画だった。

 私はスマホを操作し、『そいつ』に電話をかけた。

 数回のコールの後、『そいつ』が出たので望み通りに映画の感想を伝えてやる。


「本当につまらない映画だった。でも……」


 私は頬を緩める。

 今の私は笑えているだろうか? 映画の私と同じように。


「続きを見たい気もする」

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