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幼女の自殺配信を通報した後、何故か俺はその幼女に絡まれている  作者: ニドホグ
幽霊と怪物と卑屈

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境界

 ガラリと戸を開き、教室に入る。


 上梨は…………来ていない。

 予想はしていたが、やっぱり来てなかったか。


 上梨の家まで行くか?

 でも、まだ友達じゃないしな。

 というか、そもそも上梨の家知らねえじゃん。


 時間が経つにつれ、だんだんと教室が騒がしくなってくる。


 話し相手がいない学校は、久しぶりだ。

 ああ、やる事なくなったな。


 意味もなく教室を見渡す。

 楽しくお話ししちゃって……いや、お気楽に見えるこいつらの中にも、何かしらを抱えた奴がいるのだろう。


 もしかしたら、この中にも怪物がいる可能性だってある。

 ……少し前までは、オカルトなんて全く信じていなかったのに、今では教室で怪物を探している。

 全くもって、おかしな話だ。


 すぐに教室鑑賞に飽きる。


 どんな物を抱えていようが、結局そいつの事を知らなければ、風景と大差ない。

 ああ、暇だ。

 そういえば、暇を感じるのなんて、久しぶりだな。


 存外、俺の中で上梨や明日香の存在が大きくなっていた事に気が付き、驚きを覚える。

 というか、関わるだけで命の危険が生じる相手の為に行動しているのか、俺は。


 上梨の事、相当好きじゃん。

 自分の嫌な執着性を認知してしまった。

 もんどり打って枕に頭突きをかましたい。


 さっさと上梨と俺の関係性を確定させて、この騒動を終わらせよう。

 俺の決意や、悩みなんかとは無関係に、教室はいつまでも好き勝手に雑音を撒き散らしていた。




 やっと学校が終わった。


 俺は、上梨の電話番号を聞く為に、足早に明日香の家を目指す。

 ああ、瞬間移動が使えたらな。

 ……もしかして、魔法や怪物が存在するのなら、瞬間移動も存在するんじゃないか?

 いや、むしろ無い方がおかしい。


 だいたい、魔法なんていう素敵概念の存在を認知したのに、今までロマンが無さ過ぎた。

 なんだよ、手からウニョウニョを出すだけって。

 ふざけているのか?


 叔父さんは死者蘇生をできるらしいし、きっと瞬間移動もできるだろ。

 夢が広がるぜ!


 考え事をしていると、時間の進みが速い。

 どんな魔法を使いたいかを妄想していたら、いつの間にか明日香の家に到着していた。


「たかし!」


 明日香がこちらに駆け寄ってくる。


「お前、わざわざ入り口で待ってたのか?」


「もうちょっとで、来ると思って」


 俺も、随分と懐かれたものだ。


「早速で悪いが、上梨の電話番号を教えてもらって良いか?」


「うん」


 明日香はごそごそとポケットをあさり、微妙にしわになった紙を取り出した。

 紙に電話番号って、スマホを使いこなすイマドキ幼女の癖に、変に旧時代的だな。


 俺は、明日香からもらった紙を見ながら、電話番号を入力する。


 呼び出し音が鳴りだす。


 少し、緊張する。


 呼び出し音が鳴っている。


 自分から電話をかけたのって、いつぶりだ?


 呼び出し音が鳴っている。


 ……出ないな。


 その後も、呼び出し音だけが空しく鳴り続けた。


 もしかしたら、知らない番号の電話には出ないタイプなのかもしれない。


 明日香のスマホでも、電話をかけてもらう。

 しかし、明日香からの電話にも、上梨が出る事は無かった。


 予想はしていたが、少し面倒だな。


「なあ、明日香。上梨の家知ってるか?」


「へ?!」


 何だ、こいつ。


「どうした?」


「……な、名前、呼んだから」


「昨日、お前が自己紹介したんだろうが。驚くなよ……」


「もう一回! よんで!」


 面倒だな。


「上梨の家を知ってるかどうか、教えてくれたら呼んでやるよ」


「知ってる!」


 こいつの持つ、子供特有の単純さは、なかなかに良いよな。


「明日香」


「なに!」


 何! じゃねえよ。お前が呼べって言ったんだろうが。

 まあ、昨日は迷惑かけたし、少し茶番に付き合ってもやってもいいか。


「呼んでみただけっ」

 ……つってな。


「たかし! キモい!」


 こいつ……! 

 失礼な奴だ。平気で暴言を吐きやがって!

 所詮は馬鹿なガキ、猿の末裔らしく気品が皆無だ。

 全く、俺の友達を名乗る以上、最低限の品性は身に着けて欲しいものだ。


 そんな益体も無い楽しい会話をしていると、スマホが鳴る。

 上梨からだろうか? 


 明日香に見守られながら、俺はスマホの画面に目を落とす。


 非通知だ。


 少し緊張しながら、電話を取る。


「もしもし」


「もしもし、黒崎です」


 果たして、電話越しに聞こえてきた声は、叔父さんの物だった。


「叔父さん! どうしたんすか? 急に非通知から電話が来たんでびっくりしましたよ」


「ああ、貴志君。いやあ、近くの公衆電話からかけていまして……」


「ああ、なるほど。で、何の用なんすか?」


「せんゆう様の落とし子を捕まえましてね! すぐに駅前の大きい交差点まで来てくれませんか?」


 ……上梨が、捕まった。

 今、どういう状況なんだ? 聞くのが怖い。


 結局俺は、上梨を探す手間が省けた! と自分を誤魔化す事にした。

 尤も、自分に誤魔化される程に愚かな俺でも無いが。


「今すぐ行きます」


「ありがとうございます。では、後程」


 電話が切れる。


 叔父さんの口ぶりからは、娘の復讐みたいな物騒な雰囲気は感じられなかった。

 ひとまず、それで安心しよう。


「おい、明日香。上梨の居場所が分かったぞ。一緒に来るか?」


「うん!」


 明日香の表情が、パッと笑顔に変わる。

 こいつも、昨日の取り乱した上梨を見てからずっと心配していたのだろう。


 よし、さっさと死者蘇生を済ませて、友達作りと洒落込みますか!

 上梨も、殺したい程に待ちわびてるだろうしな。


 俺達は、上梨の待つ駅前の交差点を目指して、全力で走り出した。

 上梨に、人を喰うだなんて性質では俺への脅しにもならないと、

 友達にだってなれるんだと、

 そう伝える為に!

 

 まあ、全力疾走をしていたら……すぐにバテた。

 交差点、地味に遠いんだよな。

 

 俺達は、上梨の待つ駅前の交差点を目指して、ダラダラと歩いている。


 急いだって意味ないしな。

 なんなら、この歩行ペースは上梨との信頼の証とすら言える。

 友情に、時間なんて関係ないのだ!


 しかし、ただ歩いているだけでは暇だな。


 どうせ、やる事も無い。

 であれば、緊張して無言でいるより、明日香と話していた方が良いだろう。


「なあ、明日香。お前は上梨の事どう思っているんだ?」


「どういうこと?」


「ほら、上梨って今まで人を何人か殺しているだろ? その事についてとか」


 明日香がうーんと唸る。

 分かりやすく悩むな、こいつ。


 まあ、そんな簡単に出る答えでもないか。


「えと、ね、うらやましかった」


 割とすぐに答え出たな。


「羨ましいって、どういう意味だ?」


「かみなしさんは、好きな人、食べるんでしょ?」


「そうらしいな、好きの基準は良く分からんが」


 明日香は少し俯き、懺悔するかのように言葉を紡ぐ。


「食べられた人が、かみなしさんに、いっぱい好かれて、死ねるのが、うらやましかった。でもね、かみなしさん、たかしを食べそうになって、すごいこわがってたから……」


 明日香は、正しい言葉を探す様に、手探りで、ゆっくりと吐き出した。

 

「今は、かみなしさん、かわいそうって……助けたいって、思ってる…………」


 できるかなぁ。と、最後に呟くように付け足した事を、俺は聞き逃さなかった。


 こいつなりに、上梨を受け止めて、考えている。

 ……子供の癖に、強い奴だ。


 しかし、助けられるかどうか、か。

「上梨しだいだな、助かりたくない奴を、助ける事はできない」


「なら、だいじょうぶ!」


 どうやら明日香は、俺の答えに満足したようだ。


「たかしは、かみなしさんが人食べてるの、どう思ってる?」


 俺か……俺は、思う所が無い訳ではない。

 叔父さんの娘さんも喰われているし。

 ……だが、俺が何か口を出せるほど、上梨は漫然と生きていない。


 俺は、わざと表情を悪そうに歪めて口を開く。

「上梨が誰を喰おうが喰うまいが、俺には関係無い。だから、毛ほども気にならねえなあ!」


「たかしっぽい!」


 ……そうですかい。


 駅に近づいたからか、徐々に人が増えてきた。

 これだけ人がいる中で、叔父さんはどうやって上梨を捕まえているのだろうか?


 もう交差点が見えてきたけど、上梨達は見あたらない。

 どこに居るんだ?


 交差点にたどりつく。


「たかし、かみなしさん、どこ?」


「駅前の交差点に居るって聞いたんだが……っ!」


 唐突に視界が、ぐにゃりと歪む。

 何だ!? 


 とっさに明日香の手を掴む。


 瞬間。


 視界を埋め尽くしていた人間が消える。


 瞬間。

 

 眼前の道路が、影の様に無限に伸びる。


 瞬間。


 交差点が無限に交差を繰り返す。


 ……何が起きた? 


 明らかなオカルト現象を前に、俺は明日香の手を離さないようにしっかりと握りなおした。




 背後に……誰かいる。


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