SCENE 07 * MARY * With Gavin
マリーはまだセンター街にいた。ギャヴィンと手をつなぎ、グランド・フラックスのボードウォークを歩いている。
もうすっかり暗くなっているのだが、それでもあたりには中高生ほどだろうカップルやグループが数組、笑いながら歩いている。大学生か二十代前半くらいの人たちも、少ないものの何組かいた。
「センター街で一番好きな場所ってどこ?」マリーは右隣を歩くギャヴィンに訊いた。
「んー、どこだろ。とりあえず、ここはまだ大好きとは言えないかな」
ここの広場は去年末、カウントダウンイベントでアニタたちと一緒に来て、一緒に新年を迎えた場所だ。
「そんなに嫌な思い出、あるの?」
彼が苦笑う。「そう。史上最悪の思い出。カウントダウンじゃなくて」
ライアンが言っていた。ギャヴィンはモテる。彼が塗り替えようとしている記憶が、いつのことなのかはわからない。普通に考えればまえの彼女のことではあるものの、確かギャヴィンは一年くらい、誰ともつきあっていないという話だった。よくわからない。それでもこちらから、深く訊いたりはしない。訊かれたくないことのひとつやふたつ、誰にだってある。
「じゃあ史上最高の思い出にするのは、ちょっと難しそうね」マリーは言った。
「どうかな。史上最高の思い出ってよくわかんないけど。でも少なくとも今は、嫌な思い出がー、な程度だし。君のおかげ」
その言葉に、彼女の口元はゆるんだ。「ならいいけど」
抱きしめるというのは、簡単そうで難しい。ジェニーとジャックがどういう状況でしているのかが、さっぱりわからない。以前つきあっていたアホ男のことは考えない。
ギャヴィンが質問を返す。「君は? 好きな場所」
ここ、と言いたかったが、彼のことを考えると、そうは言えなかった。なので別の場所を答える。
「ヴィレのフードコートのバーガーショップ」
彼は笑った。「なにそれ」
もともと好きではあるが、それよりも大きな理由として、アホ男と行っていない場所というのがある。マリーは改めて彼のほうを見た。ギャヴィンは赤いマフラーをつけている。それが、とてもよく似合っている。
「今さらだけど、クリスマスプレゼントって、変?」
「うん。変」
即答だった。けれど彼の誕生日は、自分の三日あと、七月六日だという。それまではまだ五ヶ月もある。
「くれるとしたら、なに?」ギャヴィンが訊いた。
「赤いマフラー」
「今してるけど」
そのとおりなので、なんだか急に恥ずかしくなり、彼女は視線をそらした。
「いい、忘れて」
彼はまた笑う。「ごめん。なんでもいいって言いたかったんだ。って、ちょっと違うか」
彼はからかうのが好きらしい。「時々、いじわるよね」
「おもしろいから」
マリーは唖然とした。それは、どういう意味なのだろう。
だがすぐにギャヴィンが訂正する。「ああ、変な意味じゃないよ。赤くなったり慌てたりするのを見るのが楽しいってこと。楽しいってのも変だけど。嬉しいって言ったほうが正しいかな」
彼女と違い、彼はあまり動揺しない。
「ん」
ときどき、自分だけが空まわりしているような気になる。
ギャヴィンが提案する。「じゃ、レナの誕生日プレゼントのついでに、お互いにプレゼント買おうか。クリスマスのぶんと、一ヶ月記念を合わせて。それには一日早いけど」
覚えていてくれた。それだけで感動──感激だ。「うん。そのあとヴィレに戻って、バーガーショップでハンバーガー食べる。夕飯に」
彼が微笑む。「うん、そうしよ。なんならキライな場所で食べるのもいいけど。記憶の上書きに」
それもいい。「じゃあ、ムーン・ライズに行かない?」
「カフェショップ?」
「そう。大嫌いな場所。ちょっと高いけど」
ギャヴィンは笑った。「よし、決まり」