歓迎会
パンッ!パァン!パン!
「ぅわたっ!?」
扉をくぐった途端に鳴り響いた炸裂音に驚き、体勢を崩して尻餅をついてしまった。
「ようこそ!特務部隊フェンリルへ…って、だいじょぶ?」
眼鏡をかけたおっとりした感じの女がクラッカー片手に、こちらに手を差し伸べてきた。
一体、何なのだ、これは。
「く…クラッカー…?」
漂う火薬の臭いに刺激され、我を取り戻し落ち着いて辺りを見回すと、部屋の内部は先程までの景色とうって変わって明るく、手作りと思われる紙製の装飾が至るところにかけられていた。
「あちゃー、だから言ったじゃん?俺たちはみ出し者にはこういう空気は向かないんだって」
頭にオレンジ色のバンダナを巻いた活発そうなこの男がアレムの腕を引き上げ立ち上がらせた。
前に立つのは三人。左にバンダナの男、右には眼鏡の女、真ん中には左目に眼帯を着けた強面な壮年の男。やはり真ん中に立つ男が本部長だろうか。
「あの、これは…」
「ん?歓迎会だよ新入り君!」
「ごめんね、うちの本部長がどうしてもって言うからさぁ」
「え!?この、こわ…厳格そうな方が…?」
眼帯の男を見ながらそう言うと、二人は一瞬きょとんとして、それからどっと笑った。
「いやー、やっぱそう見えちゃうよね」
「本部長、実は私なの」
にゃはは、と笑いながら自分を指す女、いや本部長。
アレムが状況に追い付けず混乱していると、眼帯の男が一歩前に出てきて、綺麗な動作でお辞儀をした。
「申し遅れました。私はバロンと申します。フェンリルの皆様のサポートをさせていただいています。以後お見知りおきを」
「おっと、うっかりしてたぜ。俺はクレス。フェンリル本部の料理長をやらせてもらってるんだ。今日からよろしくな」
「もー、二人ともなんで本部長を差し置いて自己紹介始めちゃってるの?っと、ごほん。私はユーティア。何度も言ってるけど本部長ですよー」
「ああ、えっと、よろしく」
バロンの自己紹介を皮切りに、怒涛の勢いで自己紹介連鎖が来るとは。
「ほら、新入り君も自己紹介」
「あ、そうだった。俺はアレムです。その、これからよろしく…おねがいします」
「ん?アレムって言ったよね?もしかして君、アレム・アルガードかな?」
「はい、そうですが?」
アルガードの姓が出たということは、やはりここ、フェンリルに両親は勤めていたのか。
「えとえと、ご両親についてはパパから聞いたよ。良い活躍されてたみたいだけど、その、お気の毒でした…」
本部長はアレムの両親がどうなってしまったのか知っているようで、勢いは尻すぼみになってしまった。
「…悪いが、両親の話はやめてくれ」
両親の話を聞くと、もう届かぬ奴らへの怒りがこみ上げてきて止まらなくなる。やはり駄目だ。諦めなければいけないのに、この怒りが、諦めることを許してくれない。
「はわっ、ごめんね…」
「あ!いや!ついかっとなっちゃって、こっちがごめんなさい!」
「まぁまぁ、今日はここらへんでお開きにしようよ。アレムもいきなりのことで頭がついていかないもんな?はい、解散かいさーん」
クレスはパンパンと手を叩き、重くなった空気を払拭しようと歓迎会のお開きをしてくれた。おちゃらけているようで、案外状況判断が素早いようだ。
「うん、そうだね。詳しい話はまた明日ね」
「んじゃ、明日の八時頃にまたここでな」
「なんか色々と、すみません…」
歓迎会を催してもらったのに楽しめず、挙げ句の果てには理不尽な理由で怒ってしまった。反省しなければなるまい。
「あぁ、あと言葉、無理しなくていいよ。うちはこんな感じでラフだから。…一名を除いて」
「えっと、善処する」
「ん、よろしい!」
本部長はグッとサムズアップをすると、あっという間に部屋を出て行ってしまった。
そういえばこの部屋は本部長室ではなかったのか。
「俺はこれから食堂で準備しようと思うけど、アレムは何か食う?」
「いや、今日は何も食べる気起きないから遠慮しておくよ」
「そうか、無理はしないでくれよ?じゃな」
次いでクレスも部屋から出て行ってしまう。
「ではまず、これが部屋の鍵です。紛失してしまった際は、私に言ってくだされば鍵を取り替えますので」
バロンは律儀にアレムのことを待っていてくれたらしい。しかしこんな強面に丁寧な言葉遣いで接されると、なんだかむず痒い。
「随分厳重なんだな。分かったよ」
「アレムさんの部屋は地下二十階の2005号室です。ご案内致しますのでついて来てください」
「にじゅっ!?ここ何階!?」
「ここは地下十五階です」
「深っ!」
驚愕の事実が発覚したところで、ひとまず自室へと案内してもらった。
昇降機に乗り、十秒ほどで五階分を下り終える。ここの昇降機はやたら早いな。
昇降機から降りて殺風景な鉄製の通路を進むと、目的の2005号室の表札が見えた。
「念のために、フェンリル内部の地図を渡しておきますね」
「助かるよ」
地図て。どれだけ広いのだフェンリル本部は。
「まだ荷物が届いていないので、ベッドと机だけで殺風景だとは思いますが、明日までお待ちください」
「大丈夫、今日は疲れたからもう寝るだけだ。わざわざ案内ありがとう」
「いえ、好きでやらせていたただいていることなので。今日はお疲れ様でした」
バロンはまたお辞儀をしてから、昇降機の方向へと去っていった。
部屋の扉を開けて明かりを点けてみると、予想以上にかなり広い。四人部屋でも充分使えるだろう。そのため、ベッドと机しかない空間がとても寂しく見える。
(眠い…)
退学させられてそのまま、着の身着のままで来たため、制服の上着だけ脱ぎ捨てベッドに倒れこんだ。
(結局ここは何をする所なんだ?ま、明日になれば分かるか)
考えることを放棄し、夢の世界へと落ちていく。
(新しい目的、探さ、なきゃ、な…)
長くてすみませんでした。
どうも、肉付き骨です。
フェンリルがどんな施設か説明する説明回だと思いましたか?
現実は想像を凌駕する(鉄のラインバレル参照)
早く巨鎧同士の戦いとか書きたいんですがね、そこは我慢の子。焦ってはいけませんね。
今回は自己紹介回でしたが、次回はフェンリル説明回になりそうです。
もしかしたらちっちゃい話を挟むかも、です。