表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼女の自殺配信を通報した後、何故か俺はその幼女に絡まれている  作者: ニドホグ
虚構と未来と「 」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/87

関係

「わー! このお肉おいしい!」

 スーパーで買ってきたフライドチキンを頬張ると、明日香ちゃんは嬉しそうに声を上げた。


 私も釣られて、フライドチキンに手を伸ばす。

 一口食べてみる。

 少し硬い衣と、パサパサの肉、至って普通の安いフライドチキンだった。

 だが、本当に美味しそうに食べている明日香ちゃんを見ていると、なんとなく自分も楽しくなってくる。


「かみなしさん! これね! おすすめ!」

 明日香ちゃんは、一緒に作ったポトフを指さしている。

 さっきまでフライドチキンを食べていたのに、随分と目まぐるしい。


 期待する様な目で、明日香ちゃんが私を見てくる。

 私は、ゆっくりとポトフに口をつけた。


「……あ、美味しい」


「でしょー? わたしの、星のニンジンもあったよ!」

 明日香ちゃんはそう言ってニッコリ笑うと、次の食べ物に手を付け始めた。


 薄い反応しか返せない自分が、なんとなく申し訳なくなる。

 私は感想を言いやすそうな食べ物を探し、ケーキに目をつけた。


 ケーキを自分の皿に乗せ、フォークで切って口に運ぶ。

 咀嚼し、味に集中する。

 安いスポンジと、大量のフルーツをコーティングする、これまた安いホイップクリーム。

 標準的な、手作りケーキの味がした。


 ……駄目だ、どうしてこうもパッとしない感想しか出ないのだろう?

 別に不味い訳では無いのに、味覚情報を言語化すると不味そうになってしまう。


 自分でも、どんどん無表情になっていくのが分かる。

 何か言おうとして、口に出すほどの事では無い気がして、このループの繰り返しが私から表情を奪うのだ。


 結局、私はただ黙々と食事を続けていた。

 もう明日香ちゃんと知り合って長いのに、たびたび私は今の様になる。


 せっかく明日香ちゃんが来てくれているのに、何か、何か話題は?

 どうしよう、私達の共通の話題?


 次第に焦りが強くなっていく。


 やっぱり料理について言及するのが自然だ。

 でも、上手くコメントできる気がしない。

 他には……魔法についてとか?

 いや、流石に唐突過ぎる。


 気がついたら、もう皿の上のケーキを半分ほど食べてしまっていた。

 どうしよう、どうしよう?


 私の焦りがいよいよ限界に達そうとした時、お寿司を食べていた明日香ちゃんが不意に私のケーキを見る。

「かみなしさん、ケーキおいしい?」


「ええ、美味しいわ。明日香ちゃんのお皿にも取り分ける?」

 ……助かった。

 あと少し無言が続いていたら変な事を口走っていた気がする。


「ありがとう!」

 明日香ちゃんは自分の皿を差し出す。


 私は大皿に乗っているケーキを、慎重に明日香ちゃんの皿に移動させた。


「なんか、たんじょうびっぽい!」

 皿の上のケーキを、明日香ちゃんは楽しそうに見つめる。


「そういえば、かみなしさんの、たんじょうびっていつ?」


「十一月十三日よ」


 私の答えを聞いた瞬間、明日香ちゃんの表情が少し揺らいだ。


「そっか……みんなで、お祝いできると良いね」

 明日香ちゃんが、なんとも言えない声音でそう呟く。


 どうしたのだろう?

 私は少し考え、すぐにそれらしい答えに辿り着く。


 ……明日香ちゃんは、誰かと誕生日を祝った事がないのかもしれない。


 私がどんな言葉を掛けようか必死に思考を巡らせているうちに、明日香ちゃんは陰った表情を誤魔化す様に笑った。


「……あ、でも、たんじょうびは、たかしと二人っきりの方がいっか。恋人だもんね?」


 その大人びた表情に胸が苦しくなって、私は思わず口を開いた。


「お、お祝いしましょう、三人で! 私、もうずっと誰かに誕生日を祝われた事なんてないから、だから、あの、明日香ちゃんにも祝って欲しいの。その、明日香ちゃんが嫌でなければ、だけど……」


 言っている途中で余計なお世話だったのではないかと不安になり、言葉が尻すぼみに消える。


 明日香ちゃんは私の言葉に驚いたように目を見開いてた。

 そして、真っ直ぐに私を見てくる。


「したい。私、お祝いしたいよ、かみなしさん」


「っ……ええ! しましょう。ふふ、楽しみね」

 自然と笑みがこぼれる。

 それに釣られたのか、明日香ちゃんも、ふにゃりと笑った。


 +++++


 私達は一緒にお風呂に入った後、寝巻に着替えていた。


 明日香ちゃんは私の寝巻を見て、目を輝かせる。


「わー! かみなしさんのパジャマ、かわいい!」


「そう? 別に普通だと思うけど」

 私は自分の寝巻の裾をつまみ、全体を軽く眺める。

 薄紫のワンピースタイプの寝巻は、確かに私も可愛いと思って買った。

 だが、このシンプルな寝巻では、もこもこでピンクの明日香ちゃんに比べると少々見劣りする。


「にあってて、大人っぽい!」


「明日香ちゃんのウサギ耳の方が可愛いと思うけど……」


「えへー、このフードね、良いでしょ! ぬいぐるみみたいで!」


 そう言うと、明日香ちゃんは寝巻のフードを被ってピョンピョンして見せる。

 随分と気に入っているようだ。


 だが、これではフードの内側が濡れてしまう。

「明日香ちゃん、まずは髪を拭かないと。ほら、こっちに来て?」


「はーい」

 明日香ちゃんが、私の膝の上に座る。


 私は明日香ちゃんの髪を手に取り、タオルで包み込むように優しく拭く。


 明日香ちゃんの濡れた髪はくったりと頭から背中に流れ、まるで高級な布の様だ。

 これだけ長い髪なのにどこも痛んでいないのは、明日香ちゃんが小学生だからだろうか?


「綺麗な髪ね」


「えへぇ、ありがと」


 髪を拭きながら、和やかな時間が流れる。

 今まで普通に遊んだ時には無かった空気感だ。

 気が早いけれど、またこうやって泊りがけで遊びたいな。


 髪の水分を概ね拭き取ったタイミングで、明日香ちゃんが声をかけてくる。


「私も、かみなしさんの髪、ふいてあげる!」


「じゃあ、お願いするわ」


 私がそう言うと、さっそく明日香ちゃんは私の後ろに回り込んだ。


「かみなしさん、髪長いねえ」


「そう? 毛量が多いだけで、長さは明日香ちゃんとそんなに変わらないと思うけど」


「私も、けっこう長いからね!」


 明日香ちゃんは、どこか自慢げだった。

 気分が乗ってきたのか、明日香ちゃんが楽し気に鼻歌を歌い出す。


「……それは何の歌なの?」


「んー、ゲームの曲! 主人公が水族館でデートする時にながれるの」


「へえ、明日香ちゃんはそういうゲームもするのね」

 明日香ちゃんはアニメや漫画がすきだから、言われてみると特に違和感は無い。


「うん! そういえば、かみなしさんは、たかしとデートに行きたいとこってあるの?」


「え? ええと……」

 急に問われて、言葉に詰まる。


 別に、何も思いつかなかったから言葉に詰まった訳ではない。

 デートスポットに関する考察は、既に何度も鏡山君ノートに書いている。

 だが、パッとどこに行きたいのかと問われると、分からない。

 今まで何となく鏡島貴志に誘われる前提で考えていたから、いざ自分で誘うとなると急に気恥ずかしくなるのだ。


「その……買い物、とか? ほら、遊園地ばかりで、センユウマートのモールの方は一緒に行った事が無かったでしょう?」

 結果、無難な答えと言い訳がましい理由を、私は小さく絞り出した。


「良いね! お買い物、楽しそう! いつ行くの?」


「え、いえ、いつというか、その、彼がどんな店が好きか分からないし……」

 妙に乗り気な明日香ちゃんに気圧されて、思わず弱音が漏れる。


「ふーん、じゃあ、ほかには?」


「他? ええと……あ、家に呼びたい、かも、しれない」


 今度はもっと真剣に考えようとして、今日の昼に明日香ちゃんが来る前に考えていた事を思い出した。


「でも、急に家に呼ぶのは……」


 私がすぐに取り消そうと言葉を紡ぎ始めると、明日香ちゃんに遮られる。


「じゃあ! お買い物の後に、しぜんに呼ぼ!」


「え、いや、それは」

 まだ、ごねようとする私に、明日香ちゃんは優しく話しかける。


「ね、かみなしさん。きっと楽しいから、ちゃんとデートしよう? 不安なら、私が一回たかしの好きそうなとこ調べるから、ね?」


「あ、ええ……分かったわ」

 なんだか、少し会わない内に明日香ちゃんも随分と大人びている気がする。


 私の返事に、明日香ちゃんは満足そうに頷いてから携帯を取り出した。


「じゃあ、写真とるよ!」


 唐突に始まった撮影会に、私は訳も分からずピースを作る。

 撮影音と共に、撮影が完了する。


「ほら! かわいい!」


 明日香ちゃんに写真を見せてもらう。

 なるほど、確かに自然な程度に肌は白くなっており、いつもより二割増しくらいで可愛く見えた。

 もっとも、自分のぎこちない笑顔とピースも相まって、あまり意味は無いような気もするが。


「急に写真を撮ったけれど、それはどうするの?」


「たかしに送って、既読がついたら電話して、デートのやくそくするの!」

 明日香ちゃんは、あっけらかんと言い切った。


 写真は、五回撮りなおした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今回も最高でした。二人のやりとりが、距離感が、映像になって流れてくるような。言葉が下手で上手く言えないですけど、つまり今回も最高でした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ