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戦いの後には

ソビエト側からロシア側への侵攻があった翌日、アレクセイは他の内閣閣僚と同じく報告を聞く為、

ハバロフスクの議事堂に足を運んでいた。


「出席者は全員揃ったようですので、これより赤軍の侵攻について会議を行います。

 まず、被害報告をグチコフ国防大臣からお願いします」


「わかりました。

 まず、アムール州防衛の第2軍ですが敵戦車との戦闘で撃退には成功したものの、奇襲に遭い指揮系統が破壊され

 第2師団が機能停止しました。

 それと、敵航空機との戦闘で我が方の航空隊2個連隊分が喪失しております。

 結果、戦車21両、歩兵戦車15両、制空戦闘機20機、攻撃機34機が主な損失となります。

 続きまして、第3軍ですが歩兵戦力に犠牲が大きかったものの大きな被害は出ておりません。

 戦車4両、歩兵戦車10両が主な被害です。

 ただそれ以外に、歩兵が2個連隊相当失われ同じく砲兵科でも1個連隊分の損失がでています」


「予想はいていましたが、やはり損害は大きいですな……」


そう呟いたのは、首相のミリュコーフだった。


この頃のロシアでは、このような状態に無ければ選挙を行うはずだったが、

ソビエトとの戦闘状態となったので、議会にて1年間延期されていた。


「已む終えません。

 敵軍のチタ方面で見せた、敵軍の歩兵と戦車での突撃は、こちらの想定外でした。

 また、オクレマ基地周辺での戦闘では、敵の大規模な航空隊との戦闘、

 及び新型戦車との戦闘が行われましたから」

そう言ったのは、陸軍の実質的な最高指揮官であるデニーキンである。


「しかし、その新型戦車が優秀であったとして、

 こちらはその上をゆく物であったはずではないのですか?」

そう尋ねてきたのは、経済産業省のペリューコフだった。


「その事についてですが、技術部からの報告で敵戦車に搭載されていたのは、

 こちらが想定していた口径を上回る37mmを積んでいました。

 当然ながら、100mの距離でこちらの戦車の正面からでも、

 スペックでは貫通されないはずなのですが、量産の際に品質の悪い装甲が

 出荷されていたようです。

 また、ほとんどの車体は履帯を敵戦車により切断され、動けなくなった所で

 側面から砲撃を浴びていました。

 それでもこちらが敵戦車群を撃退したのですから、問題はないと考えます」

デニーキンは報告書を見ながら堂々とそういった。


「問題が無いとはどういうことか!

 財政を考えてみて欲しい、これだけの損害を補填しろと言われれば、

 国債発行しかもう手は無いのですぞ!」

ペリューコフは、デニーキンの「問題ははない」という言葉が癪に障ったのか、

感情的に発言した。


「まあ、落ち着いてくれ。ペリューコフ。

 ……だが、議会……いや、国家としてもここまで大きな侵略行為があった以上、

 今までのように、国境をめぐる紛争とはしておけないのも事実。

 ならば、宣戦を布告し、かの国に攻め込むのはいかがかと思うが?」

ミリュコーフの言葉は、高まる国民の声を無視できない事を存外に濁していた。


「私は賛成ですな。

 今ならばまだ、敵の戦闘力はこちらが削いだ状態です。

 攻めるには良い機会だと考えます」

グチコフが賛成に投じると、陸海の最高指揮官であるデニーキン、

コルチャークもそれに同意した。


「では、決を採りたいと思います。

 賛成の方、挙手を」


結果、円卓を囲う閣僚は、経済産業大臣と内務大臣のワシレンスキー以外は、

全てが賛成に投じた。


「では、内閣の方針としてソビエトに宣戦を布告いたします。

 それと、戦時国債の発行については、軍からの追加予算請求をまって

 議会に掛けますが、みなさんよろしいですかな?」

ミリュコーフがそう閣僚に問うと、全員が頷いた。


「では、陛下。

 今回の内閣決定について、承認をお願いします」

「わかりました。

 承認します」

(民主主義だから、仕方が無い……)

アレクセイはそう思いながら、血みどろの戦いに進むことになった事を

考えすこし暗くなっていた。


「時に、陛下」

「なんですか?」

内閣会議終了後はいつも座談会となっていたのだが、

今日は珍しくグチコフから話しかけられた。


「敵が戦車の履帯を切断する戦術を防ぐことは出来ないでしょうか?」

「ああ……。

 それなら、試作が完了しているRMT-2の付属パーツでもあるのですが、

 シュルツンと呼ばれる追加装甲をつければ何とかなるでしょう」

「新型戦車が完成しているのですか?」

グチコフは、アレクセイから聞かされた話に驚きを隠せなかった。

雑談のつもりで話しかけたら、新型戦車と対応策となる装甲があるというのだから

無理は無いだろう。


「ええ。

 既存のRMT-2の改造発展型でしかありませんが、

 最大装甲を55mmにしたうえに、追加装甲をつけていますので、

 防御力の面でRMT-1に勝っていると思います。

 ただ、速度が若干落ちていますので、どちらが良いとは言い切れませんが……。

 RMT-2の実用試験は、親衛軍で行っていますので、

 追加装甲を既存戦車につける方向で考えてみますか?」

「はぁ」

グチコフはもはや言葉も無いようで、呆れた様な表情で返事をしていた。

周囲の閣僚も似たような表情だったのだが、アレクセイが気がつく事はなかった。


彼はこのとき、もうすぐ来る自分の妻のことを考えていたのだから・・・。



3週間後、アレクセイの身は親衛軍と共にチタ方面基地にあった。

デニーキンからの要請で、前線視察が行われたのだった。


チタが最初に選ばれたのは、先の戦闘で恐怖症に陥った将兵が多かったため、

士気が落ち込んでおり、何とかそれを打破したい参謀本部の思惑があった。


アレクセイはこの件を聞いたときに迷ったが、恐怖症の件を聞くと了承したのだった。


以下、親衛軍を見た歩兵達の反応をここに抜粋する。


「おい、見ろよあの戦車。

 俺達の戦車と同じだけど、黒塗りで最新の装甲板をつけているな」

彼が言うとおり、目の前を黒塗りの戦車が3両停車していた。

最初に発言した男の隣にはもう1人男がいた。

その男も戦車を見ながら呟く。


「ああ、あれが親衛軍の戦車か……。

 噂じゃ、見た目は同じでも性能は全然違うらしいぞ」

「ほんとかよ……」

戦車から目を離さず、2人はタバコを吸いながら見入っていた。

すると、奥のテントから黒い制服に身を包む親衛軍の歩兵が出てきた。


「あ、歩兵が!

 女だ!それも上等な!」

「ああ……、でも気を付けろよ。

 うかつに手を出すと、大事なところをかみ殺されるって話だ」

「そうなのか?」

思わず男は隣の男の顔を見る。


「兵学校で聞いた話じゃ、何処の部隊も扱いきれない

 じゃじゃ馬を集めたって聞いたぜ。

 実際に潰された男がいるって話しだしな……」

「おっかね~。

 陛下も大変だな、そんなのが警護じゃ」

「まったくだ……。

 それにしても、ありがたいよな。

 陛下は俺達のために最新の戦車と、装備をもってきて下さったんだ。

 それに負けないと言ってくれたしな」

「ああ。

 戦死したときも、妻子は必ず国が養うと明言してくださったし。

 誓約書も俺達の前で記入してくださった、ありがたいことだ」


彼らの手には、最新の自動小銃が握られていた。

その銃の名は「AK-47」というのだが、男達がそれを知ることは無かった。



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