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魔王がファンクラブに入る

またしても花と泥沼の言い争いになりそうなところで、先ほど『下矢』と呼ばれていた男が恐る恐る前に出てきた。


「あ、アイドルとコスプレの両立は別に珍しい事ではござらん! 拙者も、大の戦国武将好きでござるが、レーナの事も大好きでござる!」

こちらの只ならぬ様子は察していたのか、震えながら声をあげた。


「あの、ごめんなさい。決して君たちの趣味嗜好を否定してる訳じゃないの」

花が慌てて頭を下げた。さすがにこの女も初対面の人に我のような失礼な態度は取らぬらしい。


「あの……僕、安室啓太と言います。も、もしよかったら『レーナを支える会』に入りませんか? 会員がまだ15人しかいなくて困ってるんです」

そう提案してきた啓太と言う男はいかにも頼りなさ気だった。先ほどの自信満々な口調とはまるで違っている感じだ。


「……なんだその会は?」

花の冷ややかな視線を感じながらも、尋ねた。


「い、一応規約があります」

そう言って紙を渡されるが……読めない。


「あー、バカでアイドル好きでコスプレ大好きなんて、ほんとにどうしようもないわね」

花が我が持っていた紙を奪って代わりに読み始めた。


この女の言動で下矢と安室が明らかに傷ついた表情をしたのは気のせいだろうか。


一条我々はレーナの為にその命と人生を懸け、全てを捧げることを誓う

二条レーナ以外の女にうつつを抜かす者は死刑

三条レーナが困っている時は、いかなる場合でも救助にいってみせる

四条レーナのツイッターは必ず、『いいね』を押さなくていけない

五条レーナのツイッターは最低十回以上はリツイートすること

六条レーナのツイッタ―は……


「……どうでもいいけど、四条以降は全部ツイッタ―だね」

花が残念そうに呟く。


「ツイッタ―とは、なんだ?」


「……あたしは今、それをあんたに説明する気も無いわ。若いのに、他にする事無いのかしらねぇ」

そう言ってため息をつく花。何やらこの二人に対し、思う所があったらしい。


「レーナは僕らの青春なんです! 僕は……僕は50万は彼女に投資している! それぐらい彼女に懸けている! 中学一年から毎日休まず新聞配達、月に一度のお小遣い、お年玉、誕生日、全てのお金を投資している! 投資しているんだ」

啓太が熱く語れば語るほど、花のため息は深くなった。


「どうすんの? 魔王様は入る訳?」


「うーむ……人間の熱い趣味に従うのも、全生物を統べる者の務めなのかもしれんな」

苦しいか、この物言いは、苦しいか。


「はぁ、好きにしなさいよ。あたしはもう帰るから」


「ちょ、ちょっと待て! 花、お前も入らんか? このように二人もそう言っておるのだから。お前の曲がった心も少しはまっすぐになるかもしれんぞ」

そう言って必死に花にすがりつく。この二人の人間と残されるのは何故だかかなり嫌だった。


そして、何よりも、帰る道がわからない。


「は、離しなさい!」

そう言って必死に引き離しに掛かる花。


「離すものか! 絶対に離さない」

少し体力が回復して来たのか、すがりつくほどの力はあった。


「なんなのよ! 入りなさいよ! レーナを支えるだか護るだか知らないけど好きにすればいいでしょう」


「花さん、楽しいでござるよ」

下矢と言う男が横槍を入れる。


「絶対に嫌! 絶対に嫌よ」

そう叫ぶ花。


30分後……公園にて


「L、O、V、E、ラブリーレーナッ、L、O、V、E、ラブリーレーナッ」

小声で人目を気にしながら呟く、花。


「ちがーうっ、何度言ったらわかるんだ。Lはこうっ。指先を限りなく尖らせて、全身で表現するのだ。声も小さーいっ、魂から叫ぶのだ、いいかこうだ、エロァ――、ウォ――、ヴァイ――、エエイ――、ライヴルィ――レ――ヌァアアアアア!」


恐らく、この時、花は涙ぐんでいたと思う。



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