魔王が人間に変態扱いされる
花に傷口をえぐられて、もはや意識が失いそうになっているところで、
「花ちゃん、そんなに怒らないで。そんなに怒ることじゃないから」
そう千草が止めに入ってくれた。
「おっぱいのある千草ちゃんには私の苦しみはわからないのよー!」
どうやら逆効果だったようだ。
「ま、まあまあ。べつにいいじゃない、好きな人に言われた訳じゃないんだし。この魔王さんの事、好きな訳じゃないんでしょう?」
「あっ、当たり前でしょう! だってこいつ、どっからどう見ても未成年でしょう? こんなお子さま全く興味のかけらもないわ……そうよ、あんたみたいな子どもに何を取り乱してたのかしら。そうよ、うん。私は大人。私は大人」
そう自制心をなんとか取り戻そうとする花。
「ふっ、愚かな」
「な、な、なんですっーーいえ、相手にしない。私はあなたみたいなお子さまは相手にしないの」
「ロクな恋愛をしていない」
「なっ!?」
「気になるか、年齢なんて?」
「うぐ!?」
「本当にその者に夢中になれば、年齢が身分が、種族がどうとかなんて取るに足らぬことだ。貴様は所詮、そんな年齢などという取るに足らぬ条件を気にするような恋愛しか知らぬからそんな事を平然と吐けるのだ」
完全に論破され、明らかに肩を落としだす花。やっと、己の愚かしさに気づいたらしくこちらも大満足だ。しかし、かろうじて反論を試みようとしたのか凄まじい形相でこちらを睨んできた。
「な、ならあんたはしたことがある訳? そんな年齢も身分も種族まで超えた恋愛を」
普段なら、そんな酔狂な話をするつもりは無かった。しかし、この本当の恋愛をした事がないが故に歪んでしまった人間に一片の施しを行うことも王たる務めだと思う。たとえそれが、処刑するものだとしてもだ。
決して、ただ話をしたい訳ではない。
「それは、許されぬことだった。当事の俺は魔王の嫡男、そしてあの者は……他ならぬ人間だった」
「そんな設定はいいのよ!」
「せ、設定? なんと無礼な、そんなもんじゃないのだ愚か者が」
「いいからっ! で、歳は? 相手の歳はいくつなの?」
「我が16歳の頃……その者は5歳。運命の出会いーー」
「へ、変態!」
「誰が変態だ! わからん奴だな、年齢などと本当の恋愛の前には関係ないといっておるだろうーー」
「あるのよ! それはとんでもなく関係が! この犯罪者予備軍」
やはり、愚か者には、何を言っても通じないことがわかった。




