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EVERY STEP  作者: awa
9/68

SCENE 08 * JENNIE * With Jack

 センター街──ムーン・コート・ヴィレッジの三階に並ぶ雑貨店を何軒かまわり、ジェニーはジャックと一緒に、レナに贈るプレゼントを探している。

 “こういうのがいい”という意見をいくつもレナ本人に挙げてもらったので、それを踏まえてマリーはギャヴィンと、ジェニーはジャックと一緒にプレゼントを選ぶことにした。そして誕生日当日にレナの家にプレゼントが届くよう、配達の手配をする。ジェニーたちにはあたりまえだったのだが、それはやはり、彼女とレナの地元であるハーバー・パディ周辺、そしてそこに住む人たちの周りにいる人たちによる習慣らしい。

 白を貴重とした落ち着いた雰囲気の雑貨店に入ると、彼女たちは右端から順に、そこに並べられた雑貨を見ていった。何種類もあるアクセサリースタンドやケースを眺めながら、以前にもこんなことがあったな、とジェニーは思い出していた。

 放課後レナとこのMCVに遊びに来て、ジャックとライアンに会った。レナはライアンと一緒に、ジェニーはジャックと一緒に、ライアンの妹に贈るプレゼントを一緒に選んだ。

 「そういえば」ふいにジャックが切りだした。「なんだかんだでクリスマスプレゼント、渡してない」

 彼の左手は、ジェニーの右手をつないでいる。

 「そうね。ふたりで買いに行こうかって言ってたけど、けっきょくみんなで遊ぶことになったし。そのまま」

 「買おうか、今。サンタのイベントの指輪をつけられない代わりに」

 去年のクリスマス、ジェニーは彼やレナたち、今日会ったメンバー六人で、センター街のクリスマスイベントに参加した。センター街を流れる川の数箇所から、サンタクロースがプレゼントを投げ配るというイベントだ。身長を理由に、競争率が激しいその群集の中にジェニーが直接突進するのを禁止する代わりに、ジャックはプレゼントをひとつ、もらってきてくれた。それが、ペアリングだった。

 彼女たちが通うミュニシパル・ハイスクールは、体育や部活に支障の出そうなアクセサリーは、その都度はずすならと禁止していないものの、指輪は普段から禁止している。もちろん、それでもつけている生徒はいるが。けっきょくジェニーとジャックは、プレゼントと一緒に入っていた券でサイズだけを調節してもらい、高校卒業の日につけようと約束し、指輪を箱にしまったままだ。

 答えはわかっているが、ジェニーはジャックに訊いた。「なにがいい?」

 彼が微笑む。「僕はいらない。あげたいだけ」

 彼女は笑った。「そう言うと思った」

 彼はいつも、彼女になにかを求めたりしない。

 ジェニーは握った彼の手を、ぎゅっとした。

 「お願いだから、いらないなんて言わないで」それでも、あげたい。「あなたが思ってくれるように、私だってあげたい」

 照れたように、ジャックがまた微笑む。「じゃあ、ピアスにしようか。おそろいの。小さいのならはずさなくてもいいし」

 考えもしなかった。「そうする。それなら一セット買って、それをふたりで分けられる」

 「君が左右ひとつずつだから、二セット買ってもいいよ。そしたらこっちはひとつ塞ぐ」

 ジャックの左耳には、ピアスがみっつある。

 「いいの? せっかくあけたのに」

 彼が視線をそらす。

 「──だってこれ、なにげに、ライアンとそろいだし──」

 彼女は笑った。そういえばそうだ。ライアンの耳にもピアスがみっつついている。

 「私があとふたつあけるって手もあるけど」

 「うん、とりあえずそれはやめておこうか」

 「だめなの?」

 「うん、だめ。だってライアンとも揃いになるじゃん」

 「レナもそうよ。彼女は左にみっつ、右にふたつ。私は少ないの」

 「ほんとに? どんだけピアスだらけなんだ。もういい。塞ぐ。絶対」

 「わかった。じゃあレナには、ピアスもつけましょうか。ライアンとおそろいで」

 「ああ、いいね。ライアンにはこれつけろって渡せばいいわけだ」

 「そういうこと」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ジェニーとジャックはレナへのプレゼントを選ぶと、メッセージを書き、配達の手配をした。そこには、一緒に買った揃いのピアスをつけた。その後一緒に夕食をとると、ふたりはハーバー・パディへと向かうバスに乗った。

 目的地はジェニーの家に近いバス停なのだが、最近はバス停をひとつ、余分に過ぎる。バスを降りると歩いて道を戻り、ジャックが家の傍まで送ってくれる。少しでも静かなほうがいいからと、通りから住宅街に入る。それでもやはり、時間が、距離が足りないと、彼女はそんなふうに感じていた。

 だが今日は、レナとマリーとの約束がある。バレンタインに向けて、ひとつ、勇気を出す。自分の場合は、来週の土曜に、家に行きたいと言うこと。

 ──そんなことを、どう切りだせばいいのか、さっぱりわからない。

 静かな住宅街を手をつないで歩く沈黙を、右隣にいるジャックが破いた。

 「──あのさ」

 「なに?」

 「──無理にとは、言わないんだけど」

 黒いマフラーをしている彼はずっと、前を見ている。

 「うん」

 「ほんとに、無理にとは言わないんだけど」

 強調されたので、彼女は少々身構えた。「はい」

 「──来週の、土曜」

 心臓が、揺れた。

 「うちに、遊びに、こないかな、と」

 ジェニーの心臓は、一気に高鳴った。ドキドキする。ありえないほど速く動いている。これは、みんなでという意味ではない。これは、ひとりでという意味だ。

 彼がつけたす。「いや、無理にとは言わないんだけど。ほんとに」

 真っ赤になってしまい、彼女はさすがに、彼の顔は見られなかった。だが、勇気を振り絞る。

 「──うん」

 しかしジャックはまだ続けた。「──いや、そうじゃなくて」

 なにが起きているのかよくわからず、彼女はなにも言えない。

 「問題が、あって」

 まさかの問題発生らしい。

 「土曜から月曜の夜まで、両親が旅行で、仕事で、いないわけで」

 視線は合わせられないものの、彼の顔も見られないものの、彼女ははっとした。両親が、いない。ということは──つまり。

 彼がもう一度言う。「だから、その──いや、変な意味じゃなくて。もちろん、無理にとは言わない。けど」

 ──けど。

 “約束しない?”

 「泊まれ、とか、そんな無茶を、言ってるわけでもなくて」

 “今までにないくらいの大きな勇気を出すの”

 「ただ、誰にも邪魔されず、いつもよりも長い時間、一緒にいられたらな、と」

 彼は、私を、すごくすごく、大切にしてくれている。

 うつむいたまま、彼女は足を止めた。当然、彼の足も止まる。

 「──ジェニー?」

 “今までにないくらい、大きな勇気を”

 顔を上げ、ジェニーはまっすぐに彼を見た。

 「──行きたい」

 私は、ジャックを、信じている。

 「あなたがいいなら、泊まりたい」

 なにもしないだろうと、信じているわけではなくて。

 彼の顔もやはり、真っ赤になった。「──いい、の?」

 ジェニーも真っ赤になっているが、それでも、彼女は笑顔を見せた。

 「行きたい」

 彼は私を、もっともっと幸せにしてくれると、そう信じている。

 「ジャック。すごく好き。大好き」

 溢れ出す。いくら言っても、足りないほどに。

 ジャックの右手が、ゆっくりと彼女の頬に触れる。彼女はそのまま、彼の胸に引き寄せられた。

 「僕も、すごく好き」

 ジェニーは彼の腕に包まれたものの、それでもやはり、手はつないだままだった。

 ドキドキが、止まらない。「だいすき」想いが溢れすぎていて、せつなくて、苦しい。

 「うん。大好き」

 顔を上げると、彼はいつも、嬉しそうに照れ微笑んで、私がしたいことを、してくれる。

 言葉で伝える以上の、抱きしめる以上の、キス以上の、想いがある。 

 ジャックに、もっと伝えたい。

 すごくすごく、すごくすごく好きだって、伝えたい。

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