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今回は伏線に伏線を重ね、さらにそれに伏線を、というパティ倍の夜マ○クもびっくりなほどに伏線だらけです。串屋の3度付け状態で、果たして許されるものなのかと心配でお腹が痛くなりますが、いつか回収するつもりです。遠い未来になりそうですが。
~B視点~
俺は廊下を走っていた。何かを企んでいるであろう奴の元に行くために。
何かキナ臭い。違和感が俺の頭を揺らし続けている。ずっと引っ掛かっているものがどうにも取れない。
「おい!A!貴様……一体何をした?」
そう言うと、廊下をぶらついていた奴はおもむろに振り向き、首をかたっと傾げながら口を開く。
「何を、なんて言われてもね。僕は大したことはしていないさ」
頭がかっと熱くなる。大したことはしている、ということだ。俺は些細なことでも物事は反転されるということを知っている。
そして、奴のしたことが俺の中で疑念から確信に変わる。
「貴様……嘘をついたな?」
奴の目が細くなる。
「はて。嘘をついた、だなんて人聞きの悪いことを言われてもねぇ。そもそも、人は知らず知らずの内に事実とは異なることを解釈違いで言うものさ。だから、仮に嘘をついてても、仕方あるまい」
「貴様がそんな芝居かかった風に言うときは俺の考えが合ってる時だ」
「そんなメタな話はしないでおくれよ。まあ、正解なんだけどさ」
奴はやれやれ、とでも言いたげに首を振り、それから、こちらを見る。奥底を見透かすように、見る。
「それで?何が嘘なのか分かったのかい?君のことだから分かっていそうだけど」
「ああ、分かったよ。貴様がついた嘘は……」
『Qの予言は裏切り者の存在について』
「これが嘘なんだな?」
「……ふむ。話を聞こうか」
「まず、前提としてQの予言自体はあったのだろう。だが予言の内容が違う。予言は恐らく、誰かからの襲撃が来る、とかくらいだろうな」
軽いハッタリだ。だが、奴の反応でそれが間違っていないことを確認する。
「……その根拠は?」
「Qの才能だ。あいつの才能は未来を予言する力。つまり、未来におけるある場面を映す鏡といってもいい。そこでだ、今回の予言を考えてみると、おかしな点がある。」
そう、違和感はそこにあったのだ。話しながら言葉を纏めていく。
「未来の場面を映すのに『ある人物がいる』ということのみが映ることがあるのか、という点だ。」
「未来のある一点において、誰それが何処そこで○○している、という予言なら納得出来る。だが、よく分からない対象がいる、だなんてあやふやなものが予言される訳がない」
未来の予言には動作が付き物だ。キリストが生誕するしかり、地球が滅ぶしかり。
「さらに、だ。裏切り者が仮に今いるのだとしたら、その予言は未来を表すものではない。現状を表しているに過ぎない」
「才能の範囲は絶対だ。だからこそ、こんな予言はされるはずがない」
このクソッタレな力はある程度の目安になる。才能の範囲外のことは天と地がひっくり返ろうとも起こることはない。
「……ひゅー。大正解だ。拍手でもしておこう」
パチパチと広い廊下で音が響き渡る。
「予言の内容も殆ど合ってるよ。幾人もの知らない人がここを襲ってくるんだってさ」
「……嘘をついた理由はCやDに皆を守らせるため、か」
「そうだね~。それにホントに裏切り者がいる可能性もあったしね。一石二鳥ってやつだよ。さて、と。そろそろ時間だよ。敵を撃退しに行こう。」
下世話な話をするかの如く、奴は話す。その姿に、内容とのギャップを感じてしまい少し苦笑してしまう。
「貴様もなかなか悪い奴だな。いつもこんなことをしているのだろう?」
軽口を叩く。次からはこいつの手伝いくらいはしてもいいかな、と結構乗り気な自分がいることを認識する。
「ん?まぁね」
「ただまぁ。一つ言い訳がましく言うんだとしたら」
「なんだ?」
Aの次の言葉を聞く準備に少し心を落ち着かせた。
「僕は汚いことには山ほど手を染めてきたよ?でもね、それでも僕の根っこにある暖かいところだけは何があっても汚さないようにしてるのさ」
……そうか。こいつの原点は無垢なまま、か。
「くくくっ。そうか。それは良かったな」
「ああ。凄く良いことだよ」
貴様がその大切なところとやらを汚さないように、貴様が汚れきる前に、俺がその汚れを受けようではないか。貴様の隣に立って、貴様の盾となろう。
そう、心の底から決意した。
――――――――――
~A視点~
広場は広い。およそ世間一般の高校の運動場ほどはある。その真ん中に黒いもやが場違いに出てくる。それを僕らは屋根の上で密かに見下ろしていた。
黒いもやからは人が沸き、それはとどまるところを知らないようだ。そうやって沸いた人達の前には普通の人とは明らかに違う空気感の人が数人立っていた。
その中でも一番際立っていたのがさらに前にいた、黒いマスクをしたパーカーオンパーカーをした青年だ。うわっセンス悪。
「出てきたよ、B」
彼が頷いたのを確認して、僕は黒もやに視線を帰す。
「さて。今回は何度やり直すかなぁ」
僕の才能である『昔は良かった』は何度でもやり直すことができる才能だ。それを拡大して捉え、僕は過去の事象や僕の体にやり直しを要求している。
でも、やり直しの為、一度は僕が行わないといけないという制約が存在していて、つまり、僕が記憶していないとやり直すことはできないのだ。
さらに、一度戻った時間よりも過去には戻ることが出来ないという性質を持つ。だから、七歳とかに戻るとそれ以前、六歳や赤ちゃんには戻れないのだ。
だが、それを込みにしてもなかなか強い才能だと自負している。
相手の動きを学ぶことが出来るし。何度でも最適解を選び直すことが出来るからだ。
まるでアクションゲームの主人公のように。でも、僕のは世界の真理でもなく、ただの能力だから死ぬ前に発動させないとそのままポックリなんだけどね。
常時死んでも死なない才能だなんて、僕は25人いるこの施設でもEくらいしか知らない。彼もプロジェクトの第一世代で、ベースの血を濃く継いでいるから才能は強いんだけど、それでも三回殺されると流石に死ぬ。何回も見たから瞼の裏に見えるくらいに覚えている。
要するに生死は易々と塗り替えられるものではない。いつもそのことは僕の頭を定期的に占領する。目の前が白と黒で構成されるような感覚を感じるから、その部分だけは嫌いだけれど。
そうこう考えている間に僕の頭は冷えていた。これで準備は万端。無理やりBを巻き込んだけどそれだけの敵になりそうだったから仕方ない。
さて、お喋りはここまでだ。やろう、僕たちの戦いを。
僕は挨拶代わりの飛び膝蹴りを一番前に立っていたマスクパーカー男にお見舞いしてあげた。
以下、人物と才能表。
才能:昔は良かった
Aの才能。事柄をやり直す能力。彼が七歳に見えるのもこの為。というか実際に七歳に若返っており、マイナス五歳肌も目じゃない。彼の意識によって発動するので気絶していると、使用不可。なぜ彼が七歳になっているのかも理由があったり無かったり。