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未完成な君へ。  作者: 海月
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『裏切り』は意識していなくても裏切りたり得るのでしょうか。他にも、『裏切り』はある視点のみにしか存在していなくて、全体で見れば裏切りそのものが無い、なんてこともあるのでしょうか。

そんな疑問をぶつけられた彼女はこう言います。

裏から切ろうが表は切れるものですから、いっそ堂々と辻斬りでもしてしまえばいいのに。

「さて、と。」

私は広場を軽く一望する。居るのは……ざっと十人くらいか。ちょっと動き見てみるか。


~30分後~


んーむ。わからん。ここにいる人は違いそうだな。さて、別のところ行くか。

「どうしたんだい?C。まるでロダンの『考える人』みたいじゃないか」


この声は。くるりと半回転した後に私の目に飛び込んできたのは驚異的で脅威な胸囲だった。

「…ちょっと目が変なところに向いてるとおねーさんは思うんだな?」


羨ましい。なんでほとんど同じDNAでこんなにも格差が生まれるんだろう。むむむ。

自分の胸に目をやる。すとーん。

前を見る。ぶをーん。

Cに(精神的)ダメージ2000万!ノックアウト!

どこからか実況の声が聞こえたような気がした。



「それで?どうかしたのかい?悩みがあるのなら言ってみなぁ?」

うーむ。どうしようか。

彼女の名前はD。彼女も私たちと同じ第一世代の一人だ。Aには言うなと言われてないし、別に、アレを言ってしまっても構わんのだろう?という気がむくむくとする。


それに彼女はこの施設のおねーさん的な立場だ。包容力は有り余るほどあって、小さい子が知らない間に彼女の包容力に捕らわれ、自主的に彼女に寄っていくのだ。私にはUくらいしか寄ってこないのに。やはり、胸囲か。包容力は胸囲に比例するのかよチクショウ!


「……なにやら可笑しなことを考えられてると思うんだな?」

…失敬。取り乱してしまった。

それはさておき、まあ、彼女になら言ってもいいかな。

「つまりは、カクカクシカジカの、云々で……」

「うん。おねーさんにはその言語はちょっと分かんないなぁ?」


なん…だと…?こういう時はカクカクシカジカ丸かいてチョンで伝わるものだろう。

ふざけるのは流石にここまでにしておいて。本題を話す。


「実は、この施設に裏切り者がいるみた…」

「ほう?」

空気が変わった。冷気が周りで降り積もっている錯覚を覚える。


「つまりC達は皆の中で嘘をついてる子がいると?」

「……Qの才能だよ?信じないわけにはいかないでしょ」

「でも、皆の中に裏切り者はいないよ。それだけは、断言できる」


彼女の方が人を見る目自体はある。一度信じた者を疑い難くなる欠点はあるものの、今回ばかりは確固たる決意がある。恐らく大丈夫そうだな。


「そう。だったら…Qの狂言?」

「いや、それもない。彼女もまたそんな嘘はつかない」

「だろうな。つまりは…」

「『皆を誑し込んでいるやつがいる』ってことだねぇ」


結論に至ったな。研究者の中に敵がいる。

Dの目が少し細くなる。


「…おねーさんも少し見て回るよ」

「いや、Dは皆のそばにいて。そっちの方がいい」

「でも……!」

「こんな時に皆のお姉ちゃんがいなくてどうするの?それに接触してくるとしたらその子達でしょ。皆の帰る場所に、安心できる場所になるんでしょ」

いたずらっぽく言う。


実のところ、彼女に何処かに行ってもらうと、私が子供達を見ることになるが、あまり交流のない彼らが安心できるとは思えない。

悪いが子供の面倒は私の専門外だ。


「…ふふ、そうだね。そこはおねーさんのテリトリーだ。おねーさんが皆の場所を守らなきゃね」

「でも、C。どうせ、皆の相手がめんどくさいから、でしょ?」


ギクッ。バレてる。

「まあ、いいけどね。ここはおねーさんの居場所だよ。たとえCであっても決して譲らないからねぇ」

それは結構。そちらの方が私も嬉しい。これがWin-winの関係とやらか。


「それより、早く行ったらどうだい?あいつらの動きを見に、さ」

「ああ、そうするよ。それじゃ、後はよろしくね」

「おっけ~。行ってらっしゃい」


――――――


さて、と。おねーさんも頑張らなきゃね。そう、おねーさんは、Dは思った。

それにしても、こんなことをしでかした人は誰なのだろうか。

まあ、いい。誰であってもおねーさんが痛い目を見せることには変わらない。


もう、誰かが泣いている姿は見たくないものだ。だから、その為におねーさんは全力を尽くす。皆の幸せを掴み取るために。日の明るさに誤魔化された、しかしそこに確かに在る星々に誓う。

どうか、皆が幸せでいれますように。誰も泣かなくていい世界で居続けてくれますように。


「よし。元気でた~~!皆の所にも~どろ!」

今日もここは平和だ。仮初めの偽りであったとしても。


――――――


研究者は基本的に別区画にいる。

といっても、私達が逃げ出さないように周りを囲われているのだけれど。

食料支給区画は南側。この施設の全食料はそこで賄われている。

北側には才能研究区画がある。小規模で済んだり、精密機器を要する実験はここで行われる。

西側は実験場がある。広規模の実験に使用される。

東側は発電所となっている。電力はここから供給される。


実際のところ逃げることは恐らく容易い。発電所を壊してしまえばこの研究所のほとんどの機能が停止するからだ。だが、逃げたとしてもどうしようもないし、日本にいる限り日本政府に追われ続けるのが終いだろう。


ましてや、別の機関が私達を保護したとしても保護された環境は決して保証されない。

ここでは実験こそ月に十数回あるものの、それ以外の時間は自由だし、欲しいものは言えば基本与えられる。この前、Sが富と名誉などと抜かしていたが、そういったものでないなら与えられるのだから、出るメリットが無く、デメリットしかない。

だからこそ、ここの警備はザルなのであり、それ故に裏切り者だなんて事態を招くのだろうが。


「私達と接触出来るような場所と言えば恐らく才能研究区画あたりか…?」

北口に急ぐ。北口あたりには少し大きな木がある。そこに隠れて監視しよう。

才能研究区画と私達の居住区とは一本道で繋がっており、怪しい者を見逃すはずはない。才能持ちで無い限り。

ただ、今心配すべきは一本道の途中で人に会わないかということだが……。


そう考えているうちになんとか大木の前にたどり着いた。

大木の陰に隠れ、北口を見張る。こういう時はあんパンと牛乳と相場は決まっているが、持っていないため、食べるふりだけはしておく。もぐもぐ。じゅーじゅるる。



……数時間が経った。誰も出てこないんですけど?まあ、そんな日もある。切り替えは得意なのだ。

でも、意気揚々と監視しに行ったのに成果無しって何の顔あって帰ればいいんだろう。

それにしてもさっきから凄く嫌な予感がする。胸を虫が這いずるような嫌な予感が私に何かを訴えかけている。

い、いや、そんなことって思った時ほど実はそこまで酷いことは起こってないってやつだよ。うん。きっとそう。

そう予防線を張り巡らせながら、私は私達の家に、私を落ち着かせようとゆっくり、それでいて早歩きで帰った。


そこで何が起きているのかも知らないで。

知りたくはなかったのに。こんなことを見たかった訳じゃなかったのに。

私はこの時なぜもっと速く帰らなかったのだろう、と今も後悔し続けている。

以下、人物と才能表。


名前:D

泣きぼくろが特徴の少女。巨乳。快活ながらも冷淡。目的のために手段を選ばない。自分のことをおねーさんと呼ぶちょっと痛い人。第一世代。茶髪でロング。C曰く、軽そうに見えるけど目の奥では確かな芯が宿っているらしい。

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