魔王が背中の羽をもぎ取られる
気がつけば、見知らぬ天井。何やら身体が温かった。
「やっと起きた? はい、カフェオレ。温まるから、飲んで」
その女の言葉はわからなかったが、何やら勧められているのはわかった。
しかし、人間に勧められるものを簡単に信じるほど、俺は甘くない。
――控えろ! 畏れ多い。
そう言ったつもりだった。
「……なんだ、異世界語か? なりきってるなー、わかったわかった。いいから飲め。花ちゃん、強引に飲ませちゃって。プレイだから、そういう」
別の男がそう言うと、女は我が動けない事をいい事に、口を強引に開かせその液体を飲ませてきた。
――くっ、毒か。魔王の最後が毒とは、我ながら滑稽。
そう死を覚悟したが、口の中に広がるのはまろやかな甘みと、身体の中から暖かくなった感触だった。
どうやら、毒かと思っていたが、そうでもないらしい。
そして、この飲み物を飲んだおかげか、少し魔力の回復が感じ取れた。
――さて、この人間たちを殺すか。それとも言語を通じるよう魔法を掛けるか。
正直、殺すことなど造作も無い事だ。しかし、ここは恐らく人間の集落。無事に抜け出せるのか不明だ。そして、なぜこの人間が我に怪しい飲み物を飲ませて回復させたのか、真意が図りかねるところだ。
――よし、ここは意思疎通を優先する。
「万物の真理を放て、悪魔の知恵」
そう唱えた途端、体中の力が再び抜けた。ある程度覚悟していた疲労ではあったが、やはりこの瀕死の状態ではかなりの負担だ。
「おお、なんか黒光り始めた。そのコスプレってそんな機能もあるのか。どこがスイッチだ?」
男が、興味深げに我の身体をまさぐり始めた。
「……コスプレとはなんだ?」
やはり、固有の単語はわからんか。
「やっと話した。異世界語はもう終わり?」
女がため息をついて尋ねてきた。
「言語を解する魔法を使った。貴様ら人間どもには使えぬ魔法だ。さあ、次は我の質問に答える番だコスプレとはなんだ?」
「はぁ、そんな設定で乗り切るとは。でもね。交番長みたいに私は人間できちゃないから。あなたが動かないって設定を貫くなら、こっちもそれに乗っかるだけ」
そう言って女は一歩ずつ我の元に近づいてくる。
「……貴様、我に何をする気だ?」
その女は不敵な笑顔を浮かべた。
「あんたの、その背中の羽を、もぎ取る」
えええええええええええええええっ!