魔王がアイドルに会いたがる
その日も、あいつは笑顔で笑っていた。
「何が可笑しい?」
我がそう尋ねると、あいつは初めて自分の表情に気づいて慌てた。
「お、可笑しかったんじゃないよ。きっと君に会えて嬉しい買ったからじゃないかな、イリア・ガウスはね」
そう、後ろを向くイリア。
「……そうか、人間と言うのは可笑しい時以外でもそのような顔を向けるのだな」
そんな風に呟くと、イリアは振り返って我の頬をギュッとつねった。
「んもうっ! 可愛く無い」
怒りながら、笑っていた。
あの時の、イリアの変わらぬ笑顔が、ここにあった。手に治まるほどの大きさで精巧な絵でイリアの笑顔が描かれていた。
「ちょ、ちょっと何でござるか!?」
気がつけば、その男が持っているイリアの絵に我の手が触れていた。
「す、すまん。しかし、その絵の女は……そのどこに……いや……」
言いたいことがまとまらず、妙に気が動転している。
「ああ、このジャケットの事でござるか? さすがはレーナ。一目で見知らぬ男子を釘付けにしてしまうとは……」
そう男は満足そうにイリアの絵を見つめる。
「ちょっと! いったいどうしたってのよ?」
花が服の袖を引っ張って来た。
「花、教えてくれ! あの女にはどこに行ったら会えるのだ?」
「えっ……あんた魔王魔王言っておいて、結局アイドルに会いに東京に出て来たの?」
信じられないほど冷たい視線を浴びせてくる花。
「ち、違うのだ。だから……その……色々込み入った事情があって――」
「じゃあ、このアイドルには会いたくないの?」
「いや会いたくない訳では無くて、我は我であるが、その女とは別物と言うか――」
「要するに、あんたは魔王だけど、このアイドルにも会いたい。『魔王のコスプレとアイドルは別腹だ!』って事?」
―ぬあああああああっ! なんでそーなる!




