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名も無き戦いの終わりに  作者: 吉幸晶
9/27

集結

 駐車場に戻ってきた八坂は、ミニカに乗り込み、すぐに結界を張った。文字通り瀕死の白虎と玄武には、治癒能力のある八坂の結界の中で、早く休ませる必要があった。

「白虎も玄武も死ぬなよ!最後まで諦めるな。」

 息も絶え絶えの二人を見守りながら、結界を張り終えた八坂の目に、右足を引きずりながら、ひとりで歩いて来る天寿院が映った。

(ん?朱雀達はどこだ?)

 天寿院は八坂と目が合い、八坂の疑問に答える様に上を指した。暗い空を良く見ると、丸く黒い物体がフワフワと浮いていた。やがてその物体は、ゆっくりと下降を始め、ミニカの窓の高さまで来て停まり、窓から車内に入り後部席に落ち着いた。

「目立たないように連れて来たわ」

 青龍を丸座布団のようにした上に、阿吽を乗せて連れてきた。

「野次馬が増えていて、朱雀をここまで連れて来られないの」

 改めて辺りを見回すと、停めてあったトラックや乗用車の中で休んでいた人達が、ゴルフ場の騒ぎを聞きつけて車外に出ていた。

「こんな所を飛んで来たら、大騒ぎになったわ」

 窓から覗き込んで天寿院が言った。

「本当だ。朱雀は僕が迎えに行くから、一葉ちゃんはここに居て」

「私なら大丈夫。数珠さんは、白虎と玄武を……」

「今の一葉ちゃんにも、休息が必要だよ。早く車に乗って」

「でも、数珠さんが離れると結界が――」

「夕べ表札に貼ってあるお札を見て、真似て作ってみた。数分なら持つと思うよ」

「随分と用意が良いのね」

「少ない呪力の有効利用。貧乏人の知恵……かな。」

 そう言い車外に出て、天寿院を助手席に押し込んだ。

「朱雀はどこ?」

「向こうの駐車場とゴルフ場の境目に、静かに伏せて待たせているわ」

 天寿院は、今まで戦っていた方向とは、大分離れた方を指した。

「わかった。ちょっと行って来る。」

 八坂は小走りに、消防車やパトカーのサイレンが鳴り響く、騒然とする方角とは間逆の方へ、朱雀を迎えに行った。


 八坂が朱雀を抱きかかえ車に戻ると、ゴルフ場に赤い回転灯が鮮やかに光り、大勢の人が大声と共に行き交っていた。しかし戦いを終えた八坂達は、周りの雑踏や騒音を気にする、余力も気力も既に無く、全員が深い眠りに落ちていった。


 眩しさと騒音に振動――。そして何よりも、頭上でバサバサと動くものの気配で、八坂は目を覚ました。コンソールボックスにあるデジタルの時計は、十時十八分を表示していた。

「朱雀。具合は良さそうだね」

 みんなの中で、わりと怪我も軽く、朝には滅法強い朱雀が、太陽の光を受けて、疼く気持ちを抑えていたのだろう。しかし我慢の限界を迎え、遠慮しながら狭い車内で、翼を片方ずつ広げていた。

「申し訳ございません。みなさんの睡眠の邪魔にならないよう、静かにしていたのですが、我慢が出来ず、そうかと申しまして、外へも出られず……で」

「大分、気苦労をさせた様だね。今、外に出してあげるよ。」

 八坂は起き上がりそっと外へ出た。連れ出して貰った朱雀は、両方の翼を大きく広げて、体の掃除を始めた。

 バサバサと翼を仰ぎ『ケーン』とひと鳴きすると、周りに停めていた車の運転手が、こんな所に居る雉を見て驚き、中には「おたくの雉かい?」と二人に近付き、訊いてくる人もいれば、携帯で写真を撮って行く人もいた。

「朱雀。いい加減にして、中へ入りなさいよ」

 人が集まりだしたのを見て、天寿院が窓を開けて声を掛けた。

「綺麗な(ひと)だな。あんたの奥さんかい?」

「えっ?そうですよ!みんな僕の家族です。」

 自慢気に八坂が答えた。


「どうやら天寿院の姿が、不通の人間にも、見えるようになって来た様じゃ」

「トラブタ。起きて大丈夫なの?」心配そうな目で白虎を見て訊いた。

「まだ痛むが、数珠様の結界のお陰で、治りが早いようじゃ」

「良かったわね。ところで、さっきの話しはどう言う事?」

「天寿院の役目は、勾玉を集め持ち帰る事じゃろ」体は横たえたまま、頭を少し起こして言った。

「えぇ」

「昨夜で勾玉は全部揃った。天寿院の役目は終わりに近い――。」

「だから?」

「元の世界へ戻る――。それが、式神じゃ」持ち上げていた頭を下ろし、両目を硬く閉じた。

「……」

 気付いていた。わかっていた事であった。が、今の天寿院には受け入れたくない事でもあった。

「妖狐との戦いが終われば、数珠様は勾玉をぬしへ渡されるはずじゃ……」

「そして、それを受け取った時点で、私はここから消える……」

「本当ですか……。悲しい定めですぅ」

 玄武が天寿院の心中を察した。

「では、受け取らなければ良いのでは?」

「阿形よ、お前に取って数珠様の命は絶対であろう?天寿院にとって勾玉を持ち帰る事は、それと同じ『絶対の命』なのじゃ」

「この事は、数珠さんの耳には入れないで頂戴。」

「――。」

 誰も返事はしなかった。

「今の数珠さんを、余計な事で悩ませたく無いのよ……。」

「わかった、約束じゃ。皆もわかったな。」

 その時「綺麗な奥さんだって」と言いながら、八坂と朱雀がご機嫌で帰ってきた。

「そう言って貰えて、嬉しいですぅ」

 まだ心の整理が出来ず動揺している天寿院を見て、玄武が女心を代弁した。八坂は、後部席に居るみんなを見た。

「夕べは、本当にご苦労様だったね。みんなの傷は、思っていたより深いから、無理せずに休んで治して欲しい」

 八坂の優しい言葉に、白虎が代表して礼を言い、青龍と阿吽の事を詫びた。八坂が快諾した後、阿吽が初見の挨拶をし、詫びを申し入れ、続いて青龍が改めて、昨夜の非礼事を詫びた。


 かなり遅い朝食と、少し早めの昼食を同時に済ませ、八坂一行は十二時丁度に、昨夜の火事で騒然となっている鶴巣を出発した。

「買出しに行った売店で、夕べの事が結構話題になっていたよ。」

 八坂がミニカを快適に走行させながら、先程仕入れてきた話しをみんなに聞かせた。

「妖狐との戦いは、もっと人里離れた所でなくては駄目ね」

「そうだな。何が起きるか想像も付かない以上、周りへの影響を考えるべきだな。」

 車は東北道を北へ進み、宮城県大崎市を順調に走ってゆく、東京では見られなかった紅葉が、ちらほらと秋の晴天に映えて見えた。

「それなら、八坂神社は打って付けの場所ですじゃ」

「人家は殆ど無かった様に思うけど、平地の中にぽつんとある山だから、意外と目立つような気がするけど?」

 まだ幼い頃に一度だけ、母と行って見た景色を思い出しながら言った。

「神社の裏手は山が連なっておりました。そのもっと奥へ妖狐を誘い出せば、多少の事は、人里には気付かれずに済むでしょう」

「そうだな。あの深い山々の中であれば、身を隠す事も容易」

「朱雀も青龍も黙っておれ。作戦は数珠様がお決めに成られる事じゃ」

 白虎は早まる二人を(たしな)めた。

「良いよ。僕には少ない情報しか無いから、みんなの意見は参考になるよ」

「では、わしがおひとつ」

「戯け!白虎。抜け駆けするか!」

「抜け駆けとは、聞き捨てならん」

「やるか?」

「受けて立つ!」

「あなた達、殴られたい?」

 一瞬、身の危険を察知した二人は、慌てて退いた。

「その感じでは、もう怪我は回復したようだね。」

「お陰様で、良好ですじゃ」

「わしも。前よりも力が漲る感じがします」

「僕にも、玄武と同じ力が有って本当によかったよ。」

「本当にありがたいことですじゃ」

「唯一、皆の役に立つ僕の力だからね」

「そんな事はございません……」

「そうかな?勾玉を浄化する力は、六つ全ての勾玉が揃った今では、もう必要が無いし、妖力を封印する力が妖狐に使えるか判らない。あとは、動きを止める事だけど、これは相手に近付かなくては使えない。やっぱり僕には、治癒力意外に役立つ力は無いよ。」

「確かに、妖狐への直接的な攻撃は出来なくても、妖狐が六十年もの年月を掛けて、白虎達を操れるようにできたのに、数珠さんは一瞬で元にもどせる。その力は本物よ」

「一葉ちゃんに誉められると、なんか怖いな」

「わかりますじゃ。数珠様のお気持ち」

 八坂は照れ隠しに言ったのだが、後部座席の六人にはそれが通じずに、その話題で車中が大いに賑わった。

 

 車が金成パーキングエリアに入り停車しても、六人は気付かずに天寿院の話題は続いた。

「天寿院は人が変わりました……。同じ女性としてわかりますぅ」

「そうでしょうか?私には、見た目が変わっただけの様に思えますが」

「朱雀は天寿院の性悪さを知らなさ過ぎるのじゃ」

「そうですぅ。天寿院はとても意地悪でした……」

「そうですか?天寿院殿のお言葉の裏側には、優しさが有りましたよ」

「朱雀よ。天寿院はぬしを(たぶら)かしておるのじゃ。早いうちに目を覚まさぬと、危険じゃ」

「危険と申しますと?」

「例えば、気が付くと雉弁なる物にされて、食わる寸前とかじゃ」

「白虎。天寿院とは、そんなに恐ろしいのか?」

「青龍と阿吽は初めてだからわからんのじゃ」

「しかしわしにも、朱雀が言うように、そんなに悪い輩には見えんが……」

「でも青龍殿、白虎殿が言うのであれば、疑う余地は無いのでは?」

「阿形の言う通りじゃ。良いか青龍よ、天寿院は妖狐さえ喰らおうとする、魔物を越えた悪魔なのじゃ」

 天寿院の右の拳を間一髪で避けた。

「トラブタ。結構言いたいこと言っているじゃない」

「天寿院――。いつから盗み聞きしておったのじゃ」

「そもそも私と数珠さんの話しに割り込んできたのは誰かしら?」

「そうじゃったか?歳の所為かとんと記憶が無――。」

 天寿院の右手の拳が、今度は白虎の後頭部を直撃した。

「白虎。死んではなりません……」

「刀じゃなくて良かったわね。でも、次は間違いなく()るわよ。」

「完全に白目を剥いております」

「朱雀。そのまま一生寝かせておけばいいわ」

「駄目ですぅ。白虎、気を確かに持ってください……」

「……くそ!天寿院め!思いっきり殴りおって!」

「あら、生きていたのね。残念だわ」

「瀕死の重傷のわしに、何てことをするのじゃ」

「そう?だったら玄武に看病してもらえば」

 天寿院が、玄武にウィンクした。

「私は勘違いをしていたようですぅ。天寿院は。とてもいい人ですぅ」

「天寿院を悪く言うのは、白虎だけですが?」

 朱雀が少しきつい言い方をした。

「わしは……」

「良いのよ、トラブタ。私達には全部わかっているわ」

「全部って?何の事ですか?」

「みんなをまとめる為に、白虎は一葉ちゃんへ悪態を付くのさ」

 一同の視線が、白虎に向いた。

「その様な大層なものでは……、ないのですじゃ。ただ、天寿院とは相性が悪いだけですじゃ」

 白虎はそう言うと、前足でスイッチを押して窓を開け外へ出た。

「いつの間に停まったのですか?」朱雀の言葉に一同が窓外を見た。

「五分ほど前かな。白虎のトイレの時間だからと思って停めたけど」

「私を話題(ねた)にして夢中で話していたから、トイレに近い白虎以外は、本当に気付かなかったのね」

 天寿院は長い尻尾をピンと立て、太った体をゆさゆさと揺らしながら離れてゆく、白虎を見送った。


「数珠様、先程の白虎の事は、どう言うことですか?」朱雀は納得がいかない顔を、八坂に向けて訊いた。

「白虎は、自分を含め四神獣と阿吽が、妖狐の手先となって、僕を襲った事が悔しくてたまらない」

「それは我々だって――」

 八坂が右手の人差し指を立てて、青龍の言葉を遮った。

「白虎はね。一葉ちゃんと張り合う形で、君達と一葉ちゃんが仲違いしないように仕向けているんだよ。玄武の場合は、本当に玄武の気持ちを理解していなかったから、予想外だったみたいだけどね」

「何と……。でもそれでは、我々と白虎が分かれてしまうことにも――。なるほど、それで今」

「そう。わかってくれた?」

「しかし、あまりにも水臭い」

「青龍。君だって、一番初めに僕を襲いにきていたら、同じ事をしただろ?」

「確かに……。自分だけなら外からでも、数珠様を御守りできる。そう思い、他のみんなを数珠様の近くに――置く。」

「それを白虎はしていただけ。一葉ちゃんも僕も、朱雀と玄武の夜襲の後に気付いた」

「やっぱり、白虎は素敵ですぅ」

「そうだね。玄武の気持ちにも気付いたみたいだし」

「そんな……。恥ずかしいですぅ」

「やはり白虎はわれわれの頭目でした」

「みんなわかってくれたから、中に入るかい?」

 八坂はドアの下に座って、毛繕いしている白虎へ声を掛けた。

「なんだ、傍におったのか?」

「用足しへ行っていただけじゃ」

「では改めて、みんなにお願いしたい。」

 珍しく八坂が真剣な顔でみんなを見た。

「一葉ちゃんと僕の家族を襲った妖狐を、僕は絶対に許さない。青龍と阿吽が加わった事で、戦士と武器は全て揃い、機は熟したと僕は思う。そこでみんなに改めて頼みがある――。妖狐を倒す為に、僕に力を貸して欲しい!」

「何を今更ですじゃ。もともと妖狐は我等の宿敵、生かしておく積りなど、毛頭も有りませんじゃ」

「いいのかい?犠牲が出るかもしれない」

「今の我々は、数珠様に本懐を遂げていただく為に、微力ながらも数珠様を御守りし、加勢するのが役目と思うとります。命など欲してはおりませんゆえ、ご心配には及びません。」

「数珠様。青龍が申す通りですじゃ――」

「それに妖狐には、我等全員、大きな貸しも有ります」

「朱雀、またわしの話しを邪魔しおって」

「玄武と阿吽は?」

 黙ったままの三人を見て訊いた。

「私はすでに数珠様に仕えておりますぅ。この身に代えて、数珠様を御守りいたしますぅ」

「我々の意も四神獣と同じでございます。我ら、二頭一対で先陣をお任せいただきたく!」

「一葉ちゃん。頼もしい味方を得たよ。これで戦える!」

「ありがとう。みんな頼りにしているわ」

「無論じゃ」

「みんなの結束が固まった事だし、今日中には寒風山へ入りたいね」

「御意!」

「白虎。青龍と阿吽へ、元気な時の車中での約束事を教えて頂戴」

「なんでわしが」

「だって玄武には、親切丁寧に教えていたじゃない」

「白虎よ。玄武とわし等では、扱いが変わるのか?」

「……天寿院め!やっぱりわしは嫌いじゃ」

 八坂は人数が六人に増えたため、移動中に窮屈ながらも休める様にと、後部座席の背もたれを倒し、後部席とトランクルームの間仕切りをなくしてまとまったスペースを作った。

「まだ狭いけど、我慢してくれるかい?」

「なぁに。住めば都と申しますじゃ。」

「堂々と玄武にくっ付けるから良いようです」

「朱雀!雉弁にするぞ!」

「玄武が甲羅に入りおった。白虎よ、ぬしが玄武の上に乗って、暖めてやれば良かろう」

「青龍!なんと言う破廉恥な!子ができたらどうするのですか」

「朱雀。ぬしは知らぬだろうが、暖めあったぐらいでは、子は出来ん」

「本当ですか?人間は手を握ると子が出来ると、昔聞きましたが」

「戯け。ではわしが玄武と白虎の体を使って、その辺を詳しく教えてしんぜよう」

「青龍!余計なことは良いから!黙ってなさい!」

 後部席の六人全員が、天寿院の一声に飛び上がった。

「白虎が言う通り、天寿院はほんに恐ろしい、お方だったのだな」

 青龍が蛇局を巻きなおしながら、しみじみと言った。

「朱雀、青龍に近付いちゃ駄目よ!」

「はぁ。どうすれば子が出来るのか、聞いてみたかったのですが……」

「朱雀にはまだ早い!良い子にしてないと、焼き鳥にするわよ。」

「何故に?尋常では無い反応――?白虎よ、まさか天寿院は、まだ数珠様と契ってはおられんのか?」

「青龍。それ以上しゃべったら、蒲焼にするわよ!」

「御意!」

(やれやれ。賑やかで良いけど、運転に集中できるか心配だな)

「出発するから、極力、お静かに願いますよ」

 一同を乗せたミニカが、秋田を目指し再び動き出した。

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