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新説 呂布奉先伝 異伝  作者: 元精肉鮮魚店
第三章 其れは連なる環の如く

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投稿開始一周年幕間 桃園の誓い 異伝

幕間 桃園の誓い 異伝


 時は遡り、一八四年、甲子の月。

 腐敗した漢王朝を打倒しようと、黄色い布を頭に巻いた農民による民衆蜂起、黄巾の乱が勃発。

 それは漢の全土に飛び火した。


 その火は北の辺境と言える幽州も例外ではなく、涿たく郡涿県にも漢軍と共に戦う義勇軍募集の高札が出された。

「漢の義勇軍、か」

 高札を見る大男が、誰に言うでも無く呟く。

 人並み外れた大柄な男で、まるで棗の様な赤い顔色に蓄えた立派な髭が特徴的な偉丈夫である。

「ん? そちらの豪傑も興味アリ?」

 髭の男に気軽に話しかけてきたのは、奇妙な出で立ちの少女だった。

 まず最初に目が行くのはその愛らしい顔立ちの中でも特に目立つ、大きく先の尖った耳。それだけでも十分過ぎるほど目を引くのだが、服装も奇妙で、異様に袖の長い服を着ている。

「なんだ? 小娘の来るところではないぞ」

「まあまあ、それよりコレ。義勇軍に興味有るの?」

 少女は髭の男を恐れる素振りも無く、逆に興味津々な様子で尋ねてくる。

 彼にとって、それは新鮮な反応と言えた。

 彼はその体格と威厳の有る顔立ちの為に畏怖される事が多く、ここまで気軽に話しかけてくるような人物はいなかった。

 しかし、このような少女がまったく恐れる様子を見せないと言うのは、この少女が人並み外れた胆力を持っていると言う事もあるだろう。

「なんだ、娘。戦に興味でもあるのか?」

「んー、戦自体にはあんまり興味無いかな。それより、国の行く末には興味があるかも」

「ほう、大きく出たな」

「まあね」

「悪い事は言わん。やめておけ。女子供が出る幕ではない」

 髭の男の言葉に、少女は薄く笑う。

「何が可笑しい?」

「いやいや、黄巾の連中に襲われた村とか見た事ある? それこそ女子供にも容赦無しよ? 被害状況を考えれば女だとか子供だとか言ってる余裕も無く、自分の身を守りたいのなら自分達で戦うしか無いんじゃないの?」

 少女は髭の男を恐れる事なく、まっすぐに男を見て首を傾げている。

 中々に面白い娘だ、と髭の男は思う。

「では、娘。お前も義勇軍に参加するつもりか?」

「まあね。でも、私一人で参加しても、多分門前払いを食らうでしょうから人集めをしてるとこ。どう? 一緒にヤらない?」

「ほう、この関羽を味方に付けようと言うのか」

 髭の男、関羽がそう言うと少女は一瞬きょとんとするが、それからニヤリと笑う。

 その表情は妙に艶があり、妖艶と言える魅力があった。

「千軍得やすくとも一将求めがたし、って言うでしょ? 天下に名を広めるであろう大将になりたいと言うのであれば、私の元にいた方が良いわよ」

「面白い娘だ。何を企んでいるかは知らんが、この関羽を思い通りに動かせるとでも思っているらしい」

「んー、ちょっと違う」

 脅す様に言う関羽に対し、少女は笑いながら言う。

「例えば義勇軍募集に参加したとしても、ただの一兵卒からでしょ? それじゃどんなに手柄を立てたって分かりゃしないからね。私は文字通り、『軍』を率いて参加しようと思ってるの」

「軍、だと?」

「そ。関羽って言ったっけ? 明日またここに来てくれる? 出来るだけ人を集めて」

「……良いだろう、小娘。お前の浅知恵に乗ってやろう」

「それでこそ、ね。それじゃ、また明日会いましょ」

 そう言って少女はヒラヒラと袖を振って去っていく。

「しまったな。名を聞き忘れていた」

 関羽はその時はその程度に考えていた。

 特に少女に言われたからと言う訳では無いのだが、関羽はさっそく人集めを始める。

 しかし関羽は元々この涿県の出身ではなく、他所からの流れ者である。

 地元ではそれなりに名の知れた塩商人であり、子供達に勉学を教える塾の講師でもあり、その裏では侠客として弱きを助けていた人物が関羽と言う男であった。

 なので地元であれば関羽の一言で数百人から千人は集められる自信はあったのだが、ここではまったく無名の男になってしまっている。

 また、関羽と言う名ですら、つい先日から名乗り始めた偽名である。

 地元で友人の仇として役人を切り捨てたのだが、その役人と言うのが十常侍の親族だったらしく、一人で罪を背負って姿を隠す必要があった為だ。

 そうして彼は関羽となったのだが、その時に痛感した事がある。

 一役人の腐敗であれば侠客として戦う事にも意味があるが、今の漢王朝は国自体が腐敗している。

 それと戦うのであれば、侠客としてだけでは足りない。

 そう考えた時、関羽はまず黄巾党の活動に目を向けた。

 党首である張角の理念は素晴らしく、もしその理念の元の行動を徹底していれば関羽も黄色い頭巾を被っていたはずだと自分でも思う。

 が、張角が素晴らしくとも、それがすなわち黄巾党の素晴らしさにはならないのが残念だった。

 張角が得た民衆の支持やその集団としての力に、弟の張宝と張梁はそれに当てられてしまったらしい。

 その結果、急激に黄巾党は腐敗していき、今では漢王朝の役人とまったく同じくただ民衆を食い散らかすだけの蝗集団と化していた。

 そんな状況を知ってしまった事もあり、関羽の頭には黄色い頭巾は巻かれていない。

 関羽はたまたま立ち寄ったこの村を回ってみたが、他の村と違うところが目に付いた。

 荒れた様子が無いのだ。

 役人の腐敗、黄巾党の反乱など、今の漢全土は正に暴虐の大地と化している。

 この村の様に手頃な大きさの集落であれば、豊かかどうかさえ関係なく略奪の対象とされてもおかしくない。

 その為の自警に務めていると言うのであればそれに見合った緊張感もあるだろうし、余所者の関羽などかなり警戒されるはずだったのだが、それも無い。

 それに先ほどの様な年頃の少女であればそれだけで狙われそうなモノだが、あの少女の豪胆さはともかく、そんな様子も無い。

 とすると、専門の用心棒でも雇っているのだろう。

 普通はその用心棒からむしられるモノだが、その用心棒が常識と良識を持ち合わせた人物なのかも知れない。

 関羽はそう思いながら村の若者に義勇軍の事で声をかけてみたが、予想外の答えが返ってきた。

「ああ、明日っしょ? もう劉備さんから聞いてるッスよ」

 ほとんどの若者から、そんな答えが返ってきたのである。

 その『劉備』と言う人物がすでに高札を見て、この村の者に声を掛けていたらしい。

 そう考えると、先ほどの娘の発言などにも納得の行くところは出てくる。

 あの娘も『劉備』とやらに話を聞いていたのだろう。その人物に気に入られる為か、本当に義勇軍の事を思ってか、見た目で強いと分かる関羽を『劉備』の仲間に引き込もうとしたのだろう。

 あるいはあの娘は、関羽もすでに『劉備』から話を聞いていると勘違いしていたのかもしれない。

 いずれにしても、関羽は『劉備』と言う人物に興味が沸いてきた。

 結局この村では『劉備』の息のかかっていない者はいなかったので、関羽は十数人くらいしか集める事は出来なかった。

 と言っても、ほとんど何も知らない土地で、一晩と言う条件付きなのだからやむを得ないところもある。

 翌日、関羽が集めた十数人を連れて高札の所へ行くと、そこにはすでにあの少女が高札の前に座り込んでいた。

「あ、ホントに来た」

 待っていたはずの少女だが、関羽を見てそんな事を言う。

「当たり前だ。この関羽が嘘をつくとでも思ったのか?」

「いやいや、そんな事じゃなくて。てっきり人が集められなくて何日か掛かると思ってたから」

 そんな事まで知っているのか、と関羽は感心する。

 昨夜の村人の話が『劉備』に伝わっているのは分かるが、その事をこの少女が知っていると言う事は、この少女は意外と『劉備』とは近しいらしい。

「そんじゃ、行きましょっか」

 少女はそう言って立ち上がると、スタスタと関羽の前を歩き始める。

「行く? どこへだ?」

「義勇軍の結成式……ってほど堅苦しいモンじゃないけど、まあ、そんな感じのトコ。関羽も来るでしょ?」

 呼び捨てか、と思ったりもしたがその馴れ馴れしさも不思議と憎めないところのある少女だ。

「結成式、か。どれほど集まる予定だ?」

「んー? 四、五百人くらい?」

「……それは村の人口と比べて多すぎないか?」

「他所からも来てるみたいだし。たまたまこの村に高札が立てられたけど、漢軍が義勇兵を募っているのはけっこう広まってるみたいよ?」

 だったらそれぞれのところで義勇軍を結成して漢軍に協力しそうなものだが、わざわざこの村に来ると言う事は『劉備』の義勇軍に参加するつもりなのだろう。

「この村、桜桑村って言うんだけど、アレ見て。立派な桑の木があるでしょ?」

 少女が指差した方に、それは立派な桑の木があった。

 まるで皇帝の馬車についている傘の様に、その下にある家を守っているかの様にも見えるほどだ。

「アレ、私の家」

「何?」

「いや、別に木に住んでる訳じゃないわよ? アレが目印ってだけで」

「それは分かる」

 しかし村の名前の由来になる様な木に家を構えるとは、少なくともこの村の中では割といい場所に住んでいると言える。

「結成式の場所は桜の方。住んでるのは山賊みたいなヤツだけど、見た目と頭ほど悪いヤツじゃないわよ?」

 この少女の知り合いのようだが、中々酷い事を言う。

 ほどなくしてその桜並木に到着したが、これも見事なモノだった。

 満開の桜は見応え十分であり、そこにはかなりの人が集まり出店まで出て、ちょっとした祭り状態になっていた。

「ほう、これは風流な事だ」

「でしょ? なのに住んでるのはアレよ?」

 と少女が指差した方には、虎髭で目の大きい大男がいて、こちらに走ってくるのが見えた。

「ぅおい、小娘! 何勝手に人の家を集会所にしてんだ、ゴルァ!」

「いいじゃん、集まりやすい場所だし、あんた肉屋なんだから食べ物もすぐ揃えられるし」

 少女は面倒そうに大男をあしらっている。

 虎の様な大男に対してまったく恐れる様子を見せないのは、少女が人並み外れて豪胆と言うだけでなく、二人がお互いの事をよく知っていると言う事もあるだろう。

 夫婦かとも思ったが、そんな雰囲気ではない。

「それより、皆揃ってるの?」

「奥の桃園にいる。って言うか、遅れてきたのに態度デカイな、お前」

「態度だけじゃないわよ。耳だって胸だって大きいし」

 そう言って少女は胸を張る。

 大きな耳や奇抜な服装にばかり目が行くが、言われてみると確かに少年の様な雰囲気も持っている割には、体つきは女らしい。

 どうにも妖しい雰囲気を持つ少女である。

「じゃ、私たちも行きましょう。関羽の連れはここで待ってもらっていい?」

「それは構わないが、わざわざ集合場所を分ける理由があるのか?」

「んー、要約すると兵はここ、将は奥って事かな?」

 そう言うと少女は、まだ何か喚いている大男を無視して奥へと進んでいく。

 関羽は連れだった者達をこの場に残し、少女の後を追う。

 これが罠の可能性はほとんど皆無だが、万が一罠だった場合にも関羽は己の武勇で切り抜ける自信があった。

 それはまったく不必要な警戒ではあったが、案内された桃園には関羽も見覚えのある人物もいた。

 関羽は直接取引をした事はないが、それでも顔を知っているほどの大商人である張世平ちょうせいへい蘇双そそうの二人である。

 この二人は武将と言うより出資者だろうが、これほど強力な出資者というのも相当な者だ。

 その商人二人と関羽、案内の少女を除くと他は三人。

 内一人は肉屋と言われていた大男で、他は二人。

「今日は集まってくれてありがとう。あ、この方は関羽。私が見つけてきた武将よ」

 少女は軽く手を上げて、集まっていた人物に恐ろしく軽く挨拶する。

「関羽? 知らない名だなぁ。あっしは簡雍かんようって言いやす」

 ちょっと太めの愛嬌のある顔立ちの男が、関羽に向かって言う。

「……田豫でんよ

 不明だった男の二人がそう名乗る。

 田豫の方は知らないが、簡雍と言う名には聞き覚えがある。

 侠客の間では時々名を聞く人物であり、特に武芸に優れるとか策謀に優れると言う話ではないのだが、何故か彼が来ると揉め事が収まると言われる不思議な人物である。

「関羽と申す。此度の義勇軍の話を受け、是非とも協力したいと思い参上した次第」

「ああ? なんだ、その堅えアイサツは。教養自慢か、おう」

 虎髭の大男が関羽を威嚇するように言う。

 消去法で考えるとこの男が『劉備』になるのだが、これほど粗野で粗暴な男に近隣の村からも人を呼び、気付けば祭りになっているような人望があるだろうか。

 この男が脅せば人は集まるかもしれないが、祭りのように陽気な雰囲気にはならないはずだ。

 あれらの人々は、『劉備』の話を聞き、その上で自分達の意思でここに集まっていたように思える。

 とてもこの虎髭の大男の仕業とは思えない。

「教養自慢も何も、関羽にはあってあんたには無いんだから、それは事実でしょ?」

 少女が呆れて言う。

「今後私達は軍として動くわけだから、総大将と言うか代表と言うか、とにかくそう言うのを決めないといけないわけだけど、誰が適任だと思う?」

「そりゃ俺しかいないだろ?」

 虎髭の大男が立候補しているが、周りの反応は薄い。

「そう言うのはあっしの仕事じゃありやせんから、下ろさせてもらいやす」

「……俺、も」

 簡雍と田豫がそう言う。

「関羽殿には申し訳ないが、ここは発起人である劉備殿こそが適任ではないか、と思うのだが、どうだろうか」

 張世平が遠慮がちに提案する。

 関羽もそれが良いのではないかと思うのだが、肝心の『劉備』はどう思っているのだろうか。

「ぁあん? 俺しかいないだろ!」

 虎髭の男がそう主張する。

 ん? と言う事は、この男が『劉備』ではないのか?

 虎髭の男の反応に、関羽は疑問を覚えた。

「しかし、その方の様に粗暴で軽率ではいささか荷が重く、漢の正規軍に侮られるのではないか?」

 関羽は虎髭の男に探りを入れようと、あえて煽る様な事を言う。

「何ぃ? この張飛では荷が重いだと?」

 ……張飛? 張飛だと?

 その名はこの近辺でよく聞く危険人物の名だった。

 体躯は虎か熊の如く、その怒声は雷轟の如しと言われ、敵対者にはもちろん時には味方にすら容赦なく凶刃を振るうと言われる荒くれ者と聞いている。

 本人を前にすると、正にその通りと言えた。

「うん、侮られるわね。張飛は却下かな。お肉屋さんだし」

「それは関係無いのでは?」

 少女は大きく頷いているのだが、張世平が言う通り、確かにそこは関係ない。

 肉屋と言うのであれば、黄巾討伐の命を受けた漢の大将軍何進も元を正せば肉屋である。

「でも、侮られると言うのであれば、おそらく関羽殿であったとしても便利に使われて終わりと言う扱いを受けるでしょう。正規軍と義勇軍では、それだけの差がありますから」

「となると、やはり適任は劉備殿くらいしか」

 蘇双と張世平が結論を出そうとするのを、関羽が遮る。

「それは分かっている。だが、それは『劉備』とて同じではないか? この場にすら顔を出していないではないか」

 関羽はそう主張したが、周りはそれに対してきょとんとして言葉を失っている。

 何かよほど見当違いな事を言ったのだろうか。

「……おい、小娘。てめえ、自己紹介もしてなかったのか?」

「あ、あれ? 私、名乗ってなかったっけ?」

 少女が慌てて首を傾げている。

「……まさか」

 関羽は驚いて少女の方を見る。

「劉備とは、この娘の事か? 男ではなかったのか?」

「言ってなかったっけ? 私が劉備玄徳よ」

 少女、劉備がそう名乗ると関羽は卓を殴って立ち上がる。

「ふざけるな! この関羽が女の風下になど立てるか!」

「奇遇だな。お前の事は気に入らんが、この張飛もそれには賛成だ」

「えー、何でよ。一番適任者は私じゃない」

 丸く収める気が無いのか、劉備は気楽に言う。

「どこがだ、小娘! お前が一番無いわ!」

「あ? 肉屋、どういう事だ?」

「待て待て、身内で争ってどうするよ」

 劉備と張飛が睨み合っている所を、簡雍が割って入る。

 おお、さすが簡雍。評判通りだ。

「私もなんの根拠も無しに劉備殿を押した訳ではなく、理由があります」

 張世平が言う。

「まず、劉備殿はあの中山靖王、劉勝りゅうしょうの子、劉貞りゅうていの末裔である事。これは劉備殿が皇族の系譜に連なる者である証明であり、担ぐ神輿みこしとしては申し分無い資質であり、この一点をおいても関羽、張飛両名より優位と言えるでしょう」

 張世平の説明に、関羽は眉を寄せる。

 それが本当であれば確かに神輿としては申し分ないのだが、中山靖王劉勝と言えば子や孫が百名を優に超える人物であり、その子劉貞は確かに涿郡涿県の列侯となっている。

 が、それは大昔の事であり、また劉氏が皇族の末裔を名乗る場合、まず中山靖王劉勝の名を出す事も多い。

 この劉備が本当に皇族であるかは、はなはだ疑わしい。

「そんなモノ、こいつが自称しているだけだろ?」

 関羽の考えた事を、張飛も言う。

「そうじゃない事を否定出来ない以上、私は皇族の一員かも知れないでしょ?」

 劉備は悪びれた様子もなく言うが、強引ではあっても一理あると言えなくもない。

「また、高札を出していたのは太守劉焉殿であり、同性の劉備殿であれば他の義勇軍より優遇される事でしょう。他にも無い訳ではありませんが、この二点においてお二方より劉備殿を代表に押す理由としては十分でしょう」

 さすがは大商人張世平、と関羽は心の中で唸っていた。

 商人は利益を得る為に商品を高く売る必要があるのだが、その商才は良い物も見抜く目と、それを売る話術に優れていなくてはならない。

 張世平は少なくとも商品の説明においては非常に優れた能力を持っている、と言わざるを得ない。

「だが、女の下風に立つなど……」

「じゃ、主従じゃなく兄弟ってのはどうで? そうすりゃ同等でしょうに」

 妥協案としては上々な提案と言える事を、簡雍が示す。

「……兄弟、か」

 軍として動く以上、指揮系統の一本化が絶対である事は関羽も理解出来る。

 頭では理解しているのだが、納得する事は出来ずにいた。

 が、兄弟として同列であれば、関羽も妥協出来る。

「では、兄者と呼ばせてもらう。この関羽、女の下風に立つつもりは無い」

「こだわるわねー」

「悪いか」

 関羽は劉備の頭をガシッと掴んで言う。

「滅相もない」

「では、次兄はこの関羽と言う事になろう」

「あぁ?」

 張飛は噛み付こうとしたが、ここでも簡雍が間に入る。

 長兄は劉備と決まったのであれば、次兄末弟は歳の順で良いのではないかと言う事であり、そこはすんなりと関羽、張飛も納得した。

「そんじゃ劉備の旦那、宣言して結成式を済ませましょうや」

 ギスギスした空気に嫌気が差したのか、簡雍がせっつく。


「我ら三人、生まれし日、時は違えどもここに兄弟の契りを結ぶ。我ら同年、同月、同日に生まれることを得ずとも、願わくば同年、同月、同日に死せん事を」


 こうして劉備、関羽、張飛の三人は、それぞれに思惑はあったにせよ義兄弟の契りを結ぶ。

 それは同じ侠客仲間である簡雍、田豫、大商人張世平と蘇双くらいしか立会人のいない契りであったが、それは後に全土へ知れ渡るほど大きなものとなるのであった。

今回の話


登場人物は多くなりましたが、重要なのは劉備、関羽、張飛の三人です。

劉備……UMA

関羽……意識高い系フェミニスト

張飛……わがまま小僧

と考えてもらえば、この物語の中の三兄弟は間違いないと思います。

で、この三人、私の物語の中では一般的な三国志演義で知られているほど、気持ち悪いくらいの仲良しではありません。

割と利害関係の一致で行動を共にしている、と言う所が強いです。

ちなみにこの後、関羽と張飛は腕比べをして、お互いの実力を認め合っているので仲が悪い訳ではありません。


でも、ぶっちゃけこの三兄弟のくだりは本編ではそこまで重要ではありません。

三国志なのに。


良いんですよ、呂布伝なんだから。

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