SCENE 59 * GAVIN * With Marrie
ギャヴィンとマリーとの待ち合わせは、朝の九時だった。
彼女の雰囲気は、いつもと少し違っていた。少し大人っぽくなったというか、“可愛い”から“綺麗”になったとでも言うのか。
ギャヴィンが思ったままを言うと、マリーはやはり真っ赤になって照れた。言い続けていると怒られた。
彼らは一緒に朝食を食べたあと、映画館でコメディ・アクションを一本観た。少し散歩したあとランチを食べ、ゲームセンターに行った。豪遊はしていない。大きなぬいぐるみも取っていない。何度か、キーホルダーやストラップ、小さめの雑貨を景品にしているUFOキャッチャーに挑戦しただけだ。
マリーもゲーセンには行かないと言っていたのだが、彼女は意外なところで器用だった。二、三回挑戦すれば景品を取れた。自分が取れなかった物も取っていたので、ギャヴィンは彼女を尊敬すると同時に少々へこんだ。
約二時間過ごしたグランド・フラックスのゲームセンターを出たあと、午後三時すぎ。
マリーは生クリームチョコクレープとホットココアを、ギャヴィンはカスタードクリームクレープ甘さ控えめとレモンティーを買って、ボードウォークのベンチに腰かけた。川の向こうにオフィスタウンが見える。
今日は、思い出の塗り替え作業はしない前提だ。というか、イヤな思い出の場所として意識しながらどこかに行くのではなく、単にふたりの思い出を作ろうという話になった。思い出を作るなどという言いかたをしてしまうと、なんだか微妙な感じになるが。
ギャヴィンの左隣、クレープを両手で持っているマリーが言う。
「それにしても、ゲームセンターがあんなに楽しいと思わなかった」
確かに楽しかった。朝から笑いっぱなしだ。「っていうかあれだよね。君がUFOキャッチャーがやたらと上手いってことが、いちばん意外だった」と、ギャヴィン。
彼女が笑う。「ほんと。ああいうの、絶対無理だと思ってた。友達と何度か行ったことはあるのよ。でも知らない人がやるのを見てて、絶対無理よねって」
「確かに他人がやるの見てたら、わりと無理っぽい気がするけど。ちなみにジャックはわりと得意。っていうかライアンが暇つぶしに行くかっつって、ジャックはやりたがらないんだけど、やったらなんでも取る」
「ホントに?」
「うん。あいつは趣味がないだけで器用なんだよ。輪投げとか、六回投げてぜんぶで景品取ったらしいし」
マリーが目を丸くする。「ぜんぶ!? すごい!」
「だろ」
「あなたは? 輪投げ」
「俺はどうだろ。去年あいつらと夏祭りに行ったけど、バタバタしててけっきょくゲームできなかったし」ジェニーが行方不明になったので、それどころではなかった。「五回投げれば一個か二個は取れるかもしれないけど、ジャックみたいに狙ってってのは無理かな。そもそも、輪投げなんて中高生の遊びじゃないし」
「確かに」彼女は笑い、クレープを口に運んだ。「今年は夏祭り、一緒に行けるかな」
半年も先の話だが。「うん。行く。UFOキャッチャーがうまいってことは、輪投げも得意かも」
「どうかな。サーブとか、あんまりコントロールはうまくならなかった」
「バレーボール?」
「言ってなかった? 中学一年の時だけだけど、バレーボールしてたの」
聞いたような聞いていないような。「なんだ、スポーツが苦手ってわけでもないじゃん」
彼女が苦笑う。「一年の時だけだし、よくてベンチか、試合に出してもらえたとしても練習試合か小さな大会のほんの少しだけとか、そんなのよ。得意ってほどじゃないの」
「そうなんだ」意外だ。わりと意外。また新事実発見。
半分以下まで減ったクレープを見つめ、マリーが静かに口を開いた。
「運命って、信じる?」
「運命?」唐突だったので、ギャヴィンは少々悩んだ。「運命の出会い、みたいなのなら信じないかな。カップルがそれ言ってても、イコール誰とでも出会いすべてが運命になるような」嫌いな人間との出会いですら、その枠に入ることになりそうだ。──とかいうのは、なんでもかんでも否定しすぎか。
視線を合わせる。いつになく真剣だ。「そうね。でも私が言ってるのは違う。運命で繋がってれば、どれだけ離れてても、たとえ連絡がとれなくて消息不明でも、いつか再会できるって話。それでまた、恋人だったり親友だったりに戻れるって話」
どうやら話の規模が大きい。「見つけ出せる、みたいなの? なんか歌詞っぽく言ってるけど。身近な話で言えば、人ごみで誰かが行方不明になっても、運命で繋がった相手は行方不明になったその相手を見つけ出せる、みたいな」ジャックとジェニー風に言ってみた。
彼女は笑った。「規模を小さくすればそういうことかも。っていうか、具体的には私もよくわかんないけど」
「そういう小規模ケースならひとつ知ってるから、それなら信じるかな」
友達だったはずが、ジャックがジェニーを見つけ出した二ヵ月後にはカップルになっていたというおまけつき。そのうえマリーの言う“戻れる”とは、少し違う。クソ女はマシューに預ける。いらないと言われるだろうが、あれは違う。絶対。信じたくないものは信じない。
「ほんと?」
ギャヴィンは身体を少し彼女のほうに傾け、脚を組んだ。ベンチの背に左肘をついてそこに頭を乗せる。
「まさか、それを立証するために消息不明になったりしないよな」
ぽかんとしたものの、彼女はまた笑った。「やだ、しないわよ」
「俺もしない」ペーパートレイとドリンクがものすごく邪魔だ。「でも君のことなら、見つけられそうな気がする。見つける。そういう運命なら信じたい」
マリーが微笑む。「私も。──クレープ、やっぱりひとつでよかった気がする」
「飽きた?」
「っていうか、食べるのに時間がかかる。なかなかキスできない」
やはり同じことを考えている。「それは言えてる」クレープを彼女に渡した。「持ってて」
「一口もらっていい?」
「うん」
ギャヴィンはドリンクをペーパートレイごと持ってマリーとの距離を詰め、ドリンクを右側に置いた。
「おいしい。カスタードなんて久しぶり」
彼女からクレープを受け取った。
「君はたいていチョコだよね」
「甘すぎるカスタードは苦手なの。チョコならいくら甘くても平気な気がするんだけど」
バレンタインなので、ギャヴィンはひとまずチョコレートを控えた。「キスしていい?」
「する」
そのフレンチキスは甘かった。ふたりしてクレープの残りをさっさと食べたあと、またキスをした。




