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EVERY STEP  作者: awa
55/68

SCENE 54 * RIAN * With Kayla

 二月十三日、土曜日。

 ライアンの部屋に、どうやら嵐が訪れたらしい。

 「ラーイー。お-きーろー」

 うるさいので彼は無視している。

 「ライアーン」“嵐”は彼の身体を強く揺すった。「起きてよー」

 黙れアホ女。と、彼は思った。

 「起きろこら。そろそろ上に乗っかるわよ」

 そろそろ犯すぞアホ女。と思いながらもやはり無視をし、彼はシーツの中で身体をまるめる。

 さすがにか、“嵐”の声が不機嫌になる。「ちょっと。いつまでねたフリかます気? 起きてんのバレバレなんだけど。しかもせっかくいいモノ持ってきたのに」

 なんでお前はいつもいつもうざい登場の仕方をするんだよ。というのがライアンの本音だ。

 「ヒトの睡眠時間奪っておいて偉そうなことぬかすなアホ女」

 「は? いや、ごめん。それはごめん。マジでごめん。でもほら、おまけもあるから。起きて顔見せてよ」

 彼は反応した。彼女にとっての“おまけ”は、自分にとって“本命”の可能性が高い。

 「ああもう!」

 一応苛立たしげに、ライアンは勢いよく身体を起こした。うなりながらも思いきり背伸びをする。ついでに、彼の隣でベッドの端に腰かけていた“嵐”ことアホの頭部に、腕を振り下ろしてさしあげた。

 頭を抑え、ケイラが彼を睨む。

 「痛いな!」

 “嵐”的アホ女ことケイラは、二十三歳のライアンのイトコで、高校時代にいじめを受け、自殺しようとして死にかけたという過去がある。当時小学生だったライアンに、もちろん意識してではないが、残酷すぎる光景を見せた、彼の数少ないトラウマのひとつだ。

 だがそんな彼の心配をよそに、彼女はなぜか今、やたらと生き生きしている。休日だろうと仕事優先で、年始には必ず顔を見せろという約束を守らないくせに、ある日突然、ライアンの前に現れる時がある。その時は高確率で、彼にとってイヤな登場の仕方をするのだが、それでも彼は、最低でも一年に一度は彼女の元気な姿を確認しなければ、とりあえずキレそうになる。

 そして彼女の頭部に腕を振り下ろしたライアン、とりあえずすっきりした。「で、なに」

 だがケイラはつんと返す。「ムカつくからあげない」

 またこれだと、彼は呆れた。「本命はチョコ。おまけは小遣い。オレにとっては小遣いが本命。チョコがおまけ」

 彼女は頬を膨らませる。「あんた、ほんと可愛くない」

 「バレンタインにくるってことはそれしかねえだろ」そう言って、ライアンはあくびをした。「今何時?」

 「七時十分」

 さすがにぽかんとし、彼は壁にかかっている時計を確認した。七時二十分だった。

 「お前、もうちょっと常識をわきまえろ」ライアンが言えるセリフではない。

 「仕事まえなんだもん。しょうがないじゃん」そう言って、足元に置いていた赤い紙袋をシーツの上に乗せる。「はい、チョコ」

 彼女がなにを勘違いしているのか知らないが、ライアンはそれほどチョコレートが好きというわけではない。なんなら肉まんのほうが好きだ。

 「金は?」

 彼が訊くと、ケイラは呆れに天を仰いだ。

 「あんたマジでやだ。なんでそんなになっちゃったの? ハリー叔父さんのせい? しかもこの部屋の散らかりようはなに? バカなの?」

 昨日の放課後、帰宅してから部屋をひっくり返しはしたものの、ハリーと話したり電話したりでけっきょく、片づけは進まなかった。

 「黙れアホ」と、ライアン。

 ケイラはにやりとした。「あんた、あのベビーブロンド美人とつきあいはじめたんだって?」

 こんなところにまで話が伝わったのか。「だからなんだ」

 彼女は今年の年明け、親戚の集まりにはこなかったのに、数日後に突然、彼に会いにきた。それも、彼がレナと一緒にいる時にだ。

 「よし、結婚式には彼女も呼ぶわ」

 彼はまたもぽかんとした。「いや、結婚はまだだろ? 来年だろ?」

 「まあね。でも呼ぶ」立ち上がっり、ケイラは腰に両手をあてた。「あとね、私、四月から、通信だけど、もう一回高校生する。今度こそ高校卒業資格、手に入れる」

 またも突然だ。なぜこんなに突然が好きなのだ。「大丈夫かよ」

 だが彼女は微笑んだ。「うん。通信だから、そんなに学校行かなくていいし。通信はさ、事情あって高校行けなかったヒトってのが多いんだ。四十歳くらいのヒトもいるし。そんで四月から彼氏とも一緒に住む。再度高校生しながら結婚てことになるかもだけど、仕事しながらだし、大丈夫よ」

 ライアンにとって、ケイラの“大丈夫”ほどアテにならないものはない。

 ケイラが続ける。「高校卒業資格手に入れたら今度は大検。彼氏もオール了承済み。春休みあたりに会わせるね、彼氏」

 彼女がいくら幸せそうに笑っていても、ライアンの中の恐怖は消えない。

 「お前の男なんかに興味ねえ」と、彼は冷たく返した。本音だ。 

 「ムカつく奴だな。会ってよ。あとエリカは元気だから。高校やめて今はアルバイトしてるんだけど、四月からお祖父さんの会社に入るって」

 エリカとうのは、冬休みに彼が見た幽霊──ではないが、三学期からミュニシパル・ハイスクールに転校してくるはずだった女だ。地元であるインセンス・リバーでいじめを受けていたという。ライアンは一度一緒に海に行き、そこで、ケイラの話をした。

 なにかを吹っ切ったのか、エリカは転校をやめ、働くと言いだした。ライアンはよくわからないまま、カウンセラーの仕事をしているケイラの電話番号を教えた。

 ケイラが続ける。「んで、スー姉様が朝食作れって。約束だからって。あとね、お小遣いはその紙袋の中に入ってる。ジャックのぶんも入れてあるから、渡せるなら渡して。ってことで、私はもう行く。じゃあね」

 突然訪れた“嵐”は、やはり颯爽と帰っていった。

 ライアンは一階におり、スーザンとの約束に従って、朝食を作った。

 それはよかったのだが、昼食後に遊びに行くと言っていた妹のマーガレット──メグが、昼前から遊びに行くから弁当が欲しいと言いだし、しかも友達のぶんも作ってくれと言いだし、それどころかスーザンまでもが便乗して欲しいと言いだし、ライアンはなぜか、三人ぶんの弁当を作らされた。

 彼はキレそうになった。

 なのでそれを終えると、自室に戻ってまた眠った。

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