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名も無き戦いの終わりに  作者: 吉幸晶
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本当の記憶

 青龍が加わり、神と保憲が主催するゲームの駒は、全てが揃い誰もが終わったと思った。が、特に何も変化は起きない。それでも暫く待ったが、何かが起こる気配さえ感じ得なかった。

「まだ何かが足りないのではないでしょうか?」と朱雀が問うた。思案の末に、八坂が「ゲームにはゴールが付き物だよ」と呟くと、そのゴールは、一葉達が居た場所か、あるいは、白虎達がいた地かの二つに意見は割れた。どちらもそれ相応の言い分があり、決めかねていると、最終的に八坂の判断に従うことで、全員の一致を得た。

 八坂はここから近い、白虎達が居た方を選ぶと、目的地を目指し、再び進み始め掛けた時、青龍が、妖狐が仲間になっていた事に、当然納得が行かず、強固に敵意を剥き出し、妖狐へ向けられた。

 八坂と白虎が説得に努めたが、頑固な青龍はなかなか納得できずにいた。見かねた一葉が、「良いから、黙って付いて来れば良いのよ!判った!」と一括すると、青龍は前世での天寿院を思い出し、一葉の言い分に従った。これにより、妖狐の一件は、全員が納得して無事に収まった。


 先に進むに連れて、草木の密集も段々と減り、何組かに別れ、各自が思い思いの者と会話を弾ませていた。その時八坂が、ひとつの疑問を口にした。

「でもどうして、白虎には光らなかったのかな?」

「白虎は初めから白虎だったから、光らなかったんじゃないの?」

「それは、どういうことですか?」朱雀が訊く。

「だって私が始めて会った時に、『私は白虎と申します。』って、私に言ったのよ。私は自分の名前さえ知らないのに。驚いたわ。」

「で、白虎はどうして、玄武や青龍、天寿院に阿吽の名を知っていたのかな?」

「判りません。ただ、森を抜けて、そういった名前の仲間がいる。と(おもむろ)にですが記憶が有った様な気がします。」

「そうなんだ。でも、僕や妖狐の名前は記憶に無かったんだよね。」

 ちょっと意地悪そうに八坂が言う。

「その事に付きましては、本当に申し訳ございません。」と白虎は平伏して謝ると、八坂は慌てて意地悪を詫びた。

「でも偶然に玄武が別名で入っているなんて、(えにし)だよね。」

「はい。偶然にも、数珠様と白虎の元にいたなんて、ご縁を感じますぅ。」

「これは天国で、三組の縁談がありそうですね。」

「阿吽は、子供のままでは契れないから、大人に成るまでは結婚はできんだろう。」

「相変わらず、青龍は助平で朱雀は恋愛に興味深いのね。」

 青龍は薄っすらと、恐怖を覚え慌てて空へ逃げ出した。

「逃げたって無駄よ。私はカラスの撃退法を、習得しているのよ。」空を飛んでいる青龍へ向かって言った。

 八坂は逃げ出した青龍を目で追うと、樫の木の間から、大きな楠木がちらっと、頭を覗かせたのが見えた。

「あの場所へ行けば、きっと山羊が居る。そこがこのゲームのゴールになるはずだ。」と自分に言い聞かせるかの様に言った。


 楠木の先にある小高い丘に、二匹の山羊はいた。出るときと、何ら変わらずに、二匹は口をむしゃむしゃと動かし、八坂達を出迎えているかのように、じっと近付くのを待っていた。


「貴方達は、神と保憲の、お二人ではありませんか?」

 山羊へ近付くと一番に八坂が訊いた。

「違いますよ。」と初めて口を利いた。

「では、どなたなのでしょうか?」

「私達は、監察をしている者です。」

「カンサツ?」

 八坂は突飛な言葉に、意味が判らず聞き返した。

「ゴールを確認いたしました。寄ってこのゲームは終了といたします。」

 八坂の問いには答えず、山羊が終了を宣言した途端、二人の人型が現れた。一人は、見覚えの有る保憲で、もう一人は白い衣を纏った、白髪で白い髭を蓄えた初老の――始めて見る男だが、恐らく『神』だろうという直感が働いた。

「この二人は、神でありながら、重罪を犯しました。よって、このゲーム終了を証拠とし、二人を太陽の神の下へ連行いたします。刑は重罪ですので、恐らくは、完全消滅と言う事になります。また、貴方とそちらの女性のお二人には、大変、ご迷惑をお掛けいたしましたこと。謹んで、お詫びを申し上げます。」

 一方的に、事務的で無表情な文言であった。

「ちょっと待ってください。全然意味が判りません。もっと判るように、説明して貰っても良いのではないですか?」

 八坂が、山羊の言上に割って入った。

「我々の役目は、この二人を連行する事です。従いまして、今のご質問に対しましては、別の担当の者が、お答えする事になります。またその際は、お二人にこの二人の罪人が犯した、全ての罪を立証するため、証言を求める事になります。予めご承知置き頂きまして、ご協力をいただけますよう、お願いを申し上げます。」

 八坂と一葉は、この山羊が話している、一方的な話しに嫌悪感すら覚えた。

「どういう事か、僕達にも判るように、説明してくれませんか?」

 山羊に言っても無駄と思い、八坂は保憲へ近付き言った。

「しても良いが、この監察達が許さないだろうな」と横を向いた。

 八坂に行き場の無い、怒りが込み上げてきた。

「誰でも良い!とにかく判るように、ちゃんと説明しろ!」

 八坂は大声を張って、山羊と二人の罪人へ詰問した。


「そう大声を出されましても、先程も申し上げました通り、私達では、貴方のご要望にお答えする事はできません。が、そちらの、七人の本来の記憶は、自ずと戻ってくると思います。」

「本当に?」

 八坂は振り返り七人の顔を一人一人見て訊いた。

「はい。そう成るように、この者が定めておりましたので――」

 そう言って、神を鼻先で指すと、「ああ。少し待てば、基の体と記憶が戻るようにしてある。」苦虫を潰したような顔で応えた。

「どうして?」

「それに対しても、大事な証言となりますので、詳細に付きましては、発言を控えさせていただきます。」

 あくまでも、事務的に対応する構えがはっきりと汲み取れた。

「では、いつ、何処へ行けば、教えていただけるのでしょうかね?」

 半ばやけになって訊く。

「それに関しましても、『追って』としか、今は申せません。暫くはこのまま、こちらに留まっていただき、二人を連行した後、時が来ましたら担当の者が伺う事になっております。」

 八坂の拳がわなわなと振るえ、我慢の限界に達した時だった。

「いい加減しなさいよ!(しと)やかな私にだって、我慢に限界はあるのよ!体外にしないと、強硬手段に出る事になるけど、その覚悟は有って!」

 一葉が、八坂より先に切れて、二匹の山羊へ詰め寄った。

「一応、私達も神の部類に入りますので、貴方の今の発言は、神を冒涜する事になります。そうなりますと、何らかの罰が――」言い掛けた山羊が、言葉の最後を飲み込んだ。

「罰が何!」はっきり言わない、山羊を恫喝した。

「その辺で、お許しをいただけませんか?」

 声と共に、神と似た服装はしているが、顔立ちや、風格から見ると、疲れきった神とは異なる、紳士が一人現れた。


「あんた、誰!」一葉の怒りは収まらず、正面に捕らえ、現れたその紳士を睨んだ。

「私は、この者達の上司になります。正確には、太陽の神の直属で、太陽の神が管轄する神々を監察しております。監察部門の責任者です。」

 紳士の低く落ち着いた、聞き心地の良い声が答えた。

「丁度よかったわ。この山羊達では、埒が明かなくて困っていたところなの。上司の貴方なら、私達の質問に、答えて貰えるのよね」

 まだ怒りが収まりきれない一葉の語気は、荒く紳士へ当ったが、「勿論でございます。お二人の、どの様なご質問にも、全てこの場にて、お答えさせていただきます。」と見た目だけではなく、一葉と八坂の心情を汲み、紳士的に丁寧に答えた。


「まずは私からも、この度のこの二人の神が仕出かしました、不祥事に関しまして、心からお詫びを申し上げます。と共に、お二人には、新しい人生を、お約束させていただきます。また色々とご不満があるかと思いますが、全てはこの二人が自分本位で中途半端に流し、漏れ伝わりました、いい加減な情報がゆえのことと察しいたしております。付きましては、お二人のご質問にお答えさせていただきます前に、私から順を追ってお話しをさせていただいた方が、話しが前後せずにストレス無くスムーズに、ご理解をいただけるかと思います。如何でしょうか?」

 紳士は八坂と一葉を等しく見て、二人の答えを待った。

「判りました。私達も少し冷静になる時間が必要ですので、貴方に――、貴方を信じて、お任せいたします。」と八坂が、一葉の目を見ながら答えた。

「ありがとうございます。では早速、順を追ってお話しをさせていただきます。ご不明な点や、ご質問などがございましたら、その都度、ご遠慮なさらずに、お聞きいただいて結構です。」

 紳士はそう言いながら一幕を降ろした。


 暫くして「そろそろでしょうか?」と紳士が妖狐達へ目を向けた。八坂もそれにつられて、視線を向けると、妖狐達の体から光る糸の様な物が出始めた。その糸は、ぐるぐると玉を作る様に、幾重にも螺旋状に巻かれていった。最終的には、七個の青白く光る、繭玉となった。

「呪術が解けて、彼等に基の姿と、本当の記憶が戻るのです。彼等が蘇るまで、話し始めるのを待っても宜しいでしょうか?」

 紳士が二人へ許しを請う。当然、二人は「勿論」と即答し、繭が(かえ)るのを待つことにした。

「あの待っている間に少しお聞きしたいのですが」

八坂が紳士へ訊ねた。

「どうぞ」と紳士は笑顔で答え、質問を勧めた。

「神がここに居る。と言う事は、今、地球に神様がいない状態ですよね。それは、とても危険ではないのでしょうか?」

「はい。そうです。ここ数百年という長い地球時間の中で、大変危険な状態が続いております。」

「二人がここへ連れて来られたのは、先程ですが、そんなに長く経ってしまったのですか?」

「正確に申しますと、この二人はゲームを始めてから、自分の仕事を半分もしていなかった為に、自然体系が崩れ始め、天候不順を引き起こし、その上、人口の増大と急激な科学の進歩により、自然破壊に到り、最早、この星自体が大変衰弱しております。急いで、この危険な状態を改善して、この星を正常化する事が、急務だと言えましょう。」

「神が仕事半分だと、地球が瀕死な状態に陥るのですか?」

 八坂と一葉は、厳しい目で二人を睨んだ。

「二人が、お互いを牽制しつつ、有利に立とうとしたが為に、ゲームを優先させ、本来しなければならない、神の仕事に身が入らなかったからだと、私は見ております。」

 紳士はとても寂しそうな面持ちで、残念そうな目を二人の神に向けた。

「先程から、『二人の神』と呼んでおられますが、保憲も神なのでしょうか?」

「はい。その通りです。一つの星に、その星の神と第二神(だいにしん)の二人を置きます。どちらかの神が、病気や怪我などで、職務に支障を来たすことが有った場合の、安全対策のひとつなのですが、二人の神が揃って今回の様な不祥事を起こすなど、宇宙が始まって以来、初めてのことです。」

「神と第二神とは、どの様に違うのでしょうか?」と一葉が訊く。

「神は、お二人もご存知の通りの神で、正式には『地球の神』と呼びます。が、第二神とは、地球では、地獄と呼ばれる、死後の魂を清める国の神を指します。」

「地獄……。閻魔様ですか?」

「察しが宜しいようで、流石、七人の精霊に選ばれた、お二人ですね。」

「白虎――、いいえ彼等は、精霊なのですか?」

「はい。」

「そして、彼等が私達を選んだ――と?」

「そうですよ。今回の事を知って、頼れる人間を捜し当て、記憶が無くなった自分達を、導いてくれる事を、お二人に託したのです。」

 紳士は光輝く七つの繭を、しっかりと見て言った。

「でも保憲は陰陽師だと言っておりましたが」八坂の視界に、ふて腐れている保憲が入っていた。

「あれは、仮の姿です。あとで、本当の姿に戻します。」

「では本当の保憲様は?」と今度は一葉が訊いた。

「ここ、天国の何処かにいるはずですよ。恐らく、静かに転生を待っている事と思います。」

「ひょっとして、あの大きな楠木でしょうか?」

「かも知れません。彼は転生を拒んでおりましたので、天国では長老的な位置に居ると推察いたします。」

 一葉は、加茂保憲が、正真正銘の陰陽師なのだと知って、正直ほっとして、八坂と二人で楠木を仰ぎ見た。 


「もうじき、(かえ)りますよ。」

 繭の輝く色が、金色に変わったのを見て、紳士が教えてくれた。

「これであの七人に、本当の記憶が戻るのですね。」

「そうです。彼等の証言は、あの二人を裁くのには必要不可欠なのです。」

「裁判ですか?」

「我々の世界には、その様な制度はありません。その為にこの監察役がいるのです。彼等は黙々と、真実だけを見て集めます。そして私が関係者から話しを聞いて、その裏付けをし、太陽の神へ報告すれば、そのまま裁かれます。」

「責任重大なお役目ですね。」

「そうです。ですから、間違った事の言えない、相手を陥れる事もできないこの天国で、真実を見極めるのです。」

 八坂は紳士の目の中に『芯』を見た気がした。


 ひとつの繭の真ん中辺りに、(ひび)が入り始めた。三人は目を凝らして、本来の自分に戻る七人を見守った。

 最初の繭の罅が開いて、中がはっきりと見え、「あっ」と八坂が声を上げた。二つ目が割れると、数個が同時に割れ他も続いた。

 最初に割れた繭から、一人が出ると次々に繭から、裸のままで外へ出始めた。抜け殻の繭は、白い衣となり、その裸体を(おお)った。そして七人全員が白い衣を纏い、凛とした姿で、八坂達の前に揃った。


「数珠様、一葉様、色々とお世話になりました。」

 七人の中の一人が代表して、二人へ礼を述べると、残りの六人が右膝を地に付け座り、右手も地に付けた。これがこの国の正式な挨拶の形なのだと二人は思った。

「おめでとう。本当の自分に戻れて、本当に良かった。」

「そうね。おめでとう。」

 二人は揃って、祝福の言葉を送った。

「ありがとうございます。この復活の時を迎えられましたのも、一重に、数珠様がいらっしゃったお陰と――。満足なお礼の言葉も見付かりませんが、ここに居りますみんなが、感謝しております。」

「新しい神が決まるまでは、君達七人が神を代行するようにと、太陽の神より申し受けておりますよ。」と紳士が、七人の復活に花を添えた。

「七人の神?それって、七福神の事かな?」

「ははは、それとは違います。私達七人は、それぞれが大陸を守護する山の精霊なのです。」

「大陸の精霊って?大陸って七つも有った?」

 指を折りながら、「アジア大陸、ヨーロッパ大陸に北アメリカ大陸。」声をだして考えては続ける。

「南アメリカ大陸と、アフリカ大陸?ってあったよね。」

「あとは、オーストラリア大陸、そして南極大陸ね。」と一葉の助けを借りて七大陸を挙げた。

「その通りです。」

「で、そこの山の精霊って?」

「アジア大陸のデヴギリ。エベレストと言った方が判り安いですね。私、元白虎が棲んでおりました。」と説明すると他もそれに続いた。

「ヨーロッパ大陸はカウカーソス又はエルブスとも呼ばれます。私、元朱雀が担当でした。」

「北アメリカ大陸はデナリ。マッキンリーの方が有名ですね。担当は元妖狐の私です。」

「南アメリカ大陸では、アコンカグア。元玄武の私が担当していました。」

「アフリカ大陸はキボ、別名キリマンジェロです。元青龍の私の山です。」

「元吽形の私は、オーストラリア大陸は、コジオスコの精霊となります。」

「そして、最後になりますが、南極大陸はヴィンソン・マシフ。元阿形の私が担当でした。」

 全員が、持ち場と山名を告げ、本来の自分に戻れたことを、素直に喜び伝えた。


 紳士は手際良く、椅子を出すと、「では、大変長いお話しとなりますので、こちらにお掛けいただき、お(くつろ)ぎください。」と二人へ勧め、二人が掛けたあとから、自分も椅子に腰掛けた。

「君達も掛けたまえ。」と、七人へ椅子を出し勧めた。そして最後に、「二人はそこへ座りなさい。罪人から、見下ろされるのは、些か抵抗がある。」と言い草の上に座らせた。

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