臧覇と言う男 第一話(途中まで)
第三話 臧覇と言う男
袁術の脅威は去り、徐州に新たな武力集団として楊奉と韓暹も加わった。
この二人にはさっそく土地を与えられ、袁術軍から降る時に率いてきた二万の兵力もそのままに、袁術の備えとして置かれた。
表向きにはそうなのだが、陳宮は袁術と言うよりむしろ劉備に備えている様にも思える。
兵力二万と言うのは徐州軍の正規軍に次ぐ兵力であり、それが反乱を起こしたら危険ではないかと陳珪は警戒する様に言って来たが、陳宮は一蹴した。
「楊奉と韓暹に信が置けるかはともかく、二人共計算の出来る男である事は分かっている。自らの武才が呂布将軍より優っていると自惚れているのであれば反乱の危険性もあるだろうが、僅か二万で呂布将軍の率いる徐州軍三万に勝てるなどとは思わない。他にも理由が無い訳ではないが、楊奉と韓暹から兵権を剥奪するなど考えてもいない。その方が危険だ」
そう言うやり取りもあって着々と力をつけていく呂布軍の元へ、思いもよらぬ来客が現れた。
「たしか、楊弘殿だったか?」
「覚えていただいていたとは、有難い限りです」
そう言って楊弘は呂布に頭を下げる。
以前劉備と袁術の諍いの時に兵を出さない様にと懇願に来た楊弘が、呂布の元を訪れて来たのである。
しかし先の袁術討伐の際には、呂布も討伐軍に参加していて目下敵対していると言える間柄でもあった。
その突然の訪問に呂布はもちろん、陳宮も眉を寄せて真意を測りかねている。
「この度は将軍に良縁の勧めに参りました」
「……はぁ」
としか言い様が無い。
「……え? 良縁? 俺は別に側室とか持つつもりは無いが……」
楊弘の申し出があまりに予想外だったので、呂布は言葉に詰まる。
「いやいや、将軍ではなく。将軍には年頃になるご息女がおられるでしょう。陛下の特別の配慮により、呂布将軍であれば皇族の一員として迎えるに値すると言う事で、将軍のご息女を皇太子妃に迎えても良いと言う事になりまして」
楊弘は笑顔で言う。
「ほう、つまり我々と同盟を結びたいと言う事か」
「いえ、同盟ではございません」
陳宮の言葉を楊弘は否定する。
「家族となるのです。これにより、呂布将軍も皇族として我ら仲王朝建国の始祖の一員として歴史に名を刻む事が出来るのです」
「片腹痛いとはこの事よ」
そう言ったのは陳珪だった。
「偽帝が何を言うか。滅ぶのを待つだけの輩が呂布将軍の武勇にすがろうとしているのが見え透いている!」
「はっはっは、新しいものを受け入れられない、いかにも年寄りの言いそうな事ですな」
憤る陳珪に対し、楊弘は余裕を見せる。
が、よく見ると表情が強張っているのが見て取れるので割と頭に血が昇っているようだ。
「時流を読む事も出来ぬ者と話す事など無い。天下の名将である呂布将軍や、名参謀であり大軍師である陳宮殿であれば、事の重大さがお分かりでしょう」
「皇族の一員、か。面白い事を考えたものだ」
陳宮は薄く笑いながら言う。
この表情は、どこか呆れている様にも見える。
「さすがは軍師陳宮殿。事の重大さが分かっておられる」
楊弘の目にはそうは映らなかったらしく、嬉しそうに何度も頷いている。
「ではさっそく陛下のご報告を……」
「ちょっと待ってくれ」
呂布が口を挟む。
「当事者抜きで決める様な事ではないだろう。娘の意見も聞いてみない事には決められない」
呂布はそう言うが、その言葉に楊弘はきょとんとする。
「ご息女に何を聞く事が? 将軍が決めた事であれば、子が、まして娘が何を申せましょうか。まして皇太子妃になられるのですぞ? この様な幸運を掴める者など、この漢では考えられない事でしょう?」
「いや、それはあくまでもこちら側の勝手な言い分だ。娘の幸せを願う親としては、やはりそう言う政略のコマとしてではなく、家庭人としての幸福を掴んでもらいたいものだ」
「呂布将軍、そう言うのは治世の世で望む事です。今の様な乱世で女が望める事ではありません」
呂布の言葉にそう言ったのは楊弘ではなく、陳宮だった。
自身も女性なのでその言葉には重みはあったが、だからといって呂布には容認出来る事ではなかった。
「とにかく、この件は当事者に聞いてみようではないか」
「当事者、と言うと姫様にですか?」
「それはそうだろう。結婚するのは俺達ではなく娘なのだから」
陳宮の質問に、呂布は当然とばかりに答える。
「なるほど、それはその通り」
陳珪は賛成しているが、それは呂布の意見に賛成と言うより袁術との縁談に反対と言った方が正しいかもしれない。
「親が決めた縁談に娘が反対する事など有り得ません。呂布将軍、子を甘やかすにもほどがありますぞ」
楊弘が意外なくらい強い口調で言う。
「そう言うのが嫌なんだよ。とにかく、娘が良いと言うのであれば俺もこれ以上何も言うつもりはない。陳珪殿、蓉を呼んできてもらえるか?」
「わかりました」
陳珪はすぐに行動に移る。
呂布の娘である蓉の独特なワガママさは、徐州城内で知らない者はいない。
徐州の有力者達のところの令嬢達と違って、蓉に高飛車なところはあまりないのだが、他の誰よりも高貴な立場と言えるにも関わらず市井の民、それも腕白少年の様なところが目立つ美少女である。
陳珪が意気揚々と行動したのも、蓉であれば簡単に首を縦に振る事はないと見越してのことだろう。
呂布と袁術の同盟とか
今回のサブタイにも名前が出ている臧覇の加入とか、作品によって順番が前後していたりします。
と言うより、演義では臧覇がいつ呂布軍に加わっていたのか分からないくらいサラッと入ってます。
が、本作ではまだ呂布軍にはいません。
相変わらず山に篭ったままです。
袁術の息子と呂布の娘の縁談も、袁術皇帝宣言直後で曹操がシメる前だったりもするのですが、ここではシメた後になってます。
色々前後している作品も多いので、あまり気にしないで下さい。




