静寂の空間
光の扉を抜けると、逆に光の量が少なく、広い場所に転位した。十メートルほどある高い天井まで一定区間でいくつもの円筒の柱が伸び、辺りは暗く静かで、点々と青白い光が浮かんでいるのが見える。
「歩けるかい?」
「はい、なんとか」
地面は金属製のようで、歩くとカツンカツンと、静かな空間に音が反響する。ここは本部だと言っていたが、あまりにも静かすぎる。聞こえてくるのは、虫の羽音のような何かの駆動音と、自分と校長の足音だけ。
「人、いるんですか?」
「静かだろう?施設は広いけど、フェンリルは少数精鋭部隊なんだ。さらにこの時期、ほとんどの人員が支部の方に駆り出されるものだから、今の本部には三人くらいしかいないんじゃないかな?」
「少な!…いですね」
一体何をする部隊なのか知らないが、いくらなんでも少なすぎではないだろうか。それに、精鋭とは何の精鋭なのだろう。
だんだん目が暗闇に慣れてきたが、見えるのは円筒、円筒、円筒。しばらく歩いても全然景色が変わらない。
退屈しのぎに両隣の柱を百二十四本数えたところで、ようやく突き当たりに扉があるのが見えた。
「あの、もうちょっと近くに転位しても良かったんじゃ…」
「ふむ、少し頭の中を整理する時間をと思ったのだが、そんな余裕は無かったようだね」
「あ…えっと、すみません…」
「謝ることは無いよ。むしろ、君の夢を壊してしまった私が謝らなければいけない。我々、勝手な大人達の計画に巻き込んでしまって、本当にすまない」
「計画…?」
計画とは何だろうか。両親も、研究員としてその計画に携わっていたのだろうか。
「詳しい話はこの奥にいる本部長から聞いた方がいいだろう。君の物は全て後からここに送るよ。ここから先は一人で行けるね?」
「……はい。ブライト校長、今までお世話になりました」
それなりに楽しかった学校生活の日々が思い出されるが、今から喚いたってどうにもならない。それならしっかりと義は通さねばと思い、感謝の気持ちを込めて深々と礼をした。
「こんな私にそんなことを言ってくれてありがたいよ…健闘を祈る」
最後にもう一度振り返ってから、鉄製の重厚な扉を開いて中へと入った。