魔王が芝生に放置されてる
「ねえ、ここでいい?」
そう二人の人間に運ばれたのは、緑色の芝生だった。
乗り物に乗せられている間、必死に抵抗しようと試みたが、悔しいかな身動きが取れない程疲弊している。どうやら勇者との戦いの傷跡は身体にも魔力にも大きな負担だったようだ。
「まあ、気持ちはわからんでもないが、人に迷惑を掛けないのがコスプレイヤーの嗜みってもんだ。俺も、若い頃は色々やんちゃしたもんだったがな。迷惑もかけた。しかし、わかったんだ。独りよがりのコスプレは、ただ哀しみしか生まないって。だから俺は――」
なんだ、こいつは、何を言っているんだ。
更にしゃべり続けている人間に、欠伸を始めたもう一人の女。
「交番長、そろそろ。我々は渋谷の管轄ですし」
「……むう。じゃあ、今、俺の言ったことを心に刻んで励むんだぞ」
そう言い残して、二人の人間は去って行った。
芝生で瀕死の重傷を負いながら、とにかく身体を休める。
そうやって寝転がっていると、雨が降って来た。
冷たい水が降り注いで、流れ出る血がどんどん流れていく。
思ったより水の温度が冷たくて、体力は削られていく一方だった。
魔王だから肉体も強いと思われがちなのだが、実はそうでもない。絶対的な魔力で普段それを纏わせているだけで、肉体自体の強度は人間と変わりはないのだ。
俺は……こんな所で、死ぬのか。
そう思った矢先だった。
「あんたって奴は……バカっ!」
先ほどの女が戻ってきた。
なんだ、俺が魔王と気づいて殺しに来たのだろうか。
悔しいが力がもう残っていない。
「全く、花ちゃんが戻ろうって言わなかったら凍え死にしてたかもしれんぞ。こんな、気合の入ったコスプレイヤーは初めてだ。嫌いじゃないけどな」
そう言って肩を持たれて、再び見知らぬ場所へ運ばれた。
もう体力の限界でまたしても、意識が薄れて行った。