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【電子書籍化】冥府の王に嫁入りします!  作者: 天宮夕奈
第ニ章 ラーン王国 魔法修業編
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【電子書籍化記念】アメリアの日常

電子書籍化記念に、番外編をお送りいたします。

第一章の終わり33話「聖婚式」から、すぐの頃の番外編になります。

 聖婚式が終わり、すべてが一段落すると、アメリアに日常が戻ってきた。

 午前中の勉強が終わったアメリアは、食堂に向かう。昼食は他の神官と共に食堂で食べることが多い。神官とはあまり交流することがないのだが、昼食のこの時間だけは、神官と少しだけ話すことができるので、アメリアはこの時間をいつも楽しみにしていた。


「こんにちは、神子様」

「お疲れ様、皆さん」


 食堂に入ると、全員が席を立つ。アメリアは皆に顔を向けて挨拶をすると、給仕をしている神官に歩み寄った。


「もうお腹ペコペコ。今日はなんですか?」

「今日は寒いので野菜たっぷりのシチューです。どうぞ」


 器に盛られたシチューを受け取ると、アメリアは目を輝かせる。毎日忙しく仕事や勉強をしている中で、一番の楽しみは食事だ。神子になる前は、食事のマナーや話す内容に注意しなくてはならず、料理を楽しむ暇はなかった。

 ここに来てからは、純粋に美味しい料理が味わえて、食事の本当の楽しさが分かったのだ。


「神子様、こちらへどうぞ」


 女官たちの呼び声に誘われて、長テーブルの端へ行くと女官たちの輪に加わる。


「今日は寒いわね」

「もうすぐ雪の季節ですねぇ。神殿は寒くなりますから、風邪などひかないようにお気を付け下さいね、神子様」

「そっか。うん、ありがと」


 同じ年頃の女官たちとはもうすっかり打ち解けた。神子であるからか、最初はずっと遠巻きに見られていたけれど、アメリアの方から気軽に声を掛け続けている内に、随分気さくに接してくれるようになった。

 全員で祈りを捧げると、食事を始める。



「聖婚式は本当に驚きました」

「もう、まだあなた言ってるの?」

「あら、あの興奮はまだまだ治まらないわ!」


 女官たちはお勤めをしている時の物静かな様子とは打って変わって、明るく楽しそうに話している。


「死者の神のお姿を拝見できたのよ! こんなすごい奇跡を目の当たりにして、落ち着いていられないわ!」

「エマの気持ちも分からなくもないわ。私もつい思い出してしまうもの」

「あんな素敵な殿方が死者の神だったなんてねぇ……」


 3人がうっとりと中空を見つめるのを見て、アメリアは苦笑してしまう。

 聖婚式が終わってしばらくはこの話題で持ち切りだった。サリューンの姿はかなりの数の人に見られた。幻のような姿だったけれど、顔の造形が分かる程度には、はっきりとした姿だった。


「神子様はいつも死者の神と会っていらっしゃるんですよね?」

「そうね。毎朝ご挨拶に行っているからね」


 アメリアがそう答えると、3人は羨ましそうにアメリアを見つめた。


「はぁ、あんなに素敵な方のおそばにいられるなんて羨ましいです」

「下世話なことを言わないの!」

「だって仕方ないじゃない。本当に素敵だったんだもの」


 3人の言葉に、アメリアは何となく嬉しいような、恥ずかしいような気持ちになった。

 サリューンが姿を現したことで、神官たちは神の存在がぐっと身近になったようだった。


「神子様と死者の神が並び立った姿は、本当に美しかったです。きっと死ぬまで忘れないでしょう」

「ありがとう。なんだか照れちゃうけど、そう言われると嬉しいわね」


 アメリアが微笑むと、女官たちも嬉しそうに笑った。



◇◇◇



 午後は王宮で仕事があって、護衛の騎士と共に、リオンが一緒に付いてきた。


「メル、寒くないか?」

「全然平気よ。あなたこそ、そんな薄着で大丈夫なの?」


 アメリアは厚手の神官服の上からマントまで羽織っている。それに比べてリオンは夏と同じような薄手のシャツ一枚だ。長袖になっているとはいえ、見てるこちらが寒くなるような恰好だ。


「平気さ。ちょっと動けばすぐ体は熱くなるし、このくらいが丁度いいんだよ」

「元気ねぇ」


 呆れた声でそう言うと、ふと昼の会話を思いだした。ちらりと騎士の方を見て、少し距離があることを確認する。


「ねぇ、リオン。今日ね、女官たちがまたあなたのことを話していたわよ」

「俺のこと?」

「聖婚式の時のことよ。皆、あなたの姿を見られたことが、今でも忘れられないって」

「うーん、やっぱりあれは良くなかったかなぁ」


 頭を掻いてリオンは首を傾げる。


「そんなことないわ。皆の心の支えになっているんだもの」

「そういうつもりで姿を現したんじゃなかったんだけど……」

「じゃあ、どういうつもりだったの?」


 アメリアが訊ねると、リオンは少し照れたような顔で答える。


「あれはさ、せっかくの聖婚式だし、二人の方がメルが嬉しいかなって思ったんだよ……」


 ぼそぼそと聞き取りづらい声でリオンが言った言葉に、アメリアは驚いた。


「それで出てきてくれたの?」

「出てっていうか、あれは影を飛ばしたようなもので、そんな大層なことじゃないんだけどな」

「そんなことない! 私、とっても嬉しかった。サリューンが姿を現してくれて、一緒に歌ってくれて。本当の結婚式を挙げたって思えたよ」

「ホントか?」

「うん!」


 リオンが戸惑った顔をこちらに向ける。窺うような表情にアメリアは笑顔で頷く。


「でも、ちょっとだけ困っていることもあるの」

「え? なんだ!?」


 アメリアが苦笑しながらそう言うと、リオンは慌てて聞いてくる。


「女官たちが、あなたが素敵だって口々に言ってるの。きっと憧れてしまう人もいるんじゃないかしら」

「ええ!?」


 驚くリオンに、アメリアはクスクスと笑う。


「え、だって……、それは、えー……」


 わたわたと慌てふためく姿を見て、アメリアはますます笑ってしまう。


「きっとしばらくは言われるわね」

「……ごめん」


 しょんぼりとしたリオンに、アメリアは首を振った。


「謝らないで。そういう意味で言ったんじゃないわ。私、ちょっと嬉しいの」

「嬉しい?」

「うん。だって、『あなたの旦那様は素敵な人ですね』って言われているのよ? 妻としては鼻が高いじゃない」

「そ、そうなのか?」


 意味が分からないのだろうリオンは、首を傾げている。

 アメリアはそんな様子に笑みを浮かべると、手を伸ばした。一瞬、リオンと手を繋ぎたかったけれど、すぐにそばに騎士がいるのを思い出して手を引っ込める。

 それでも今リオンに触れたくて手を伸ばすと、背中を優しく撫でた。


「メル?」

「ありがとう、サリューン」


 囁くようにそう言うと、リオンがやっと笑ってくれた。


「うん」


 そうして二人は穏やかに微笑み合った。

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