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新説 呂布奉先伝 異伝  作者: 元精肉鮮魚店
第五章 その大地、徐州

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第二話

 魏続は不満だった。

 全てが順当に行っていれば、魏続は既に将軍位を得ていたはずだった。

 魏続の母が荊州で丁原に見初められてから、魏続は大切に育てられてきたと言う自覚はあった。

 それこそ丁原からは、呂布より目をかけられていたと思う。

 母からよくそう言われていたし、実際に丁原からも将来を渇望されていた。

 それは魏続の思い込みなどではなく、丁原から直接声を掛けられ、時々ではあったが丁原から直接手ほどきも受けた事もある。

 その時の呂布は既に丁原から疎まれ、また身分に似合わず馬飼いの様に馬の世話ばかりする上に高順の様な素性の知れない粗暴者との付き合いも、丁原は気に入らなかったらしい。

 もっとも、武勇と言う一点においては呂布は当時から飛び抜けた実力を持ち、また張遼なども武将として丁原から一目置かれていたが、それでも魏続は丁原の後継者として最有力であったと自負していた。

 が、呂布が丁原を討った事により、その目論見は見事に崩壊してしまった。

 とはいえ、その時の魏続は呂布に対して恨みは抱いていなかった。

 丁原の呂布への態度はあまりにも悪く、呂布への同情の方が強かったと言う事もある。

 荊州が劉表の手に移り、元丁原軍の者達はそれぞれに散っていく事になった。

 ある者は荊州に残り、ある者は呂布を頼りに董卓軍に身を寄せ、ある者は他の諸侯の元へ行く。

 魏続達は当時もっとも力を持っている諸侯であった、袁術を頼る事にした。

 これまで荊州ではそれなりの立場であった魏続達だったが、四代に渡って三公を排出した漢の中でも名門の中の名門である袁家から見ると、有象無象でしかなかった。

 そして、その時から袁家の片隅での生活が始まったのだが、魏続の目に映る名門の者達と言うのは鼻持ちならない者が多く、その鼻持ちならない連中は魏続の事を見下していた。

 そう言う扱いを受けてきたせいか、まったく無自覚の内に魏続にも同じような特徴が身に付いてしまった事を、本人は知らないでいた。

 袁術軍で呂布を慕う少年、侯成に出会い、魏続が呂布の身内である事を知ってからは侯成は魏続と行動を共にするようになった。

 それでも侯成も特に名門の生まれと言う訳ではないので魏続の立場が変わった訳ではないのだが、魏続としては大きな顔が出来る者が一人出来ただけで大きな違いでもあった。

 そんな時、魏続にとって大きな転機がやってくる。

 都を追われた呂布が袁術を頼ってきたのである。

 都から落ちたとはいえ、呂布の武名は天下に轟き古今無双の猛将であるとの評判は袁術の元にも届いていた。

 皆が恐る呂布奉先の身内である魏続としては、この時こそ雄飛の時とばかりに袁術の元を離れて流浪の呂布へ身を寄せる事にした。

 この時代、実能力の高さより血縁の方が優先される時代である。

 張遼、高順と言った呂布と共に長く行動した者達より、丁原のところでは身内だった魏続の方が圧倒的に優遇されるはずだと言う目論見があった。

 だが、流浪の身で転戦に次ぐ転戦を繰り返す呂布軍にあっては血縁より実戦経験がモノを言う事を、魏続は失念していた。

 こうして魏続は、呂布軍でも隅に追いやられる事になった。

 武将の格として袁術軍の武将であった郝萌や、袁紹軍で武将だった宋憲などはまだ良い。

 百歩譲って張遼も知らぬ仲ではない上に、呂布の副将として長く戦場を駆けた事は魏続も知っているし、そこを否定するつもりもない。

 だが、素性も知れない高順や賊将であった成廉など、本来であれば魏続と肩を並べる事など有り得ないのである。

 それにもまして気に食わないのが、軍師である陳宮の存在だった。

 切れ者である事は認めてやっても良い。

 軍略といい、戦術といい、そこに関しては天下一品の軍師である事は実際に見せられた以上、否定は出来ない。

 それでも気に入らないのは、やはり陳宮が女だと言う事である。

 女の身でありながら、自ら軍師として男の上に立って物言いするのが魏続は気に入らないかった。

 呂布軍では魏続だけでなく成廉も、高順も同じ様に思っている事は陳宮を含む全員が知っている事だった。

 その陳宮が魏続を軽く見ている事も、気に入らなかった。

 戦において重要な役割は張遼や成廉、曹性辺りばかりに任され、魏続は後衛にばかり回されている。

 先の袁術との戦いでも魏続の出番は無く、呂布はもちろん『陥陣営』と言う異名と共に高順の名が上がるだけの戦だった。

 そして今、魏続は袁術との戦で消耗した馬の補充と言う、しょうもない役割を任せられている。

 武将のやる事かと反対もしたのだが、戦場での馬の役割は優れた武具にも勝る。それを揃えられる事こそ、武勲の土台となると呂布からも言われて渋々引き受ける事にした。

 とはいえ、しょせん商人から引き渡されるのを受け取るだけの仕事であり、なんら身の入らない仕事であり、魏続は馬を引いて徐州城へ戻るところだった。

 が、まったく予想していない事が起きた。

「その馬、呂布のモノらしいなぁ」

 山賊の群れに挑まれたと思い、魏続はすぐに戦う準備をしたのだが、その人物は山賊では無かった。

 見た目には山賊にしか見えない粗野粗暴な風貌ではあったが、大柄な体格と大きな眼と虎を思わせる髭面、さらにその手には巨大な大蛇の様な恐ろしさを見せる蛇矛。

 どう見ても山賊などではなく、小沛にいるはずの劉備の義弟である張飛以外の何者にも見えない。

「呂布如きに、馬なんざ必要ねぇだろう? この俺様がもらってやろうではないか。野郎ども、奪い取れ!」

「張飛! なんのつもりだ!」

「あぁん? 盗人呂布の手下の分際で、この俺様を呼び捨てるとは良い度胸だな」

 張飛は獰猛な笑みを浮かべ、魏続に蛇矛を向ける。

 それだけで魏続は腰が抜けそうになる。

 戦えば呂布の方が強いと言う事は知っているが、普段の呂布は物腰も柔らかく威圧感の欠片もない柔和な人物である。

 一方の張飛は露骨に野獣の如き男で、良く言っても暴漢、見たまま言えば獣だ。

 とても会話が出来る様な男ではない。

「盗人呂布は親を殺し、この徐州を盗み取ったではないか! そんな野郎のモノなど、この張飛が奪い取ってくれるわ!」

「どんな理屈だ! 言っている事がめちゃくちゃではないか!」

「うるせぇ! 死にたくなければ、さっさと尻尾を巻いて逃げ出せ! ぶっ殺されたいのか!」

 張飛の怒号に恐れをなしたのは、何も魏続だけではない。

 魏続の騎乗している馬も恐れて暴れだし、魏続を振り落とした。

 さらに魏続が引き取った馬までも暴れ始め、魏続の率いてきた兵達はその馬を御す事に手一杯になり、とても張飛の兵達と戦う事など出来そうにない。

「うわっはっはっは! 呂布の手下は馬もロクに御せぬか! 所詮は狗よ!」

「黙れ、下郎! どれほどでかい口を叩いても、お前は呂布様を相手に手も足も出なかったではないか!」

 魏続としては売り言葉に買い言葉であったのだが、その事は張飛にとってもっとも触れられたくないところでもあった。

「何ぃ? 死にてえらしいなぁ」

「お前こそ、呂布軍を相手にして生き残れると思うか! お前だけではない! お前の罪は劉備にも及ぶのだぞ!」

「よし、殺す!」

 張飛はそう言うと蛇矛を振り上げる。

「待たれよ、張飛殿!」

 張飛が蛇矛を魏続に向かって振り下ろす直前、張飛を止める声があった。

「誰じゃぁ」

 張飛と魏続は声の方を見る。

「ほう、陥陣営か」

 張飛はそう言うと落馬して腰を抜かす魏続に興味を失ったのか、近づいて来る高順の方に向き直る。

 魏続には背中を向けている張飛だが、魏続にはその背後から斬りかかる事は出来なかった。

 手を出そうとすると、すぐさま振り返り蛇矛で一閃されるとしか思えなかったのである。

「矛を収められよ、張飛殿。このままでは我らだけではなく劉備殿と呂布将軍との争いになりますぞ」

「良いじゃねぇか」

 高順は説得するつもりだったのだが、張飛はそれこそ望むところと言わんばかりに笑う。

「そうすりゃ、真正面から呂布の野郎をぶった切れるってもんだ」

「それであれば、劉備殿にそう進言されるが良い。何故この様な馬泥棒の様な真似をなさるか」

「気に入らねぇからだよ!」

 張飛が無造作に蛇矛を振るのを、高順はかろうじて避ける。

「ほう、やるじゃねぇか」

「張飛殿、それが目的と言うのであれば、俺の方から呂布将軍に進言します。小沛にて万全の準備を整えてお待ち下さい。近日中に呂布将軍自ら小沛に攻め込みましょう」

「面白い事を言うじゃねぇか、気に入ったぜ」

 張飛はそう言うと蛇矛を下ろす。

「だが、口約束だけじゃ信用ならんからな。馬はもらっていくぞ。悔しければ、取り返しに来いや」

「その旨、伝えておきましょう」

 高順がそう言うと、張飛は鼻で笑って兵に向かって馬を奪う様に指示する。

「待て、張飛!」

「よせ、魏続。ここは向こうの良い様にさせておけ」

 高順は食らいつこうとする魏続と止めて、張飛が馬を強奪していくのを黙認する。

「高順、どう言うつもりだ!」

 張飛の一味が見えなくなってから、魏続は高順に向かって怒鳴りつける。

「どう言うつもりだってのは、こっちの台詞だろ? 張飛に喧嘩売るってお前、死にたいのかよ」

 高順は呆れて答える。

「黙れ、高順! あの様な賊、切り捨てていた!」

「はいはい、そうですね」

 魏続は怒鳴るが、高順はまったく相手にしない。

「それより、馬を奪われた事を奉先に報告しないとな」

「お前が奪わせたのではないか!」

「あー、そうそう。その通り。俺が張飛に奪わせた事を報告に行くぞ」

 高順はそう言うと、まだ腰が抜けて立ち上がれない魏続を置いて行こうとする。

「待て、高順! このままおめおめと戻れるか! 今から張飛を討つ!」

「無理だから、余計な事するなよ」

 いきり立つ魏続に対し、高順は哀れみさえ見せる。

「いいか? あの張飛は正真正銘の化物だ。あんな化物を討ち取れる様なヤツは、おそらく漢全土を見ても奉先以外いないだろう。アレに負けたところで恥に思う必要は無いぞ? どうしてもと言うのなら、寝込みを襲うんだな」

 馬鹿にすると言うより、聞き分けのない子供をあやす様な口調で高順は言う。

 その後も魏続は高順に対して抗議していたが、高順はまったく相手にせず徐州城へ戻る。

 魏続もその場でごねても仕方がないので、高順と共に徐州城へ戻る事にした。

「高順、お前は何故こんなところにいる」

「今更かよ」

 魏続の質問に、高順は苦笑いしていう。

「臧覇を口説いていたところだ」

「臧覇? ああ、あの賊か。これ以上、賊はいらん。討ち取れば良かっただろう」

 魏続は高順に食ってかかるが、高順はため息をついて首を振る。

「お前と話していると疲れるな。詳しい事はおやっさんにでも聞いてみろ」

 高順はそう言うが、魏続はとにかく気に入らなかった。

 まず高順の訳知り顔や素性も知れない侠客上がりの分際で、れっきとした将軍家の魏続に対して上からの態度に腹が立つ。

 また、徐州の文官である陳珪を呂布軍の武将達が『おやっさん』と慕う事も納得がいかない。

 さらに言えば、呂布軍に人材が増える事はともかく、それがまた賊将上がりと言う事も魏続は認められなかった。

 高順や成廉の様に、得体の知れない侠客や賊将は実戦経験豊富と言ってもその実戦自体が胡散臭いモノである。

 臧覇と言う賊にどれほどの実戦経験があるかは知らないが、将軍家生まれの魏続とでは持って生まれた将器が違う。

 魏続は本気でそう思っていた為、高順の言う事の何もかもが気に入らなかった。

要注意事項


今回魏続の事を色々と説明していますが、ここだけの勝手な設定です。

演義でも正史でもこんな事はありません。

前にチラッと書いたと思いますが、魏続は丁原の親族ではなく本当に呂布の親族です。

どんな繋がりなのかは分からないのですが、そこは正史の中にも書かれているみたいです。

なので、魏続が袁術軍の隅っこで冷や飯食わされていたと言う事実はありません。

また、ここでは侯成とは上下関係みたいに書いていますが、実際には同僚で上下関係は無さそうです。


度々書いてきましたが、魏続に限らず呂布の配下の武将達のほとんどがココでの独自設定で、正史や演義とは違う立場になっている武将が多いのであまり信じないで下さい。

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