戦乱の始まりは
1934年既にロシアと日本との間では諸問題の解決が話し合われ同盟間近になりはしたものの、欧米では、大戦の役者たちがついにその顔を表していた。
主役たるドイツでは戦後賠償であるヴェルサイユ条約の元、史実通りにドイツに労働者党が結成され、アドルフヒトラーがその天才ともいえるカリスマ性を生かし政権を握っていた。
また、アメリカ合衆国ではフーバー大統領の元に世界恐慌への対応が行われていたが史実同様、実際に政策化されたような民間に深くかかわる対策は行われず。
ルーズベルトが大統領となり、成長を続けるロシア帝国の自由経済を歓迎しつつ自国の利益を侵しかねない日本との関係強化に懸念を示して、徐々に圧力をかけ始めていた。
そしてイギリスは、大戦の傷痕がようやく癒えたが大恐慌の前に大幅な軍備増強は見送られ、インドなどの植民地を活用したブロック経済で乗り切る為に必死となっていた。
そのような世界情勢の中、1934年初夏のロシア帝国では新艦艇の公試が行われていた。
その完成は予定より早められていたが、今までにない手法ですべて建造されていた。
その手法とは、船体、建造物は可能な限り地上で建造され最後に接合されるというだけでなく電気溶接を多用することで工期の大幅な短縮がなされていた。
そういった新技術で建造されたのは、重巡洋艦、駆逐艦、軽空母の3種にわたっているが重巡、軽空母についてはそれぞれ年1隻の建造とされ駆逐艦の建造が急がれていた。
まず巡洋艦は、2隻ありうち1隻は親衛軍向けとされている日本帝国海軍 青葉級 重巡洋艦を模してやや大型化、浮沈構造を取り入れ、船首をバルバス・バウとして
33ノットを実現した高速重巡洋艦である。
武装は、50口径20cm連装砲3基、45口径12cm連想高角砲6基 、25mm機銃2連装8基
53cm魚雷連装発射管2基4門、水偵1機搭載 爆雷50 機雷100という内容であった。
もう1隻は、その船体を流用しこの時期の艦隊戦闘を意識した海軍向けとされている艦である。
武装は、50口径20cm 3連装砲3基、45口径8cm連装高角砲4基、25mm機銃単装4基
53cm魚雷3連装発射管2基6門、水偵1機搭載、爆雷50、機雷100という
ぎりぎりまで重武装化した内容であった。
次いで、軽空母であるが同時開発された2番艦はすでに海軍に納入されているので公試をうけているのは親衛軍向けの同型艦ということになる。
カタログスペックは、飛行甲板 全長205m、全幅30mとやや幅広であるが甲板は表面を装甲で覆われており、バルジも大きく取り艦橋はアイランド形式をとっている。
格納庫は1段式で搭載基数も最大36機となっていたが、その分速力が落ちて
最大26ノットとなってしまっていた。
軽空母であるにもかかわらずこのように重防御なのは、現在建造が計画されている
正規空母装備の試験艦としての意味合いが強い艦艇であるからだ。
そのため4番艦からは、装甲甲板はなくなりバルジは小さくなる予定とされている。
尚、搭載機は先に公試を終えているRF-1を艦載機とし攻撃機にも同様にRS-1が選ばれていた。
最後に駆逐艦であるが、全長131m 全幅11m 排水量2550tと大型の駆逐艦で
13cm単装砲1門、45口径12cm連装高角砲6基、53cm3連装魚雷発射管4基12門、
25mm単装機銃8基、機雷20発、爆雷投射基1、爆雷50を搭載していた。
これは次の大戦が航空戦を主としている事からの武装だった。
また、国内で研究された最新の対潜装備を装備し大戦で脅威となっていたUボートに対抗できる手段としての期待もうけている。
そして公試試験をしている親衛軍重巡洋艦「ウスリー」ではアレクセイを含め
親衛軍幹部、海軍幹部が乗り込んでいた。
「ようやく我が国の海軍も世界の国々と渡り合えるだけの戦力を得られました」
公試が半ばをすぎ全体に感嘆と安堵が広がるとコルチャークが呟いた。
双眼鏡を覗き込みながら艦船の動きをみていたアレクセイが振り向くと
通常の艦艇より大きく作られている艦橋にいたすべての海軍関係者が
頬を紅潮させ感動の中にいることがわかった。
そしてアレクセイは何も言わずに頷くと再び双眼鏡をとり公試中の艦船をみつめる。
しばらくの沈黙がその場を支配したがそれは不快なものではなく、
それぞれが胸に熱い思いを抱いていたために起こったものだった。
そうこの時アレクセイはどうしようもない思いに包まれていた。
(確かにこれらの艦艇はよくできたと思う、でもあと数年もすれば装備を更新しなければいけない
そしてアメリカと事を構えれば1年単位で更新が必要になる。
できるだけ強い兵器を作れるようにしなければ勝てない、だが核は……)
アレクセイがそう考えを巡らせている中、軽空母「アムール」から艦載機として改修が加えられた
RF-1の発艦がはじまった。
「あれは、親衛軍海上護衛艦隊の制空隊です。
彼女達は今まで陸上基地で十分に訓練をしてきました。
きっと閣下のお役に立つと思います」
隣にいた親衛軍海上護衛参謀ミラがそう話しかけてきた。
「そうですね。
海軍での運用はどうなるのですか?」
話の矛先を向けられたコルチャークは、双眼鏡をはずしてアレクセイに向き直ると
熱くそれに答え始めた。
「すでに受領しています空母にて、1個航空隊を3個制空戦隊+1個攻撃戦隊とした編成で
2個航空隊の訓練は開始しています。
陸上で訓練中の隊もあわせますと2個艦隊分の航空隊は即時戦闘運用可能です。
……ですが正直に申し上げますと航空兵器の生産数や損耗した兵員補充を考慮して、
あと2年は開戦が伸びると助かります。
それ以前に開戦した場合、あの言葉をそのままお伝えしなければなりません。
『1年やそこらは大いに暴れてみせますが、それ以上はお約束できません』と」
「そうですね。
実際、開戦すればあのRs-1でも1年で旧式となるでしょう。
そして各国々で兵器開発競争となり、それに遅れれば即敗北となる……」
「そうですな」
アレクセイの言葉に、コルチャークをはじめとした海軍の参謀も一様に頷く。
「しかし、我国には神の祝福を受けた陛下という存在がいます。
決して負けるはずがございません!」
そう勢い言葉を挙げたのは、艦長のリプリーだった。
(ああ……日本から帰ってこっち妙な噂が広まっているというのは本当だったのか……)
「申し訳ありません、陛下。
リプリー艦長、常日頃から言っているように神の加護があっても
常に最悪を想定して、それに備えるのが国に立つ者、守る者の務めなのです。
それに、常に勝てる、船は沈まないというのは幻想だと何度も言っているでしょう!!」
めずらしくミラが激高しているので、逆にアレクセイなど他の面々は頭が覚めてしまい、
ミラに対しての信頼こそ上がりこそすれ、この事を問題視しようとは思わなかった。
「まあ、お説教は港に帰ってからにして下さい。
でもリプリー艦長、私もミラ参謀と同じ考えです。
貴方は艦長としての役目もあります、兵士を鼓舞するため時にその言葉を
口に出すこともあるでしょうが、あなたは常に最悪を考えつつ
祖国の為に闘ってください」
そして公試が終わったとき船の会議室では、公試結果を踏まえた問題や今後の配置について
話し合われていた。
コンコン……
不意に会議の席上に扉を叩く音がすると、連絡兵が入ってきた。
「会議中失礼します。
本国防衛軍司令部より緊急電が届きました」
室内はそれだけで静寂に包まれ、皆がアレクセイを見つめていた。
「読んでください」
「はっ!」
連絡兵は敬礼をすると通信内容が書かれた紙をひろげ読み上げた。
「本日12:00、ヤクツーク、イルクーツクより革命軍が侵攻を開始。
至急対策を協議したく戻られたし、以上です」
「わかりました。
すみませんが、艦長に水上機の使用許可と港へ向かうようにと伝えてください」
「はっ!」
そういうが早く連絡兵は来た道をもどっていった。
「遂に始まりましたか……。
コルチャーク、あなたは国防軍の指揮官として私よりも先に行く必要があります。
水上機で一足早く国防本部に向かってください、私はあとからむかいます」
そうアレクセイがコルチャークに言うと彼は敬礼しアレクセイに敬礼した。
「了解であります。
お前たち閣下の事頼んだぞ」
最後の言葉はその場にいたすべての者に対してだが、返事を聞くこともなくコルチャークは部屋を後にした。
そしてこの時この場にいただれもが知らなかったが、歴史より時期がずれドイツはソビエト連邦との
不可侵条約締結を世界に向けて発信していた。