魔王が人間にえぐられる
花と言う狂暴な女の後を歩いていると、突然一軒の建物の前で立ち止まった。
「……ここが交番長所有のアパート。私の隣に空き部屋があったから、多分そこ使えって事よね。ったくなんであたしがこんな目に」
そうブツブツ呟きながら、最寄りの扉を開いた。
「千草ちゃーん、私の隣の部屋貸して欲しいんだけど布団と鍵貸してくれない?」
花がそう叫ぶと、またしても女が出てきた。花よりも身長が小さく、大きな瞳と亜麻色の長い髪が印象的な女だ。
「おかえりなさーい、花ちゃん。あらー、こちらどなた?」
「ふんっ! 相変わらず人間と言うのは無礼だ。普通名を尋ねる時は自ら名乗るだろうが」
そう言うと、花からまたしても拳骨を喰らった。こいつは、もう処刑決定だ。
「……あはは、そうだね。えーっと、あたしは松田千草。管理人であるお父さんの代理人をやってます」
そう言って笑顔でお辞儀した。
「結構。お前は、間違いなく女のようだな」
「……えっ、あんた、今、なんて言ったの?」
「我の知るところ、女たらしめる要素は三つ。胸、慈しみ、礼儀。お前はまず、礼儀知らずだし、一片の優しさも持ち合わせちゃいない。まあ、ここまでは、いい。性格的な突然変異と考えればつじつまが合う。しかし、何よりお前には胸が無い。この女を見て確信した。胸の無いお前は、女では無い!」
自信を持って断言した。そう、こいつは男だったのだ。
「――ろすっ」
花が声が聞こえぬほど小さな声量で呟く。
「んんっ? なんて言ったのだ。物事ははっきりと話せ――」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ―――!」
ぐわああああああああ、き、傷口がえぐられる――――!
「は、花ちゃん。落ち着いて下さい!」
そう言って千草に止められる頃には、すでに我は瀕死の状態になっていた。




