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新説 呂布奉先伝 異伝  作者: 元精肉鮮魚店
第五章 その大地、徐州

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第八話

 弱った袁術軍に追撃の指示は、同じ様に袁術軍を撃退した曹操からの使者が伝えてきた。

 どうやら曹操軍の方でも袁術軍の撃退には成功したものの、余力を残されたらしいと陳宮は呂布に伝えてきた。

「で、軍師殿はどう見ているんだ?」

「もちろん、追撃します。曹操の指示に従うと言うのは気に入りませんが、ここで袁術を叩いておく事は必要な事です」

 陳宮は追撃の為の準備をしながら、呂布に説明する。

 今回の事で新帝国を築こうとしていた袁術はその出足を大きくくじかれた事になり、おそらくこのまま弱体化していくだろうと言うのが陳宮の予想であり、おそらくそうなるだろうと呂布も思う。

 が、それでも袁家の名の大きさは大きく、ここから再起する事も有り得ない話ではない事を陳宮は警戒していた。

 もし再起しようものなら、その時は今回の様な油断は無くより多くの軍勢で、しかも曹操と呂布といった多面侵攻ではなく一方に兵力を集中させて各個撃破に来る事が予想され、その時にはこちらにも多大な被害を受けると言う事まで陳宮は予測していた。

 しかし、散り散りに逃げた袁術軍を追うと言ってもその兵達を追っても仕方がなく、当然呂布軍は袁術の支配地の拠点攻略となるかと思われた。

 が、特に目立った武勲や武名を持っている訳ではないものの新生予定だった袁術帝国において大将軍の座を約束されていた張勲は、その地位に相応しい人物だったのかもしれないと呂布に思わせる出来事があった。

 張勲は下手に各所の拠点を防衛する事はせず、各地の拠点の守備兵や逃げ散った兵士達をかき集めて本拠地である寿春の前の防衛拠点である陳国に留まり、そこを最終防衛拠点として追撃軍の足を止めようとしたのである。

 必然的に追撃してきた呂布と劉備、曹操の軍勢はそこで顔を合わせる事になった。

「呂布将軍! 貴方の劉備ですよぉー!」

「うわっ」

 突然の劉備の来訪に、呂布は意図せずに声を上げてしまう。

「うわって。今、呂布将軍、うわって言った?」

「あ、いや、その、まったく予想していなかったもので」

 しどろもどもになりながら、呂布は言い訳がましく劉備に言う。

 劉備がやって来たと言う事は、当然といえば当然の様に関羽と張飛もついてきた。

 関羽はまだしも、こちらから呼んだ訳でもないのに張飛が睨みつけてくるのはさすがに辟易する。

「劉備殿、率いてきた軍は良いのですか?」

「んー? それなら大丈夫じゃない? 向こうさんの戦術は立て篭り戦術なわけだし、こっちに何か奇策を用いる余裕は無いでしょう?」

 劉備は首を傾げながら陳宮に尋ねる。

 それはそうかもしれないが、総大将と主だった武将が特に理由も無く本隊から離れるのは大胆と言うより無謀、あるいは単なる暴挙でしかないのだがその辺りはどう思っているのだろうか。

 と、呂布は思うのだが、一般兵が劉備はともかく関羽や張飛に意見する事はまず不可能と思われる。

 関羽や張飛に意見すると言うのは、呂布でもはばかられるほどの度胸が必要なのだ。

「それに、曹操も来てるから大丈夫」

 それはそれで大丈夫では無い気もするが、心強い事に変わりはない。

「曹操軍はもうここへ到着しているのですか。さすがに早い」

 陳宮が驚いている。

 率いている兵数を考えると曹操がもっとも多く兵を率いているはずで、しかも袁術本隊と戦ったはずなのだが、それでも呂布や劉備と同じ速さで来たと言う事はよほど袁術との戦いに時間がかからなかった事を意味している。

 元々速度に定評のある曹操軍ではあるのだが、曹操は呂布や劉備が追撃するより先に単独で兵を進めていたのだろう。

 もし呂布と劉備が追撃していなかったら、張勲の残党達に背後から攻められているところだ。

 そう言う大胆な戦術も、ある意味では曹操らしいと言えなくもない。

「おそらく、私達が言われるまでもなく追撃してくる事を予測していたのでしょう。そうでなければ、いかに曹操とはいえそこまで無謀な事はやらなかったはずです」

 と、陳宮は言う。

 陳宮が言うには、呂布や劉備が袁術を追撃する理由があり、曹操はそれがわかっていたらしい。

 呂布からすると袁術は元々徐州を狙っていたと言う情報がある以上、袁術対策は必ず必要になってくる。

 つまり、叩ける時に叩けと言うのは誰でも考える対策であった。

 一方の劉備は漢王朝の末裔を自称しているのだから、新帝国の樹立など絶対に認める訳にはいかない。

 逆賊に対する徹底した鉄槌を下すと言うのは、劉備軍にとって存在意義を問われる事にもなるくらい必要な事だった。

 曹操はそれらの事を考慮して、呂布と劉備に使者を送ると同時に返事を待たずに兵を進めたのである。

 その曹操の英断と神速をもってしても、張勲が立て篭る方が早かった為にここで足を止められる事になった。

 今は曹操軍の主力を担う精鋭達が陳国攻略を行っているようだが、それでも力押しでは被害が大きくなる。

 呂布と劉備は、そのまま曹操軍と合流する事にした。

「これは、呂布将軍と劉備殿。お迎えも出さず、申し訳ございません」

 曹操は呂布と劉備を気軽に迎え入れる。

 曹操から見ると呂布は敵対勢力に当たるはずなのだが、曹操にはまったくそう言うところは見られない。

 それどころかまるで旧知の仲の友を迎えるかの様だった。

 曹操の幕舎は袁紹軍が建てた様な幕舎と比べると実に質素なものだったが、その反面内部は広くとってあり、武将や幕僚を呼ぶ事の多い曹操なのでその為のものだと言う事も一目でわかる。

 名より実を取る曹操を表していると言えた。

 そこには数名の人物がいたが、呂布が見て分かるのは一度見ると中々忘れられない特徴的な人物が一人だった。

 許褚である。

 他には文官風の男達なので、おそらく曹操の軍師なのだろう。

「陳宮のアネさん、久しぶりッスねー。元気してましたぁ?」

 その軍師の中でも最も若い男が、陳宮に親しげに声をかけて来る。

 それに対して陳宮は応える事は無く、チラリと視線を向けただけだった。

「わーお、相変わらず冷たいねぇ。ま、いいや。思った以上に砦が硬くて、進めないんスよねぇ。アネさん、何か良い案ありませんか?」

「荀彧先生は?」

「先生は留守番ッスよ。で、俺と程昱のおっさんが……」

「誰がおっさんじゃい! 儂の事も先生と呼ばんか!」

「城攻めに困っているのであれば、力を貸してやらないでも無いのだが、いかがか?」

 関羽が曹操に尋ねるが、曹操は首を振ってその申し出を断る。

「かの劉備三兄弟の力を借りれば心強いが、それではそちらにも被害が大きくなり迷惑がかかる。何か策を持って当たった方が良いでしょう」

「はっ、お前らのところの腰抜けと俺達を一緒にするな! あの程度の砦、半日で落としてみせるわ!」

「やめなさい」

 豪語する張飛を、劉備は苦笑いしながら止める。

「向こうの砦を守っているのは張勲と橋蕤の自称二大将軍の他、李豊、梁綱りょうこう楽就がくしゅうとかいう、どこの馬の骨とも分からない輩の割に骨のある手応えで困っているんスよねぇ」

「郭嘉、お前なら何か一つくらい良い手があるだろう」

 陳宮は親しげに話しかけてくる若い男に、面倒そうに応える。

「それが、さーっぱりで。なーんにも思いつかないんで、困ってるんスよ。どうにかして下さいよ」

 郭嘉と呼ばれた若い軍師はそう言うが、その表情はまったく困っている様には見えずどこか楽しんでいる様にも見えた。

「郭嘉、程昱の両名がいれば、私などの浅知恵必要ありますまい」

「あれぇ、アネさん、拗ねてるんスか? 可愛いトコありますねぇ」

 郭嘉はニヤニヤしながら言う。

 これは挑発しているのか?

 奇妙なやり取りを続ける郭嘉と陳宮を見ながら、呂布は首を傾げる。

「まあ、奉孝の口と礼儀と態度が悪いのは今に始まった事では無いとはいえ、何か妙案はありませんか?」

 曹操も困り果てて陳宮に尋ねる。

「手立てが無いなら、私も兵を出しましょうか? たっぷり利子付けて」

 劉備が曹操に提案する。

「それは最後の手段と言う事で。連携の問題もあるので、今すぐにと言う訳にもいかないのですよ」

「それであれば、我々も兵を集めておきましょう。袁術から寝返った楊奉と韓暹にそれぞれ一万をここへ出させるよう、手配しておきます」

 陳宮は淡々と言う。

「先程も言った通り、それは最後の手段と言う事で。その前に、何か策を練っておく事にしておきたいのですが、何かありませんか?」

「俺は無いッスねぇ。爺さんは?」

「誰が爺さんじゃい! 無礼も大概にせい!」

「じゃ、何かあるッスか?」

「今考えておるわい!」

「もう間もなく向こうは崩れる。その時を見逃さぬよう、今のうちに兵を整えるべきだ」

 陳宮が呆れた様に言ったので、全員が注目する。

「アネさん、どう言う事ッスか?」

「説明するまでもなく、後数日の内に分かる。その好機を逃しては、下手をすると袁術軍に息を吹き返させるきっかけを与える事になりかねない。曹操、呂布、劉備連合で一気に踏み潰す。すぐに動ける様にしておくのだ」

 相変わらず秘密主義で高圧的な物言いの陳宮なので、郭嘉は興味深そうな表情だったが、程昱や関羽、張飛などは露骨に嫌悪を浮かべている。

「面白そうね。すぐ出れる様に、私達も準備しておきましょう」

 郭嘉と同じく乗り気な表情の劉備は、曹操に言う。

「……天下の名軍師、陳宮公台の言葉。信じてみましょう」

 曹操も半信半疑であった様子だが、それでも最後の手段と言って譲らなかった曹操、呂布、劉備連合の提案を受け入れて兵力を合流させる。

 曹操は三万、呂布は二万、劉備が一万の兵を集結させて六万の大軍が袁術軍の立て篭る砦の前に集結した。

 それでも張勲はよく戦った。

 全軍を合わせれば守備兵の総数を超える大軍を相手に、張勲と橋蕤は的確に兵を配置して応戦する。

 もし野戦であったなら、おそらくまったく勝負にならなかったはずなのだが、それでも曹操連合軍は苦戦の中にあった。

 が、その一糸乱れぬ指揮系統が陳宮が予言した通り五日後に突如崩れ、袁術軍最後の砦は一気に瓦解する事になった。

 隙そのものはさほど大きなものでは無かったのだが、そこを攻めるのが曹操軍からは夏侯惇と夏侯淵、于禁や楽進、劉備軍からは関羽と張飛、呂布軍からは張遼や高順と言ったいずれ劣らぬ猛将達だった為、袁術軍には押し返すだけの剛勇の武将はいなかった。

 特に高順の動きは軽妙で、他の名だたる武将達の影に隠れて砦の中に侵入を果たし、内側から門を開けると言う大手柄を上げた。

 今でも将軍位としては低位である高順だが、この戦で彼が黄巾の乱において知る人ぞ知る『陥陣営』である事を知らしめるほどの武功である。

 これには陳宮の発言に対する信頼の差にもよるところが大きかった。

 高順自体が陳宮の言葉を信じたと言う訳ではなく、陳宮を信じている呂布を信じた為に、曹操軍や劉備軍より呂布軍の方が、動きが早かったのだ。

 この戦によって張勲は逃走して袁術の本拠地である寿春に入る事が出来たが、橋蕤を始めこの砦に立て篭って最後まで袁術の為に戦った武将達は、ことごとく討ち取られる事となった。

 大殊勲を挙げた高順だったが、それでも自身の功を第一功であると主張する様な真似はしない。

 それは高順も、突然の袁術軍の瓦解に心当たりがあったからでもある。

「突然こっちに来いだなんて、人使いが荒すぎますよ。陳宮殿」

 砦を陥落させた後、裏手から合流してきたのは孫策と周瑜だった。

 孫策達の軍も今回の袁術軍討伐の為に兵を上げる事は呂布軍だけではなく曹操軍も知っていたのだが、それはあくまでも袁術軍の本拠地寿春攻めの際に間に合うかどうかと言う読みだった。

 しかし、孫策の水軍の速度は曹操軍の予想を上回る速さであったが、それだけに孫策軍のみが寿春に到着する恐れもあった。

 そこで陳宮が急遽孫策軍に陳国攻略の為に進路を変える様に指示した結果、孫策軍は無防備となった陳国の砦の裏を取る事が出来たのである。

 圧倒的大軍を見せられて、それでも頑健に抵抗して来た張勲達からすれば突然何も無いところから孫策軍が湧いて出た様にしか思えなかっただろう。

 その結果がこの瓦解である。

 この一戦によって、袁術軍は再起が困難なほど致命的な打撃を受けたのであった。

世にも恐ろしい戦場


今回の戦場となった陳国ですが、実際に曹操、劉備、呂布、孫策が合流したところではありません。

実際にこの四軍で戦ったのは、袁術の本拠地である寿春です。

ただ、今回の展開でも分かると思いますが、この戦場には歴史シュミレーションゲームで再現すると、とてつもなく絶望的な戦力が敵として集まっている事になっています。

本編の中で名前を出したところだけでも、曹操軍からは夏侯淵と夏侯惇、許褚、于禁、楽進。

呂布軍からは呂布の他には張遼と高順。一応楊奉と韓暹も。

劉備軍からは義兄弟の関羽と張飛。


もう、どうしようもない戦力です。

某カード大戦とかだったら、総コスト何ポイント使ってんのよと言う状況です。

カードを前に出して並べるだけで勝てます。


その上援軍で孫策と周瑜もやって来ます。

むしろ張勲はよくやったと褒めてあげて下さい。


この時の袁術軍は、これくらいの連合と戦えるくらい強かったんですよ。

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