「6畳間32型テレビ」
一人暮らしの僕の家の居間は6畳間とかなり狭い。
5歩も歩けば部屋の端から端まで移動できるし、少しでも大きい家具を置いてしまうと圧迫感が半端じゃない。
だから、僕は部屋にはなるべく大きな家具は置かないようにしているのだけれど…そんな部屋で、ひと際異彩を放っている家具がある。
それは、32型のテレビだ。32型テレビを見た事はあるだろうか? 電化製品に詳しくない人などは、ぱっとイメージできないだろうが、これは結構でかい。
超は付かないが一応薄型に分類されるそのテレビだが、何分サイズがサイズなので僕の部屋では結構な場所を取っている。しかもテレビだけでも大きいので、見た目は悪いが、そのテレビは畳に直置きにしてしまっている。
何故、この狭い部屋にこのテレビが置かれているか。その話を始めると少しだけ長くなってしまうけれど、暇つぶしに昔話をしようかと思う。
僕は昔、学校に行っていなかった時期があった。
高校生くらいの頃だろうか。学校も友人も先生も、何もかもが嫌になり家で何もせずにゴロゴロとしているだけの日々を過ごしていた。
その頃僕の家には僕と両親とじいちゃんとが住んでいた。
僕が家に行っていない事を心配したじいちゃんがある日、僕を自室に呼んでこう話した。
「人生にはな、休まなきゃいけない時がある。お前はきっと今その時期なんだろう。だけど、何もせずにただ無意味に毎日を過ごしていたらもったいないとは思わんか? 家に居る時に、1時間だけで良いからわしの所へ来なさい。せっかくの休みじゃ、たまにはじじ孝行にでも付き合ってくれんか」
そう、ゆっくりだが力強くじいちゃんは話し、ニカっと笑った。
それから僕はじいちゃんの部屋にたまに行き、一緒にテレビを見たりしながらのんびりとした時間を過ごした。
昼間のバラエティ番組を見て「この娘可愛いのう」と言うじいちゃんに僕は「じいちゃん趣味悪い」と返したり、時々ニュースを見てじいちゃんの歳を重ねた人独特の辛口な発言に耳を傾けたりした。
そして、1ヶ月もすると僕は自然と再び学校へ通うようになっていた。
大学に進学し、一人暮らしを始めるとき。じいちゃんが僕に譲ってくれたのがこのテレビだ。
「テレビはあったら便利だからのう、持っていけ」
そう言ったじいちゃんは、少し涙目だったけどどこか嬉しそうだったのを覚えている。
6畳間には少し不釣り合いなこのテレビ。
このテレビとそれに込められたじいちゃんの愛情に、僕が応えられるのは多分ずっと先の事なんだろうけど。
その時がきたら、今度は僕がじいちゃんに何かを返せるといいなって思うんだ。
‐END‐