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十と泡沫の思惑は世界を廻す  作者: 鈴鹿林檎
エインズワース編 第1章 出会いと輪廻
1/1

始まりのお話

無機質な音が頭上で鳴り響き、うんざりしながら上半身を起こす。

このまま朝が来なければいいのに、と変わり映えのない毎日の中で思うが、非情にもこの目覚まし時計は定刻に私を呼びつける。


私にとってつまらない人生の中でも節目というものはやってくるものであって、今日が私にとってその日だ。


高校という一種の猶予のような期間も今日で終わり。私たちはこれから各々の人生を選択して歩んでいかなければいけない。

なんてことを大人たちは言うが、果たして本当にそうだろうか。


早朝からぼんやりと意味の無い思考を巡らせながら、いつものセーラー服を着て、胸元のスカーフを整える。

底がすり減った学生靴を履いてから、大きく深呼吸をしてドアの外へと1歩踏みだした。


「遅い、30秒遅刻」


「細かい男は嫌われるの!あと制服ちゃんと着なよ!」


自分より背丈の高いムスッとした弟と痴話喧嘩をしながら制服を整えてあげたあと、手を頭上へ伸ばして硬い髪を優しく撫でる。

赤面する彼を見て微笑みを浮かべると、可愛い弟は横を向いて耳までタコのように真っ赤にした。


「な、なな、なんだよ……」


「ふふ、なんでもないよ?さぁ行こうか」




「ただいまより、第52回、天ヶ崎高等学校卒業証書授与式を開式致します」


機械のように淡々と話す男性の声が消えると、体育館特有の空気の音だけが残る。


卒業式とはいえども、参加者は今壇上にいる校長と思わしき男性と、私とクラスメイトだけ。

だだっ広い体育館に並べられた12脚のパイプ椅子に座った各々は、心底どうでもいいと言いだけな目線で正面を見つめていた。


「卒業生呼名、五十嵐玲央」


「はい」


「星屑きらり」


「はい」


返事をしたら終わる。終わる。終わる。

家からもこの日々からも出れる。出れる。出れる。


心拍数が上がるのは緊張のためか、それとも高揚感からか。

この人生で色々考えてきたはずだが、この時ほど思考が纏まらない時はなかった気がする。


あぁ、どうしよう。もう呼ばれてしまう。

目を固く閉じ、手を強く握る。


「パンパカパーン!おめでとうございまーす11名の方々!あなた方は抽選の結果、新しい世界に行くことになりました!」


「はいっ………って、え?」


私の名前が呼ばれることはなく、何故かその場に居ないはずの少年の声が聞こえてきた。


目を静かに開けると、青白い光の中に私を含む12人の生徒がいた。

座っていたパイプ椅子は見当たらず、代わりに宙に浮いた魔法陣の様なものの上に座らされている。


「いったーい!!誰よこんなことしたの!!」


「おい!ふざけんなよ!誰だか分かんないけど出てこい!」


クラスメイトたちが口々に文句を言うと、どこからかまた声がした。


「ふっふっふー君たちまだ置かれている立場が分かってないね?君たちはもうボクの実験台になってるの!だ、か、ら!拒否権とかは一切ありませーん」


流石にこの物言いには皆がムカついたようで、引きつった笑顔を浮かべていた。


「というわけで!さっそくだけど異世界転移ってやつをしてもらいまーす!」


「だからふざけんなって言って………!?」


そう言うと同時に、言葉を発したクラスメイトの左目のあたりが切れる。


「玲央!!!!!!!!!!」


隣にいた人間が、倒れ込むその人を抱えたことで何とか頭を打たずに済んだものの、今の一撃でこちらが劣勢であることを誰もが悟った。


「さぁ、改めて。ボクは神だ。運命なんて馬鹿馬鹿しいものは諦めて、一刻も早くボクの言うことを聞いてもらおうか」


光る魔法陣から恐怖で動けなくなった私たちが逃れる術など、あるわけもなかったのだ。

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