1
どうも初めまして。椎音と申します。この度は拙作をご覧いただきありがとうございます。読者様の限りある時間を頂いているのですから、なんとかそれに見合うだけのものを、と思いますが、もう、こんなところに時間を掛けるのもどうかと思ったので終わります。どうぞ。
私は歓迎されて生まれた。私を色んな大人たちが取り囲んで拍手していたのを覚えている。それが私の最初の記憶だった。
「君の名前はCだ」
そう言った初老らしき男性の年齢の割には若々しい声は今でも私の耳にこびりついている。あの時、私は『C』となった。
「C~?シ~イ~!あっいた!」
喧しい声と共に目が覚める。懐かしい夢を見ていたように思える。生まれた時の夢だったか。
「うるさい。黙って。」
「暇だからなんかしよーぜ!んじゃ鬼ごっこでもしよー!俺逃げっからCは鬼な!」
「やらないしうるさいって言ったよね?ここ図書館よ?あのポスター見える?図書館では騒がないように。って書いてあるの見えないの?」
「えーいーじゃんかあ。どうせCは寝てたんだろ?」
ため息が漏れる。馬鹿なのだろうか、こいつは。いや、間違いない馬鹿だ。
「寝起きで遊ぶような元気があるのはお前くらいだ、U」
この馬鹿の名前はU。運動こそはかなりの能力があるが、考えることを捨てたやつだ。そこら辺に遺棄されている彼の思考には同情さえするものの、もはや諦めの境地に至っている。考えずに動くので私は彼のことを密かに『鉄砲玉』と呼んでいるが、表だっては言わないお約束だ。正直なところ、こいつの無鉄砲さは『坊っちゃん』さながら親譲りじゃないかとしばしば疑うが、こいつの親は私の親でもあるので、言ってしまうと私も負けた気がする。解せぬ。
「むー……じゃあ何する?お手玉?けん玉?」
「だから遊ばないと言っているだろ!あのなあ私には」
「あの」
第三者の声が私の背後からした。この図書館には私とUとそして、もう1人しかいないはず。まさか……
錆び付いたブリキ人形のように振り向く。そこにいたのは『般若』だった。
「図書館ではお静かに」
『ヒッ』
まずいまずい。私の中のヤバいセンサーが警鐘を鳴らしている。早くここから逃げねば。さもなくば殺られる!私は今から襲う者から襲われる者に成り下がったのだ!敗者は去るべし慈悲もなし!
『しっつれいしました~~!!』
私はUと共に敵前逃亡の道を選んだのであった。
「はぁ……はぁ……ここまでくればもう大丈夫かな?」
「いやー、今回ばかりは死ぬかと思ったぜー」
お前のせいだ、馬鹿者。
「……あーそういえばよぅ」
「んー?なに?」
「AがCを何か呼んでたぞ」
「そういうことはもっと早く言ってくれる?」
Aが私を呼ぶとは何かあったのだろうか。少なくともCみたいに馬鹿らしいことでは無いだろう。……いや、Aのことだからあり得るな……。まあ、もとより行くしか無いのだ。
「取り敢えず、行ってくる」
「おー!行ってらー!」
私は手を振るUを置いて、Aが居るであろう広場へと向かった。
「おーい!C~!Aは会議室に呼んでたぞ~!」
だから、そういうことはもっと先に言って欲しい。
気を取り直して、Aが待つであろう会議室へと向かった。
「遅いよ」
そういいながら彼は少し拗ねたように唇を尖らせる。彼の名前はA。この施設の私たち被験者のリーダー的な存在だ。見た目は7歳児だが、私と同い年であり、正直化け物だと思う。いやマジで。
「Uのやつに頼んだ貴様も悪いのではないか?」
こう言い放った眼鏡男子はB。俗に言うイケメンの部類だろうが、口が悪い。色んなことを知ってるし、カリスマ性があって体は細く鍛えられているのが傍目からでも分かる。この施設で二番目に強いんじゃないかと思うくらいに肉体派で権謀派。やっぱりこいつも化け物だと思う。なんでこんなやつらと同期だったんだろうなあ。
「遅れたのはすまなく思っている。後で埋め合わせはするよ。それで、私に用件ってなに?」
「おお、よくぞ聞いてくれたよ。いやー最近どう?何かあった?」
???こいつは何を言いたいんだ?私の近況なんかが知りたいのだろうか。
「いや、別に特段としては無いが。どうかしたのか?」
「あー、そう。なら別に良いんだけど」
「まどろっこしい。さっさと話してしまえばよいだろう。実はな、C」
「待ってよ、B。ちゃんと言うから……」
私は一体何の問答を見せられているんだろう。
「あのさ、C。実は、俺らの中に裏切り者が居るらしい」
……は?どういうことだ?裏切り者?誰が?本当なのか?どこ情報だ?信頼出来るのか?
こんな疑問ばかりが私を埋めつくそうとする。
「ほら、言ったじゃん。やっぱり前フリが必要なんだよ」
「ぬぅ……。なあ、C。そろそろ現実に戻ってこい。時間の無駄だ。」
「……ごめん。ちょっと混乱してる。でも、これってどこ情報?信頼出来るんだよね?」
「当たり前だ。Qの才能だぞ」
……なるほど。それなら間違い無さそうだ。Qの才能である(タロットカードはお好き?)ならば。
「まぁ、ぼちぼち考えててね。明日あたりにもっかい聞くから」
私は皆の言動を今一度よく観察するために広場へと向かった。
「裏切り者、か」
AとBが私にこのことを言ってきた理由は二つ。一つは私がこのプロジェクトの初めての被験者の一人だからだ。裏切るという行為にはそれなりのメリットがあるはず。そしてそのメリットはどこからくるかといえば当然、外からだ。
じゃあ、その外の人達はどうやってこのプロジェクトを認知したのかというと、まあ、手段は山のようにあるはずだが、時間はそれなりにかかる。プロジェクトがある程度指針に乗ってから、つまり第二、第三世代辺りでは、私たちという隠しきれない実物を隠すということを行ったために露呈したのだ、と思われる。だからそれ以前の第一世代である私たちには手が及んでいない、とでも考えたのだろうなあ。
二つ目は私が観察、分析力に長けているから、かな?このタイミングでこの情報が入った以上何かを起こそうとしているのは間違いないはず。挙動がおかしい人を見つけるのには私がうってつけだ。
……ただ彼らは身内に甘い。私も人のことは言えないけどね。この場合の最適解は『皆に裏切り者の存在を知らせる』ことだ。そうすれば相互監視社会が生まれて、裏切り者は動きにくくなる。でも、そんなことしたら大人達に勘づかれて介入されるかもしれないし、それに私たちは皆の自由を願うから、疑いあうなんてなってほしくないからこうせざるを得ない。
それにしても、私はかなり後に来たんだし研究者サイドに飼われていたこともあるんだから一番裏切り者の可能性が高いんだけど……。まあ、そう考えるのを見越しているんだろうね。私じゃないんだけどさ。
とりあえず、皆の動きを見てこよっかな~。
私は皆が居そうな広場に向かった。
会議室は二階にある。その窓からは広場の様子がよく見えるのだ。そこから広場を眺める影二つ。
「……問いたださなくても良かったのか?」
「んー……。多分大丈夫だろうね。もし彼女が裏切り者ならもう僕は死んでるよ」
「そうだな……。まぁ、別にあいつが裏切り者でも構わんのだが」
「さて、と。僕らに出来ることは皆を守ることくらいだね」
よっ、とAは座っていた椅子から飛び降りる。
それじゃあ、また、明日。そういって彼は会議室を出ていく。
「……なこと……うと僕は……」
Aが出ていく瞬間、そんな言葉がBの耳には届いた。
「あいつ……また何かを隠しているのか?まあ、いい。何かしら事情があるのだろう。気にくわないがな」
そう言って彼もまた暗闇に溶けていった。
初めて出てくる能力が名前しか出てこない人であることに我ながら驚いております。以下、人物と才能表。
名前:C
冷静な少女。考えることと物事を知ることが好き。分析が得意。中性的な見た目でよく男と間違えられる。ちょっと高めの男性声とも言えるし、ちょっと低めの女性声とも言えるくらいの声。
名前:A
いたずら好きな男の子。いたずらが成功するとにっしっし、と笑う。研究者が嫌い。家族は皆好き。見た目というか体は7歳児。でも、身体能力は普通に高く、思考力も高め。
名前:B
眼鏡男子。イケメン毒舌。王子様かな?体もバキバキで努力家。物事を知ろうとしない人には厳しめ。一度でいいことを繰り返すのが嫌いだが努力に関しては鬼のように繰り返す。
名前:U
身体能力こそ異次元だが、思考というものを何処かに置き去りにしてしまったと言われた少年。戦闘センスはあるし普通に考える頭はあるので、色んなことを考えてるとは思うんだがなあ。考える前に突っ込む節がある。髪は短く、活発。優しい。
才能:タロットカードはお好き?
Qの才能。タロット占いでその時点での未来を見る。つまり、その未来を変更することは良くも悪くも可能。未来を見たものがどう行動するのか、それによって未来は変わるのだ。