魔王が肉まんで捕まった
外へ出ると、そこには煌びやかな光が建物を照らしていた。この大陸にこのような都市があったとは初耳だ。まさか、人間の町を堂々と闊歩する日がこようとは思わなかった。
先ほどの男にスウエットなる民族衣装と、バンダナなる額当てを強引に着させられた。どうやら、一般的なこの町の服装であるらしいがあまり歩いてはいない。
少し大きめのこの民族衣装と額当ては、背中と額の傷を隠すにはまさしく都合がよかった。皮肉にも翼と角が無い状態の我はいわゆる人間と酷似しているらしく、誰にも我が魔王だと疑われていない。
しかし、これからどうしようか――ああもう、かさばるなこの翼と角は!
自らの身についている時は、特に何とも思わなかったがとにかく重い。紙袋と言う便利なものに入れられたが、持っていると、指がちぎれそうなほど、痛い。
置いて行こうか……いや、それはさすがに――
そんな事を考えていると、すぐそばでいい香りがしてきた。
あの建物からだ。匂いにつられて、その建物前に行くと自動で引き戸が開いた。
「いらっしゃいませぇ」
人間の女が、愛想よく声を出した。
女の横には人間が食するであろう食べ物が並んでいた。
ゴクリ……思わず喉を鳴らしてしまった。
「あの、今、肉まん炊き立てなのでよかったらどうぞ」
「ん……そうか、お前がどうしても進めると言うのなら仕方が無いな」
例え、憎き人間でも、差しだされた行為を無下にするなど道理に反する。
決して、食べ物に釣られている訳では、無い。
「あっ、いえ無理にとは――」
「どうしてもと言うのだな!」
これ以上無いくらい睨みを効かせて凄んだ。
「あっ……はいどうぞ」
「ふむ……では、食す」
「128円です」
そう女が手を出してきた。
「……なんだ? 早く肉まんとやらを我に差し出せ」
「あの、だから128円です。税込で」
「……何を言っておるのだ。お前がどうしてもと言うから食すまでの事だ」
「だからお金! お金支払わないと駄目ですよ」
「……そんなものは無い」
「店長―! 店長、不審者です!」
またしても、先ほどの人間に連れて行かれた。