おそらく私の勘違い
勘違いシリーズです。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
私は元々孤児院に往んで暮らしていたのだけれど、昨年、私の父親だという男爵が迎えに来て【男爵令嬢】という肩書きを勝手につけられた。
それからは毎日、お勉強とマナーを朝から晩まで叩き込まれて休む暇もなく過ごしていると、次の年には王立学園に入れと命じられて度肝を抜かれた。
私はついこの前までただの庶民だったのに、貴族様の世界に放り込まれて、何なのだと憤りを感じた。
何が男爵令嬢だ!
何が貴族だ!
何が父親だ!
名前だけのものだらけじゃないか!
しかも学校に入ってみたら案の定他の貴族の子らからは爪弾きにされる。
はっ!
だけどね、こちとら庶民としてだてに生きてきた訳じゃないんだ。
そんなのちっとも痛くも痒くもないわ!
とにかく平穏に一年過ごして、ある程度お金をためたりしたらこんな家なんて飛び出してやる!
それまではとにかく平穏に学園ライフを過ごすしかないと思っていたら、何で王子様が絡んでくるのよ!
止めて。
近づかないで!
貴方の婚約者が私に呪いをかけているんじゃないかっていう目で見てくるから!
ちょっと!
やっと王子様を撒いたと思ったら何でこの国一番の魔力をもっているという噂の子が話しかけてくるのよ!
こっちこないで、研究室にでも籠っていて!
はぁ。
て、おいおいおい。
いきなり全速力で走って来たかと思ったら、最年少で騎士団に入隊したという人ではないですか!
ちょっと!
ちゃんと前見て走りなさいよ!
私が運動神経が良かったから飛び退いて避けられたけど、普通の人なら全治一ヶ月はかかっていたわよ!
え?
治療費?
怪我してないなら大丈夫よ。
はぁ、、、疲れた。
今日は厄日だわ。
寮に帰るとそこには何故かオネェの受付の男性がいた。
はぁ。
疲れているので絡んでくるの止めてほしい。
部屋の中に入り、ベッドにごろりと横になると大きくため息をついた。
「はぁ。でも頑張らないと。」
それからの毎日は、予想以上に大変なものであった。
何故か毎日絡んでくる王子様。
勉強会とやらに何故か出席しなければならず必ずそこにいる魔力の強い子。
全力でいつも廊下でぶつかろうとしてくる最年少騎士。
毎日寮に帰る度にもっとおしゃれして楽しまなきゃとこちらの見た目の世話を焼こうとしてくるオネェの男性。
毎日、毎日、毎日、毎日、本当にお前らバカなんじゃないか、こっちに構わないでくれ!
お前らが絡んでくると令嬢には睨まれるし、学園側にも睨まれるし、よく知らん騎士らにもじろじろ睨まれるし、寮に帰れば寮で勤めているおばちゃん達にも何か睨まれるんだ!
はぁ。
平和が懐かしい。
ここは平和じゃない。
そんな日々を送っていたある日、何と魔王復活の知らせがあり、国は騒然となった。
魔王討伐の為、国は選定の儀を行うことを決め、上流階級の者らからその選定は行われていった。
そして、次々にその枠が決まる。
しかも、あの四人である。
選定の儀はおかしいんじゃないかなと思わざるを得なかった。
勇者に王子様。
魔術師に魔力の高い子。
聖騎士に最年少騎士の人。
そしてオネェって、何枠なの?何でそれだけ公開されてないの?
え、怖い。
残すところは聖女枠だけになり、私は不安になってきた。
だって、あの四人である。
世界にもし引力なるものがあるとするならば、あの四人を私は何故か引き付けていた。
恐ろしい考えが頭の中で廻っていく。
これって、私の勘違い?
いや、いや、いや。
どうすればいい?数日後には私も選定の儀を受けることになるだろう。
どうする。
よし、逃げよう。
その日の夜、私は学園を抜け出して人は危険だから通ってはいけないと言われる学園裏の森の中を荷物を抱えて一人歩いていた。
選定の儀が始まってから学園の警備は物々しいものになっており、正面から抜け出すのは無理であった。
この森は、魔王復活の知らせを受けてからさらに危険になったと言われ、人は近づかない。
はっきり言えば、真っ暗でかなり怖い。
そして、次の瞬間雷鳴が轟き、目の前の巨木に落ちるとそこに見たこともないほど恐ろしく、そして美しい男の人が立っていた。
何だ。
誰だ。
美丈夫とは彼の事を言うのだろう。
「聖なる乙女よ。何処へ行く。」
その言葉に、私は即座に返した。
「いえ、聖なる乙女ではありません。私はしがない平民です。」
その言葉にその美丈夫は首をこてんと倒すと、こちらへとひょいと飛んできて私の目の前に立った。
「お前からは聖なる乙女の匂いがするが。」
「え?臭いんですか?え?ごめんなさい。」
「いや、臭いわけではないが、、、お前そんな荷物を持って何処へ行くんだ?」
私は早く行きたい衝動を抑えると答えた。
「いえ、このままだと聖女とか言うものに選ばれて、あのおかしな人達と魔王討伐に行けと言われそうな気がして、逃げようと思いまして。あの、美丈夫さんはどうしてここに?」
男はきょとんとした顔を浮かべた。
「ちょっと待て。一つ一ついいか?おかしな人達?勇者らの事か?」
「ええ。あの人達頭おかしいんですよ。私みたいな一般市民にやけに絡んできて、あ、これ内緒ですよ?バレたら罰せられそうで怖い。」
「ふ、ふふ。そうか。でも、まぁお前に引き付けられるのは仕方ないかもな。お前からは清らかな力を感じるから引き寄せられたのだろう。」
「え、何それ。」
「あと、美丈夫さんとは何だ?」
「へ?あ、ごめんなさい。あんまりにもきれいな男の人だったから。つい勝手にそう名付けてました。」
「ははっ!お前は面白いなぁ。そうだ。行くところがないなら、私の処へ来るか?」
その時であった。
恐らく雷鳴を聞き付けて、何があったのかと調べに来たのだろう。
馬の蹄の音が聞こえる。
このままだと私は捕まって聖女なるものにされてしまうかもしれない。
「行きます!行かせてください!お願いします!」
ここにいるよりは断然いいはずだとその手をとった。
私は美丈夫に抱き抱えられ、そのまま空中へと飛び上がった。
「待て!くそぉ!」
「彼女を返せ!」
「何と言う禍々しさだ!」
「助けてあげるからちょっと待っててぇ!」
何と現れたのはあの四人であった。
「え?遠慮します!皆様お元気で!私はこの人と行きます!」
美丈夫は笑い声をあげると四人に言った。
「はっはっは!聖女と引き換えに、この世界を混沌へ落とすことは止めてやろう。だが、お前らがこちらへ害をもたらした時にはそれ相応のお返しをする。では、人間よ、さらばだ。」
「へ?」
私がきょとんとしている時、世界がぐにゃりと曲がって移動するための魔法が使われた事に気がついた。
最後に、
「待て魔王!」
という声が聞こえたのは。
おそらく私の勘違いだろう。