名も無き戦いの終わりに
皆がそれぞれ着席したのを見届けて、紳士が二人の神への罪状を、初めて口にした。
「では、地球の神と第二神が犯した、地球における生命を賭けた賭博と、直属の部下を騙し消滅しようと企み、実行した件で審議を開始いたします。尚、二人の犯した罪状は、神法上では重罪――。虚偽による、抹消の罪に当ります。この審議は、われわれ監察の基、主犯の地球の神と共犯の第二神、そして告発者の七人の精霊、及び証人として二人の魂で取り行います。異議が有りましたら申し立ててください。」
列席をしている全ての者が、神妙に紳士の開審の言上を聞いた。
「異議申し立てが無い様ですので、審議にはいります。まず事の発端を地球神から聞きましょう」紳士は地球の神を見て、「話しなさい」と静かに告げた。
催促されて、俯いていた視線を、八坂と一葉へ向け直し、「わしだって――。」と一度躊躇してから、腹を括ったのか、諦めが付いたのか判断はできないが、歪んだ顔を正面に向け、ゆっくりとした口調で話し始めた。
「当時のこの星は、人口が増え十数億もの人間の言い分を、わしは既に聞けなくなっていた。だから、これ以上の人口の増加と文明の進歩を望まなかった。何故なら、千年程前の地球が、私の望んだ地球であったからだ。神を神として称え祭る。実に神として、気持ちの良い時代だったのだ。人口が増えれば、当然、色々な問題も増える。一番困るのは、人の声が聞こえなくなることだ。声が聞こえねば、正しい道へ導く事ができなくなり、やがて神は不要になる。
不要になれば、わしに代わり賢い人間が、祭られるようになる。たかが人間に、神のわしが負けるなど許せる訳がなかろう。それにたかが四十数億年でだ――。人類と呼ばれるものが生まれてから、僅か百数十万年で、星を駄目にしては、わしは本当の意味で、神の地位から降ろされる。月の神のように、地獄の番人にまで堕ちるなど我慢ならなかった。だから太陽の神に気付かれる前に、極秘で地球上の全ての生命を消し更地にして、新しく単細胞から育て直したかったのだ。そして今度こそ、神の地位を磐石なものにしたかった。神として崇められたかった――。
それをそこのたかが精霊ごとにきが、人間の進歩と増加を喜び、なお一層、力を注ぎ込み文明の発展を望んだ。神のわしの考えを蔑ろにして、自分達が神になったかのように――。」
神の七人を見る目に、怒りと憎しみが満ちていた。
「やがて人口が増えるにつれ、地獄にも影響が出始めたと、第二神が言ってきた。それはそうであろう、全員が天国へ行ける訳などない。長短は有っても、死ねば必ず地獄の門までは行く。そこで、地獄行きか天国行きかに振り分けられ、その八割以上が、地獄へ行く。狭い――天国よりはと言う意味だが――、狭い地獄など、けがれた魂で一杯になり、針地獄だ灼熱地獄だと言うても、すぐに送れず、忽ちけがれた魂の長い行列ができる。第二神もこれは問題だと、地獄を広げるので、わしに天国の一部を開放しろと、迫る始末だった。しかし地獄の敷地を増やしたところで、人間が増える方が、遥かに勝っているのは、火を見るよりも明らかだ。転生の周期を早めれば、人口はもっと増える。最早、均衡が破れた人間とその魂の行き場なぞ、どうすることもできなくなっていた……。」
既に怒りや憎しみは消えていた。落ち着いた声で、淡々と話しは進んだ。
「そうこうしている内に、第二神が、七人の精霊達が居なくなれば、人口の増加が停まると言ってきた。わしは、その話しに聞き入った。だが第二神の言う通りにし、わしが七人を殺消させたら、元が月の神だ、間違いなくわしに代わり、地球の神に納まる算段だと気が付いた。そこで七人の精霊と第二神を同時に葬る案を練った。誰にも気付かれずに、わしだけが、わしの理想の基で暮らせる方法を練り実行したのだ。」自分本位で我侭な言い分であった。
「神なのに?」一葉が問う。
「神だって万能ではないのだよ――。そうか、人間界での神は万能であったな……」悲しく寂しく呟いた。
「それが、千百年前の平安中期頃の事ですか?」八坂が問う。
「そうだな。加茂保憲がいた頃だ。懐かしい。神が神でいられた時だ」と地球の神は遠くを見る目で、「陰陽師などという者が、神の代弁者だと言われだし、陰陽師の中でも、ひときわ有望な保憲に目を付け、陰陽師と言う職者を確固たるものにしてやった――。そうか、考えてみれば、その頃から神が――わしが、蔑ろにされ始めていたのかも知れん。天皇を神だと呼ばせるなど……」
「で、いつ彼等精霊を妖怪に?」
「それはもっと後のこと。たかだか四百年程前の事だ。」
八坂の顔をチラッと見て応え続けた。
「わしは七人を呼び出し、神になる試験を受けるようにと言った。その為に、精霊の記憶と力を取り、七つの大罪を犯すことなくクリアする必要がある。それがクリアできれば、お前達は神となりこの宇宙でそれぞれ星を持てる――。と嘘などではないぞ。本当の神になる為の試験なのだからな。」
八坂は七人の方を向くと、それぞれが頷き返した。
「そこまでは本当のようですね。それからどうしたのですか?」紳士が先を促した。
「四百年ほど前、わしは、そいつら七人を妖怪として、人間界へ送り込んだ。四匹は祠へ二匹は神社の鳥居の袂に、そして最後の一匹を洞穴に閉じ込め眠らせた。これで第二神が言うように、増える人口を抑えられると思ったが、七人の精霊がいなくなった地球では、人間が勝手に進化し始めた。強欲さも増し、人口も信じられない速さで急増した。住むところを探し、木を切り倒し、山を削る。挙句、海まで埋め始めた。そうやって自然を壊しては快適な生活を望み、広く肥えた土地を求めた。まるで所有する土地の広さが、己の強さの象徴などという、とんだ勘違いの為に、地球上の色々なところで、戦火が上がった。」神は首を振り嘆いた。
「その度に、戦争という教材により、科学は更に発達した。次はもっと上を目指し、限界という壁など、ものともせずに――。第二神の嘗ての星にまで人間は辿り着いた。――曳いては、神の聖域の、生命までを作るようになった頃には、地球の弱体化は進み、瀕死な状態に陥っていた。もうわし一人の力では、地球の壊れかけた所を補修して回るのがやっとで、人間の発展を止めるどころか、危機を回避に導く事さえできなかった。わしは焦り、急いで七人を眠りから覚ますことにした。しかしお前達に記憶が戻り、ただ眠っていただけだとばれる訳にはいかない。だから妖怪なら妖怪らしくなるようにと、新しい記憶を刷り込んだ。」
その場で聞いている他の者達も、神の嘆きと焦りが、その場で体験しているかの様に感じ取れた。
「でもどうして日本だったの?四百年も前だったら、よその国の方が発達していただろうし、狭く遅れた日本を選ぶなんて、そもそも間違っていたと思うけど。」一葉が八坂に聞く。
「それはたぶん、仲間だと言う記憶が無くなった七人が、目覚めたら早い時間で戦い殺し合って、あわよくば、七人全員の消滅を図ったからだと思うな。それには、広い大陸は不向きだった。だから狭い島国の発展途上であり、神の力や妖怪など、魑魅魍魎に敏感で自然体にもっとも近い民族の、日本を選んだんじゃないかな。」
「流石に選ばれし勇者だ。」地球の神が感心して八坂を称えた。
「勇者かどうかはわかりません。しかし先程も、そちらの紳士から、精霊から選ばれたと聞きました。でもこれまでの話しでは、僕や一葉を選ぶ時間なんて無かったかと思うのですが?」
「七人のリーダー格だけの事はあった。強い意思で、洗脳が弱かったのか、デナリ――、ここでは妖狐と呼んだ方が良いか。目覚めた時に、僅かに記憶が残っていたのだろう。詳しくは、デナリに聞けばよかろう。」
紳士は妖狐を見て、「話していただけますか」と促した。
「はい。」と返事をして立ち上がり、一例をしてから話し出した。
「確かに眠りから目覚めると、神からは試験と言われていたのに、試験らしい事は何もしていないのに気が付きました。そこで第二神へ問うと様子がおかしく、神の所へ行くので、そのまま待てと言われたのです。私はすでに精霊の力を失っていましたが、妖怪の力を使い、まだ寝ている六人の精霊の証しを抜き、私の証しと共にやがて生まれて来るだろう、陰陽師の血を汲む、八坂さんへ委ねたのです。」
「それが、勾玉と銀の房ですか」
「そうです。全てが揃えば必ずこの地、天国へ全員が集えると――、そう導いていただけると、願ったのです。」
「では一葉は、単純に巻き添えに合ったと――」
「それは違うよ。」と第二神が口を挟んだ。
「前にもそなたには話したが、娘は幼少の頃から霊力が高く、魑魅魍魎の類に憑かれ瀕死だった。たまたま七人の洗脳を確認しに出掛けた先で、娘を見かけ知ったのだ。人間界にそういった忌わしき魂が多く残る様になったのも、わしの第二神の『閻魔』の責任ゆえ、娘を助ける為、天国の前室へ置き快方を待った。しかし親は娘が消えたと騒ぎ、悲観した母親は首を吊って自害した。そして父親の心労がもとで、祈祷中に蝋燭を倒し、大きな火事に巻き込まれ、父親だけではなく、弟までが命を落としてしまった。娘を助けなければ、娘の家族は生きていたかも知れんし、早くして病死した娘を悲観し、同じ事になったかは、わしとて知る由も無いがの」
「では白虎に喰われたという事は――」
「わしが刷り込んだ記憶に過ぎん。」第二神がきっぱりと答えた。
「もしかして、数珠さんのご両親や、祖父母も?」
「そうだ。八坂は元々孤児だった。あの家の一人暮らしの中年女性に引き取られ暮らしていた。だが短い時間で、デナリが見付け出したのだ、よっぽど加茂保憲の血を、強く引いていたのだろう。」
八坂と一葉はデナリを見た。デナリはその視線に、深々と頭を下げた。
「では、僕達に実際に起きたことは、一葉が家に来た時からと?」
「いいや。その少し前、お前が夢を見出した時だ。」
「夢ってあの鬼が出てくる?」
「そうだ。あれが洗脳の始まりだよ。いきなり違う記憶を刷り込むのは、普通の人間では持たない。洗脳の前に死に至るだろう。だから数ヶ月前から洗脳を始めて、期を待ち妖怪の洗脳が終わった順に送った。」
「そして僕等は、神と第二神のゲームの駒となった――。でも、そんな事が本当に必要だったのかな?」
「どういう事かね?」神が質問で返した。
「だって、洗脳で済むのであれば、七人の精霊も試験を受けたが駄目だった。という洗脳にすれば、わざわざ仲間同士で戦わす余計な時間が省けたのでは。」
「この七人だけであればそれでも済むが、第二神が黙ってはおるまい。」そう言いながら第二神を見た。
「いかにもわしだって、神に帰り咲く事を願っておる。でなければ、元神のわしが閻魔など、第二神など引き受ける事などせん。わしだって、始めは上手く月を育てていたのだ、月に生命を育んだ時は、それは喜んだ。天にも昇る心地だった。」
「月に生命って?ウサギが本当いたの?」
第二神は醒めた目を八坂へ向けた。
「生命とは微生物の事だ。宇宙で新しい生命が生まれるのだ、もの凄く貴重な事なのだよ。しかもそれが、今まで宇宙全域で見られない生命だとなれば、わしは太陽の神と同じ。ひとつの小宇宙を与えて貰えるのだよ。ところが、太陽の神はそれを恐れ、太陽爆発などを起こし、やっと生まれた月の尊い生命を奪い、挙句、月は死んだのだ。そしてわしは地球の第二神へと降格させられた。」
「それで、その鬱憤を晴らすために、この四百年ほどゲームの勝敗に気を取られ、自分の仕事を疎かにし、一層、地球を弱らせてしまったと?」
「結果はそうなるが……」
「なんて事を。それで地球の寿命を縮めてしまったとは、本末転倒ではないですか!今からでも、地球を助けられるのでしょうか?」
七人の精霊へ話しが向けられた。
「正直わかりません。気温や水温は間違いなく上がっています。温度の上昇は天候に悪影響を与え、悪くなる一方です。氷河期に入るか、地球規模での大干ばつに入るかは、今後の気温の上がり方で、決まってくるでしょう。それと地表も非常に弱くなり、それを補おうと地表の動きが活発になっています。各地で起こっている、大きな地震がその証拠かと――。今地球は、地球自身が衰弱を強く訴えているのです。」
デナリが判る範囲で現状を説明した。
「貴方たちばかりへ頼ってしまい、申し訳ないのですが、人類と地球を助けてください。今度は地球の救世主になってくだい。」
デナリは真顔で続けた。
「それはお断りいたします。地球の救世主は、私や一葉と言う、僅かな人間では無く、全人類でなければならないのです。個人の力など何にもなりません。が、個々の力がまとまれば、偉大で強大な力に変わる。今はそうならなければ、誰も救えないと僕は思います。勿論、協力は惜しみませんよ。」
「そうですね。私達のリーダーはやはり違います。デナリの目は確かでした。」とデヴギリが称賛した。
「ところで、さっきデナリが言っていた、全てが揃えば天国で出会える。って、あれは神が決めたと――」
「あれは――。わしが、七人がいなければ、地球は助かると進言してから、数年程経った時だった。」第二神が、地球の神を押さえ先に話しだした。
「地球の神より、七人の精霊の神への昇進試験を行うと聞いた。これは何か企んでいると直感が働いた。何故ならわしにとって、邪魔な地球の神と七人の精霊が同時に消せる。千載一遇の好機だ。と言う事は、地球の神も然り、だ。地球の神は、試験という建前で何がどうなろうが、自分の身の安全は確保しているだろうと、確信していた。であれば神が不正を行ったという証拠を集めるのが、わしに取っては保身の武器となる。だから危険を覚悟して、保憲に扮し、何度もこやつ等の前へ姿を現した。もともと神が有利になるように仕組まれた試験を、わしが有利になるよう、立てなおす事を画策して、その都度、駒達に伝えた。」
「神に有利って?」一葉が問う。
「試験途中で、七人が七つの大罪に触れれば試験は終わる。試験が終われば、試験中にわしが干渉したと、監察へ告げるであろう。そうすれば審議を受け、私は消殺され地球の神だけが残る。もし無事に試験が終われば、皆は天国へ戻る。その時に全てを思い出しても、神は裏工作に徹し、一度も表には出てこなかった。試験の合否に拘らず、どちらの結果も悪者はわしだけだ。全てをわしに押し付ける事ができるように、仕組んでいたに違いないのだ。」第二神は神を見た。
「その余裕から、全員が揃えば全てを思い出させる。などと、くだらん約束をしたのだ。だから、わしは自分を有利にするため仕事そっちのけで、画策し裏工作のためだけに動いた。天国で問題を起こせば、例え精霊でも、消滅は避けられん。そうなうるよう、白虎へ中途半端に記憶を残し、刺客とも本物とも取られる様、最高の細工をした。八坂が白虎の扱いを間違えば、八坂か白虎が消える。だれか一人が消えれば、駒、全部が地獄へ堕ちる。地獄へ来れば、わしの範疇でどうにでもできる。地球の神が始めた、このゲームを逆手に取ったつもりでいたのだがな。」
第二神は敗北を認めた。
「なら、何もせずに、ただ見ていれば、良かったんじゃないのかしら?」
一同が驚いて一葉を見た。
「そうでしょ。何もしなければ、ただの試験ですのも、神様だってこの七人に、ちゃんと言えば良かったんじゃないの?このままでは、地球が死んでしまう。手助けして欲しいって。そうすれば、こんな大事にはならなかったと思うけど。」
「確かに。僕と一葉だけが、人間でこのゲームへ参加したした事。他に犠牲者など存在しなかった事。それは幸いだったけど、こんな小さなゲームで、神々がオドオドして、お互いにお互いを裏切り、憎み、妬み、嫉んだ挙句、地球は重症化して、人類と地球を絶滅の危機に貶める事なんて、無かったのではありませんか?」
二人の神と七人の精霊、それに監察を含め、全員が意外な盲点を突かれた。まさに、晴天の霹靂であった。
「もう一つ言わせて貰うのであれば、監察の方々も黙って見ているのではなく、薄々感づいていたのなら、地球の神と第二神を罪人にする前に、声を掛けて悩みを聞いて、相談に乗ってあげれば、二人は苦しまずに済んだのだと思いますよ。同じ神様なのでしょう?」
「そうね。全てのの根源は、その辺にあるのかも知れなくてよ。」
「人間界の行政と、同じ事をしている感が強いのは否めないな。監察にも落ち度は有るように思いますよ。」
紳士が苦い顔をした。
「地球の神や第二神を庇う訳ではないけど、二人にもう一度、チャンスを与えてはいただけませんか?」
「何故です?」
「どちらの神も、自分勝手で自己中心的な考えの上、己の保身の為に犯した過ちだと思います。神としては失格ですが、やり方はどうであれ地球の神は、『地球を救いたい』と言う気持ちから始まっていると思うし、第二神は十万歩くらい譲れば、一葉を救ってくれた恩があります。」
二人の神は、藁にも縋る思いで八坂の言葉を待った。
「たとえば地獄落ちで、順番待ちの少ないところから、順番に修行に回って、最後に一番人気の灼熱地獄の修行を積ませ、全て終わったら、天国へ行き転生を待つ。そして人間として地球で生きる。ぐらいには、罪を軽減しても良いかと思うのですが。」
「この罪の軽減の案はどうかね?」
紳士が二人の神に訊く。
「我々が転生できるまで、地球が持てばいいのだがね。」
ふてぶてしく第二神が答えたが、地球の神は、「人間になるぐらいなら消えた方がましだ。わしは辞退する。」
「そうですか、消えた方が良いのでしたら、是非、地獄堕ちをさせてください。」
「そうね。自分が望む事を通す道理は無いものね」
「あなた方お二人は、本当に面白い。この件は太陽の神へ、進言をいたしましょう。」と落胆した二人の神の前に立ち、紳士は愉快そうに答えた。
「これで、話しの全体がはっきりしたと思いますが」
紳士が一同を見回し言った。
「まだ第二神が保憲のままですが」
「忘れておりました。」
八坂に言われ、紳士は右手の人差し指をスライドさせると、保憲の大柄で、でっぷりとした姿が、地球の神を痩せさせた風貌の老人に変わった。
「これでいいでしょう。では太陽の神の下へ連行しなさい。」
二人の神は潔く、山羊に言われるがまま、とぼとぼと少し歩くと、光となって消えた。
「今回は七人全員が神になったのですか?」
八坂が二人を見送り紳士へ訊いた。
「そうですね。実際に試験となるのは、貴方のところへ現れた時から、天国で全員が集まるまでが試験範囲となりますと、結果、合格となりますね。」
「だとすると、地球から居なくなるという事ですか?」
「そうですね。ここで、神として修行をし、それなりに実績を積めば、そう遠くは無い時点で、他の星の神となります。太陽の神も、さぞお喜びになられるかと思いますよ。」
「?」二人の理解に苦しむ顔を見て、「全宇宙には数千億個の惑星があり、惑星一つに、一人の神がおります――」と二人の為に、説明を始めた。
「宇宙自体にも人気の場所とそうではない、消滅の危機にある場所があります。人気の場所は惑星が密集し、人気の無い場所では、神離れが進み、そういった惑星は老朽化し、やがて寿命を迎え消滅するのです。なので宇宙の一角はやがて、宇宙自体が無くなり、ブラックホールとなって消えます。ですが、人気のある宇宙の端は、成長はゆっくりですが、まだ長く延びておりますし、惑星も右上がりで、新星が誕生しております。」
「まるで地球みたいね」
「そういう事も有りまして、神職も今は人材不足で、空いたからすぐに次を赴任させる、なんて事が難しいのです。そこで七人の精霊を神にして、他の空いている星へ赴任させてはどうか?と太陽の神が申されたのです。ですが簡単に神の称号を与える事はできないので、私は、地球の神と第二神が画策していた、ゲームに少し手を加え、彼等七人に太陽の神が直々にお認めくださいました、神への本当の昇進試験を黙って受けさせる事にしたのです。」
「手を加えて昇進試験を?山羊の監視ですね。」
「そうです。試験の内容は毎度同じで、太陽の神が作られました、七つの大罪を犯すかどうかで決まるのです。ですので、彼等七人から精霊の力と、体と記憶を取り上げ、日本の古い時間へ落とし、第二神と、大罪を犯したから、消滅の刑を与えようとした、地球の神の計画を黙って見ていたのです。そして、地球の神は予定通りゲームを始めました。」
「なるほど、そういう事ですか。ところで、先程から出ている、七つの大罪とは何なのですか?」
「七つの大罪とは、まず一つ目は、虚栄・傲慢。そして二つめが、強欲・貧欲。三つめは、色欲と四つ目は暴食と酩酊。五つ目は憤怒。六つ目は嫉妬で、最後の七つ目が怠惰です。」
「それを破るかどうが、試験だと言われるのですか?」
「そうです。それをクリアして、初めて神の称号と星を耐えられ、晴れて『神』と呼ばれるのです。」
「ちょっと待って。それじゃ全員、不合格じゃなくて。」
そこに居た一同が、再び目を剥いて驚いた。
「だって、白虎はデブ猫で暴食でしょ。青龍なんか、契れ契れって、セクハラ以外の何ものでも無いじゃない。って事は、強欲よね。玄武は私に嫉妬していたし、朱雀は賢さをアピールしていたけど、その割には、勉強不足だと言っていたわ。それって、虚栄よね。阿吽はいつもべったりとくっ付いて色欲っぽいし、妖狐は最後には戦う事をやめてしまったって訊いたわ。それって、怠惰にならないの?」
上を向いて、思い出しながら、最後のひとつへ繋いだ。
「そうそう、妖狐と戦う時、皆が憤怒していたわよね。」
呆気にとられ、流石の八坂も黙ったまま、何も返す言葉が見付からなかった。
「あら、違うの?」一葉の顔は普段通り、悪気など微塵もない顔で、決して陥れる事を望んでいる顔ではなかった。
「困りましたね。そうなると、全員が不合格と言う事になります。」
「あら、良いじゃない。そうすれば、ずぅと、地球で一緒に居られるんでしょ。」
「そうか!」八坂は、一葉を抱き寄せハグをした。その光景を見ていた、七人はお互いを見て、大きな声で笑いだした。
「僕達の我侭で、神になれなかったね。ごめんね。」
「全然気にしておりませんよ。寧ろ、別々になって、他の星へゆくのなら、このまま、お二人と地球に残れた方が幸せです。」
「ありがとう。」八坂と一葉は、七人の精霊の一人一人と、硬く握手をかわした。
「このあと、人間界に生まれ変わり、お二人の人生をやり直せるようにしました。」
指した先には、天国に入って来るときと似た扉があった。
「生まれ変わるって事は、また一葉を探すのかい?」
「迷惑?もう探してはくれないの?」
「勿論探すさ。でも生きている間に、見付けられなかったらと思うとね」
「それには心配は及びません。我々が、二人が自然に出会い、愛し合い、幸福な人生を過ごせるように導きますよ。」
「本当かい?」一同を見回して、一人一人が頷き返事をするのを見て、「判った。では僕達はこれで天国とは失礼するよ」
「本当にありがとうございました。ではその扉、『産道』より人間界へお行きください。」
「今回の人生も、僕は意外と気に入っているよ。白虎、玄武、朱雀、青龍、阿形、吽形、妖狐。君達と冒険ができて、本当に楽しかったよ。もう会う事も、思い出すこともないだろうけど、一葉と二人で、人生を大事にして、今度はインチキ無しで、自力で天国へ来られるような人生を歩む。」
「そうね。私も数珠さんを大事に、一生懸命、楽しい人生を送るわ。」
「見守っていますから――。」
七人の精霊に見送られ、二人は扉を開けて出て行った。
「さてと、我々も自分達の持ち場に戻って、それぞれが荒んだ人間達を少しずつ癒し、狂った地球の自然を治し始めよう」
七人の精霊は、お互いの顔を見て頷き、それぞれの聖地へ戻り始めた。
「あの二人は、私のところで暮らしてもらいますよ。」と一人の精霊が声を掛けた。
「勿論」と六人が答える。
「君に任せれば、自然と二人は出会える。」
「そうそう、あの二人には、日本と白虎が一番似合っているからね。」
六人の精霊は笑顔で応えた。