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幼女の自殺配信を通報した後、何故か俺はその幼女に絡まれている  作者: ニドホグ
虚構と未来と「 」

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明日

 終わりよければ全てよし、何とも雑な言葉である。

 俺は常々、こういった過程を蔑ろにする思考回路が嫌いだった。

 終わりを取り繕う事で、過程がどんなにカスでも現状を肯定する。

 ……それはただの良い訳だ。


 それに、カスな過程がカスだったと記憶されないと、カスでなかった過程の意味も失われてしまうだろう?

 要するに俺は、自分の人生と真っ向から向き合ってきた素晴らしき人間なのである。

 ……我ながら雑な締め方だ。


 さて、何故俺が急にこんな思考を繰り広げたのかというと、夏休み最終日だからという理由で花火をしないかと明日香に誘われたからだ。

 無論、俺は花火に参加する予定である。

 しかし、アホ面を下げて無邪気に花火を楽しんだのでは、いかにも格好がつかない。

 故に俺は、少しばかりテンションを下げる為、夏休み最後だからという理由で花火をする事の愚かしさについて考察する事にしたのだ。

 いや、なんでだよ。

 自らの捻くれ方というか、捻くれのポーズが意味不明過ぎてもはや哀れだ。


 俺はベンチから夜空を見上げ、小さく鼻を鳴らす。

 コオロギの声が妙に煩いのは、ここが公園だからだろうか?


「あっ! たかしー!」


 俺がニヒルに黄昏ていると、明日香が手に持った袋を振り回しながら走ってきた。


「花火! 買ってきた! 三百本!」


「……その量は消費しきれんだろ」


「だったら、明日もやろ!」

 明日香はニコニコと笑いながらそんな愉快な事を言った。


 予想外の返しに思わず脱帽だ。

 こいつ、今日が夏休み最終日だという事を忘れているのか?

 そもそも、それが名目で集まったのだというのに……。


「上梨は一緒に来てないのか?」


「えっとね、お洋服選ぶから、先に始めてて良いよって!」


「そうか……まあ、三百本あるなら早々に始めといた方が良いかもな」


 そう言って、俺はいくつか花火を物色する。

 三百本というだけあって、そこそこ種類はありそうだ。


「じゃあ、俺は火の準備をするから、明日香はバケツに水汲んで来てくれ」


「はーい!」

 明日香は、バケツを持って元気に水道まで走って行く。

 バケツ運びにもあのテンションで挑めるのだから、羨ましい限りだ。


 俺は花火セットに入っていた風よけと蝋燭を取り出し、ライターで火を点ける。

 よし、準備完了。全く、楽で良いぜ!


 満足げに蝋燭を眺めるのに飽きた俺は、興味も無いのに花火のパッケージを確認し始める。

 そんな時、明日香からお呼びがかかった。


「ねー! たかしー! 重いー!」


 お子様め、バケツ一つ満足に持ち上げられんとは……。


 俺は蝋燭の火を消し、だらだらと明日香の元へ向かう。

 そこには、水がたっぷり入ったバケツをフンフン言いながら持ち上げようとしている明日香がいた。


「ふん! ふんー! ふんっ! たかし! 手伝って!」


「しゃあない、大人の本気を見せてやるよ」


 俺は袖を捲り、バケツを片手で持ち上げようとして直感する。

 これは、片手で持ち上がらないやつだ。

 ……危ない危ない「たかし! 力持たず!」とかいう感じで馬鹿にされるところだった。


 俺はバケツに両手をかけ、力を込める。


「よっ!」


 バケツが五センチほど持ち上がる。


「……ぁ、重い、無理だわ」


 バケツを地面に置く。


「たかし……」


 明日香は、憐れむような目で俺を見ている。

 屈辱!


「いや、本当は普通に持ち上げられるけどな? 小指で、持ち上げられるけどな? 良いか? 俺は敢えてやってるんだよ」


「じゃあ、何で持たないの?」


「協力する事の大切さを説く為だ。三本の矢という話しがあってな、それは一人では折れない三本の矢も、人と協力すれば折る事ができる……つまり、協力する事で大きな事を成せますよという内容なんだが、こういうのは聞いただけではイマイチ実感が持てないだろ?」


 実際、俺がこの話を聞いた時は、三本くらいなら折れるだろ、とか考えてたし。


「つまり、協力する事の大切さを知る為に、俺は敢えて力持たずを演じ、協力しないとバケツを持ち上げられない状況を作り上げたんだ。分かったか? じゃあ、さっさと運ぶぞ」


 そう言いながら、俺はバケツの片側を持つ。

 明日香は俺の話に首を捻っていたが、取り合えずバケツを運ぶ事に決めたようだ。


「せーの!」


 バケツが五センチほど持ち上がる。


「ぐ……無理だな」


 バケツを地面に置く。

 結局、水の量を三分の一にまで減らす事にした。

 これで、明日香一人でも持ち運べる。

 俺は明日香に、あらゆる方法を模索する事の大切さを伝えたかったのだ。

 協力なんて、所詮は手段の一つでしかない……!


*****


「あー、落ちちゃった」


 早々に線香花火を開封した明日香は、残念そうに落ちた花火の先を眺めている。

 これだけ大量に線香花火が余っているのに、何がそんなに残念なのだろうか?


 俺は次の線香花火を明日香に渡しながら、自分の分の線香花火も取り出す。


「あ、たかしも線香花火するんだ! じゃあ、競争しよ!」


「おう、分かった」


 二人同時に火を点け、無言で花火を見守る。

 小さな火花を散らしながら燃える様子は、なかなか綺麗だ。


 ……なんか、良いな。


 しばらくボーっと眺めていると、線香花火が少し元気に火花をとばし始める、

 こころなしか、ささやかにパチパチと音も鳴っているようだ。


「……お」


「……あー!」


 明日香の花火が先に落ち、続いて俺の花火も落ちる。

 なるほど、これは少し残念だ。


「えへへ、楽しい……」


 蝋燭の小さな明かりに照らされながら、明日香はしみじみと笑った。


「……そうだな」


 ぴょこぴょこと、明日香がしゃがみながら俺の方に寄って来る。

 そして、俺の体に軽く寄り掛かった。


「えへー」


「どうした?」


「楽しいから」


 明日香の顔を見ると、本当に嬉しそうに笑っている。

 その笑顔に釣られて、俺も少し口角が上がった。


「たかし、いっぱいありがとうね?」


「どういたしまして……俺も、お前には色々と感謝してる」


「えへー、じゃあ! じゃあ! 例えば、どんなことに、ありがとうって思ってる?」


「そういう事、聞くなよ……ありがたみが減るだろうが」

 あと、面と向かって具体的に感謝するのは普通に恥ずかしい。


「えー、良いじゃん! じゃあ、私が最初に言うから、たかしはその後ね」


 明日香はそうやって勝手に話を進め、うーんと唸り始める。


「えっと、えっとね……うーん…………覚えてないや、へへ」


 そう言って小さく笑う明日香は、少し寂しそうな顔をしていた。


「……まあ、沢山ありすぎて思い出せないんだろ。とりあえず今は、バケツを一緒に運んだ事に感謝しとけ」


「へへ……うん。バケツ手伝ってくれて……あれ? たかし、水こぼしただけじゃない?」


「いや、俺が水の三分の二を零したから、お前はここまでバケツを運べた。つまり、三分の二は俺が運んだと言っても過言では無い」


「ふふ、そうかも…………ありがと」


 感謝の言葉を述べた明日香は、とても優しい目をしていた。

 少々舐められているような気がしないでもないが、まあ良いか。


 次の花火を取り出そうと袋を開ける。

 そんな時、こちらへ駆けてくる足音が聞こえた。

 そちらに顔を向けると、上梨が浴衣を着て走って来ている。


「はぁ、はぁ……ごめんなさい! 準備をしていたら遅くなって……」


「かみなしさん、かわいい!」


「浴衣着てきたんだな、似合ってんじゃん」


 上梨の浴衣は、祭りの時に着ていたのと同じものだ。

 しかし、前回とは帯の色が異なり、全体的に明るめの雰囲気になっている。


 やっぱり、上梨は和服が似合うな。


 俺が改めて上梨の姿を眺めていると、明日香が上梨に花火を渡す。

 そのまま二人は楽しそうに、はしゃぎ始めた。


 俺も、そろそろ次の花火を始めよう。

 さっきまで線香花火をしていたし、派手なやつが良いな。


 色々と見た結果、俺は「虹色!」と書かれている花火を手に取った。


 火を点けると、ブシュ―ッという音と共に赤い火花が噴き出す。

 そのまま、青、黄色、緑、次々に火花の色が変わっていく。

 パッケージ通りの下品な花火だ。


「……ねえ、少し良いかしら?」


「ん?」


 気が付くと、隣に上梨がいた。結構近い。

 どうやら、俺の花火から直接火を貰おうとしているようだ。


「横着すんなよ……」


「良いじゃない、少しやってみたかったのよ」


 そんな事を言っているうちに、上梨の花火にも火が点く。


「貴方のと比べると、地味ね」


「全部が全部、俺の花火みたいな感じだったら嫌だろ」


「ふふ、それもそうね」


 二人で花火を眺める。

 先に始めていた俺の方はすぐに燃え尽き、上梨の花火も少ししたら消えた。

 明日香は、少し遠くで花火を四本持ってニコニコしている。


 この分だと、三百本の花火もすぐに無くなってしまいそうだ。

 でもまあ、それはそれで良いのかもしれない。

 終わりよければ全てよしなんて言葉は嫌いだが、終わりが良いに越した事はない。


 俺はそんな事を考えながら、燃え尽きた花火をバケツに放り込んだ。


「たかしー! 新しい花火ちょうだい!」


「私も、次は二本貰って良いかしら?」


「ああ、ちょっと待ってろ……」


 まだ大量に残っている花火を見て、終わりの事を考えるのはもう少し先でも良いかと俺は思いなおすのだった。




+++++




幼女の自殺配信を通報した後、何故か俺はその幼女に絡まれている「完」

「幼女の自殺配信を通報した後、何故か俺はその幼女に絡まれている」完結です。


最後までこの作品にお付き合いいただき、ありがとうございました。

読者がいるというだけで、とても執筆の励みになっています。


また、ブックマーク、感想、評価などをして下さった方、本当にありがとうございました。

この作品を面白いと思っていただけたのだと実感できて、とても嬉しかったです。


それでは、また次の作品でお会いできればと思います。

本当に、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おめでとうありがとうございます。 最後まで楽しく読ませていただきました。 面白かったです。
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