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幼女の自殺配信を通報した後、何故か俺はその幼女に絡まれている  作者: ニドホグ
幽霊と怪物と卑屈

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26/87

日常

 時間、止まらねえかな……。

 俺は、夏休み初日にして、夏休みの終焉を夢想し、時間の残酷さを憂いていた。


 もちろん、時間が止まったら止まったで、様々な問題が浮かび上がる事は承知している。

 しかし、そこに突っ込んだ奴は、一度冷静になって思い出して欲しい。

 何時だって、人類は妄想の翼を広げて発展してきた種族であるという事を。

 つまり、俺の時間に止まって欲しいという願いを否定するという事は、それ即ち、人類の積み重ねを、叡智を、現代社会を否定する事と同義なのだ!

 

 だから何? と半ギレで聞き返されたとしたら――――「プルルル プルルル」


 俺の止めどない理論展開は、携帯の呼び出し音によって中断させられた。


「もしもし?」


「もしもし、上梨です」


「上梨か、何か用か?」


「別に。用が無ければ電話をかけてはいけないの?」


 面倒くさい彼女みたいな切り返しをするな。

 面倒くさいだろうが。


「用が無いなら切るぞ」


「用が無いなら、わざわざ電話なんてかけるわけ無いじゃない」


 ……こいつ! さっきまでの返しだったら、普通は用が無いと思うだろうが!

 最近の上梨の会話は、小回りがきいているような気がする。

 俺の影響だろうか? 腹立たしい限りだ。


「で、何の用なんだ?」


「貴方の叔父さんと、情報交換をする時間になるまでの、暇つぶしよ」


 用が無いのと同義じゃねえか。


「随分と御立派な用事だな。で、何か話題でもあるのか?」


「そうね……前に、面白い話を要求して、貴方が詰めの甘い話をした事があったでしょ? それの挽回のチャンスをあげるから、何か面白い話をして?」


「俺は、同じ轍を踏まない男だ。笑い過ぎて死ぬなよ?」


「流石の私も、失笑では死ねないわ」


 ……呼吸困難になったとしても、絶対に救急車は呼んでやらん。


「三人寄れば文殊の知恵って、ことわざがあるだろ?」


「ええ、三人で話し合えば、普通の人でもすごく良いアイデアを出せるって意味よね?」


「ああ、それであってる。で、この文殊って奴は、めちゃくちゃ頭が良いんだけどさ、このことわざ明らかに間違ってるんだよ」


「……どういう事? 馬鹿がどれだけ集まっても無駄だ! とか言うつもり?」


 怖っ! こいつ、いつもそんな事を考えてんのかよ。

 性格歪み過ぎだろ……。


「まあ、聞け。このことわざが正しかったら、文殊が三人集まっても、文殊一人分の知恵しか出せないんだよ! おかしいだろ? 文殊×3なら、最低でも東大生くらいの知恵は出してもらわないと困る。こんな矛盾を抱えたことわざが、現代まで生き残っているとか、最早人類の怠慢だろ。という訳で、人類が愚かと証明されて、面白いねって話でした……笑えよ」


「…………」


 返事は無い。

 恐らく、笑い過ぎて声も出ないのだろう。

 俺の勝ちだ!


「……ねえ、仮に文殊が三人いたとしても、同一人物が三人いるだけなんでしょ? なら、その人以上の知恵が出ないのは、当然だと思うのだけど」


「…………確かに」


「『鏡山君ノート』に、ユーモアの詰めが甘いって書かないとね」


 電話越しにも、奴のしたり顔が目に浮かぶ。

 屈辱だ。


「挽回のチャンスをくれ! なあ!」


「前回も言ったけど、人生にやり直しはきかないの」


「……くそっ! そもそも、何で未だにそのノートを使ってんだよ? そんなに性格悪い人間グランプリを受賞したいのか? 三連覇を狙ってんのか? たゆまぬ努力の結晶か?」


「何を言っているの? 今までつけていたのは『加賀山君専用嫌なところノート』で、今つけているのは『鏡山君ノート』よ」


 あ、別シリーズなんだ……。


「……『鏡山君ノート』には、何が書かれてるんだ?」


「貴方の……その、特徴とか…………嬉しかった言葉……とかを、書いて、いる、わ……」


「え? あ、ああ、え、あ、なるほどね」


 恥ずかしがるなよ。

 俺まで恥ずかしくなるだろうが。


「因みに、一番最初のページには『上梨、俺と友達になってくれないか?』と書いてあるわ。じゃあ、そろそろ時間だから、切るわね」


 あいつ、言うだけ言ったら勝手に電話を切るとか……まあ、良いか。


 俺がなんとも言えない気持ちに悶えていると、家のチャイムが鳴る。

 恐らく、明日香が来たのだろう。




「今開けまーす」

 階段を降り、玄関を開ける。

 ムッとした熱気がクーラーのきいた家に立ち込める。

 蝉は相変わらず煩いし、空は嫌になるほど晴天で、なにより汗と満面の笑みを浮かべた明日香が、暑苦しくてしょうがない。


「たかし! 来たよ!」


「おう、とりあえず上がれよ。茶とタオルくらいは出してやる」


「コーラが良い!」


「ねえよ」

 我儘ガールが、水道水をくれてやろうか?


 俺は、明日香にタオルと、ぬるい水道水を出す。


「ありがと! おいしい!」

 

 そんな訳ねえだろ。水道水だぞ?

 

 


 俺たちはそんな感じでじゃれあいつつ、部屋に戻ってゲームを開始した。

 俺がベッドに寝そべり、明日香は床に座ってゲームをする状況は、優越感を強く刺激され、随分と気分が良い。


「なあ、明日香。最近どんな感じだ?」

 俺は、画面内で暴れるモンスターに一太刀浴びせつつ、話題を振る。


「んーっとね、また、学校行き始めた」


「楽しいか?」


「つまんない!」


 お、良い返事だ。

 将来有望だな。


「でもね、分かんない勉強、かみなしさんに聞けるのは、楽しい」


「え? お前らそんな事やってたの?」

 少し疎外感。

 別に、気にしてないけど……そうか、二人で勉強会とかやってたんだ……ふーん。

 まあ、面倒だから、頼まれても勉強なんか教えてやらんけど。

 俺がしょぼくれた表情で黙々とゲームに勤しんでいると、明日香が話しかけてくる。


「ねえ、たかしー、私も、ベッドのほう行きたい」


「あー? 嫌だ」


「なんでよ!」


 何でって、熱い、狭い、鬱陶しい、うるさい、のフォーカードがそろってるからだろうが。

 とはいえ、それを言ったら余計に面倒な事になることを俺は知っている。

 故に俺は、話題を逸らすことにした。


「いやー、このモンスター頭硬いなー! 全然攻撃通らねえわー」


「無視! しないで!」


 明日香がキレながら、無理やりベッドに乗ってきた。怖い。


「おい、降りろよ。狭いだろうが」


「せまくない!」


 狭くなかった。


「熱いんだよ、降りろよ」


「熱くない!」


 熱くなかった。


「ねー、いっしょにお昼寝しようよー!」


 明日香が、子供らしくおねだりしてくる。

 しかし、基本的に子供が嫌いな俺に効果は無い。

 おねだりするなら叔父さんにやれ。

 クレーンゲームを三百円分までなら、やらせてくれるから。


「一緒に昼寝とか、しないよ。普通に……って、あ! おいっ! 体力見ろ!」


「え? あ!」


 俺達が気づいた頃には、すでにモンスターの硬い尾が、俺達のキャラクターの目前にまで迫っていた。

 そのまま、なすすべなく叩き潰され、みごとにゲームオーバーだ。


 なんかもう、面倒だな。


 狭いとか、熱いとか、どうでも良くなった俺は、そのままベッドに倒れ込んだ。

 すると、明日香もちゃっかり隣で横になる。

 小さく収まった明日香を見ながら、俺は一つ息を吐き、これからの夏休みについて考えを巡らせる。


 どんな事があるかは分からないが、夏休み初日で既にこれなんだ。

 そう悪くはならないだろ。

 今年の夏は、ぼちぼち楽しくなりそうだ。

 

 ……なんて、俺らしくないな。

 だから、敢えて俺はこの夏の始まりを、ネガティブな言葉で締めくくろうと思う。




 慢性的に、胸糞の悪い夏になりそうだ。


 


+++++




幼女の自殺配信を通報した後、何故か俺は、その幼女に絡まれている「第一部 完」


これで、「幼女の自殺配信を通報した後、何故か俺は、その幼女に絡まれている」第一部完結です。

ここまで続ける事ができたのも、ブックマークをして下さった方々や、感想を書いて下さった方々、そしてなにより読んで下さった方々のお陰です。本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初から一気に最後まで一気に読んでしまうほど面白かったです。 主人公の天邪鬼な考え方が独特でとても物語にいい?影響を与えていたような気がしたました。 [一言] 完結お疲れ様でした。これから…
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