SCENE 62 * RENA * With Rian
センター街、ムーン・コート・ヴィレッジ前のバス・ステーションで、レナはライアンと一緒にバスを降りた。彼と手をつないだまま、大通り脇の歩道に出る。
突然、左隣でライアンが立ち止まった。
「あ」
「なに?」
「通りの向こう」
レナは彼の視線を追った。そして、自分の目を疑った。車が行き交う通りの向こう側、ベンチや花壇のある広場の前の歩道を、手をつないだマリーとギャヴィンが歩いている。
「あ」
「もしかしなくても、あいつらもホテルに向かってるとかじゃねえの?」と、ライアン。
「まさか。まだ五時にもなってないのよ?」
「いや、オレらだって行こうとしてるし」
「そうだけど──」
マリーの右側を歩いていたギャヴィンが一度レナたちのほうを見やり、また視線を彼女へと戻すと、やはり目を疑ったという様子で再びレナたちのほうを見て立ち止まった。
ライアンが笑う。「気づいたな」
さすがのレナも少々焦る。「どうするの? これ」
ギャヴィンがマリーになにかを言うと、彼女もレナたちに気づいた。驚いたような嬉しそうな複雑そうな、そんな感じの笑顔で、ひとまずといった様子で手を振った。
レナも複雑そうな作り笑いで手を振り返す。
「ねえ。どうしよう」
「気にせず行けばいいんじゃねえの? ホテルに行くってことはバレてもいいんだろ?」
「それはかまわないけど」今さらなので。「でも向こうも立ち止まって、こっちも立ち止まってるのよ。こっちが歩きだしたら向こうも歩きだすわよね。どっちも目的地が同じだったら?」
つないでいるレナの手を引き、ライアンが歩きだす。
「エイト・フラッグかもしれねえだろ。もしかしたらウェスト・アーケードかもしれないし」
「そうかもしれないけど──」
目的地が同じなのであれば、ホテル街なのだとすれば、さすがに気まずい。ホテル街でばったり会った、なんてことになれば、ものすごく気まずい。マリーはなんとかなるかもしれない。だがギャヴィンが気まずい。いや、逆なのか。レナにはもう、どうすればいいのかがさっぱりわからない。
ライアンは再び彼らのほうを見やる。
「お、向こうも歩きだした。やっぱ同じかも」
レナは泣きそうになっている。「ちょっと、ほんとに、それは、ちょっと──」どうすればいいのよ?
「同じホテル選んだりして」
「やめて。本気でやめて」
「じゃあどっかで適当に時間つぶすわけ? 我慢できるわけ?」
「さすがに萎えた。そんなこと言うから萎えた」
「オレは無理」
どうすればいいのだろう。「あんたが見つけたりするから──」というか、この状況はいったいなんなのだろう。目的地は関係なく、友達同士なのに、通りをはさんで、同じように、同じ方向に向かって、同じように歩いている。それそのものがおかしい気がする。
携帯電話が鳴ったので、ライアンは画面を確認した。「ギャヴィンだ」
このおかしな状況のうえに、さらに電話するというシチュエーションまで追加されるのか。
「お前が話す?」
そんなことは絶対にイヤだ。「遠慮する」
「あっそ」彼は電話に応じた。「よ。どこ行ってんの? ──こっち? ホテル」
レナはバカに呆れた。
「は? お前が時間潰せよ。三時間くらい。──は? ──ああ。ちょい待って」彼が彼女に訊く。「お前、腹減ってる?」
「ぜんぜん」
「だよな」再び電話でギャヴィンに言う。「ぜんぜん。だから無理。──いや、知らないし。もういいじゃん。とりあえずお前ら左に曲がれ。そんで手前のほうで見つけろ。オレら奥のほうに行くから」
なんの話をしているのだろう。
「──ん。じゃーな」通話を終えると、彼は携帯電話をファーつきの黒いミリタリーコートのポケットに戻した。「気にするな。あいつら適当なところで左に曲がるから」
ホテル街のほうは、というかナイトタウンの方向には行ったことがないので、レナにはいまいちよくわからない。「なんでお腹すいてるかなの?」
「ギャヴィンが飯代やるからどっかで時間潰せって」
笑える。「どっちもどっちで必死ね」食欲がなくなりそうだ。
ライアンはまたも通りの向こう側を確認した。
「お、曲がった」
だが彼女にはもうどうでもいい。「こういうの、覚悟しとかなきゃなのね。エリアが明確に分かれてるってわりと便利だと思ってたけど、やっぱり問題あるかも」いろいろな意味でせつない。
「気にしすぎだし。しょうがねえじゃん。心配しなくても、ホテル入ったらそんなこと忘れさせてやるって」
なにを言っているのだろう。「っていうか夕食は? 今はぜんぜんだけど、ホテルで食べるの?」
このふたり、何度も見知らぬ人間とすれ違っているのに、普通にホテルホテルと口にしている。
「どっちでも」とライアン。「とりあえずさっさとシャワー浴びたい。どうせ休憩と宿泊使い分けなきゃいけないから、外の飯がいいなら一回外出ればいいんじゃね? そしたらホテルも変えられる。ま、バレンタインだからホテルはいっぱいかもしんねえけど」
しかしやはり彼がなにを言っているのかよくわからない。「なんでもいいか。私もママにちょっとお金もらったし、昨日お金もおろしたし、半分は出す」
ライアンが笑う。「飯おごってもらうくらいはいいけど、ホテルのはいい。オレ親父にもらったし、ケイラからももらったし」
「まえもそうやって、そっちが出したじゃない。あんまり飛ばすとお金なくなるわよ」
「心配するな。来週の土曜はお前の家に忍び込むつもりだから」
「パパとママたちに見つからなくても、朝まで居たらレオには見つかる可能性は高いわよ?」
「お前がいいなら朝方帰るかもな。ま、見つかったら見つかった時だ。あいつはオレが口止めすれば親には言わないだろうし、ヤったのかどうかなんていう野暮な質問もしねえよ」
それもそうだ。むしろ一応の交際宣言から約一ヶ月が経っているが、今のこの段階で、これが大きく数えて二度目になるということすら、普通ならありえないかもしれないこと。つまり、普通に考えれば普段からそれなりにそういうことをしていると思われているのが普通。よって、いまさらな気がした。
「仲がよろしくてなにより」




